医学界新聞

 

診断基準の報告と,グローバルな研究発表

第42回日本糖尿病学会開催


 さる5月13-15日,横浜市のパシフィコ横浜において,第42回日本糖尿病学会が,松岡健平会長(都済生会糖尿病臨床研究センター所長)のもと,「Globalization of Diabetes Care」をテーマに開催された。今学会は,会長講演「新知見の患者教育への翻訳」をはじめ,特別講演3題,招待講演4題,シンポジウム7題などの他,1244題もの一般演題が発表され,日本糖尿病学会診断基準検討委員会の報告も発表された。また,招待講演では海外から4人の演者を招くなど,高齢化社会を迎え患者数がさらに増大していくと予想される糖尿病に関して,基礎と臨床の両面からグローバルな論議が交わされた。なお,パネルディスカッションでは腎症検討合同委員会による「糖尿病性腎症の病態と最新の治療ガイドライン」が報告された他,日本糖尿病療養指導士のスタートも確認された(続報掲載予定)。


患者教育の難しさ

 会長講演「新知見の患者教育への翻訳」では,松岡会長が生活習慣に治療が大きく影響する糖尿病の患者教育について口演。研究の発達による新しい知見を,どのように臨床応用していくか,いくつかの例をあげて説明した。
 この中で松岡氏は,1982年にケニアで開催された第11回IDF(国際糖尿病連合)会議で,ベルギーの教育チームが行なった発表に言及。「インスリン作用不足について患者に教えると,患者は『よくわかった』と言うが,結局,明確に良好な予後を示す解析結果は得られなかった」というベルギーからの報告をもとに,「他に影響する要素が多く,教育効果を分離して評価することは難しい」とし,また「在宅での食事療法などは,患者が理解していても途中で失敗することが多いので,失敗したときの対処法も教えるべき」と指摘した。そして,糖尿病性神経障害にも触れた上で,「主治医がクリニカル・ディシジョン・メイキングをし,糖尿病療養指導士が教育とヘルスケアを担当するのが好ましい」と語った。

分類と診断基準

 葛谷健氏(JA塩谷総合病院糖尿病センター)による特別講演では,日本糖尿病学会診断基準検討委員会(委員長=葛谷氏)による「糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告」を解説。学術評議員へのアンケートや,ADA(アメリカ糖尿病学会)の1997年の報告,WHOの暫定報告(1998年),昨年6月に行なった「糖尿病の分類と診断基準に関するシンポジウム」などをもとに,日本のデータと照らし合わせて作成されたこの報告では,(1)概念(下記),(2)分類,(3)診断,が定義された。分類には,“成因”と“病態(病期)”を分けるという新しい考え方を導入。これは成因の推定技術の向上によるもので,まだ100%成因を推定できるわけではないが,両者の混同を避けるほうが有用と判断した模様。診断は,糖代謝異常の判定区分,妊娠糖尿病,臨床診断,疫学調査,検診などの他,高齢者・小児の場合にも言及している。
 この委員会報告は,「糖尿病42巻5号」(日本糖尿病学会発行)に掲載される予定。

委員会報告による糖尿病の概念
(抜粋)
概念
:糖尿病は,インスリン作用の不足による慢性高血糖を主徴とし,種々の特徴的な代謝異常を伴う疾患群である。その発症には遺伝子と環境因子がともに関与する。代謝異常の長期間にわたる持続は特有の合併症をきたしやすく,動脈硬化症をも促進する。代謝異常の程度によって,無症状からケトアシドーシスや昏睡に至る幅広い病態を示す。