医学界新聞

 

特集 第25回日本医学会総会

シンポ「21世紀の救急医療」


市民に身近な救急医療であるための提言

 1998年4月に厚生省は,救急医療体制の一元化に向けて,住民や救急隊員にもわかりやすく利用しやすい救急医療体制を目標とした省令改正を行なった。そこでは,21世紀へ向けた新たな救急医療体制を構築すべく,「(1)救急医療に関する協議会の設置,(2)救急医療体制の一元化,(3)特殊診療科救急医療の体系化,(4)救急医療情報システムの充実,(5)救命救急センターの充実強化,(6)救急用ヘリコプターの導入,(7)プレホスピタルケアの充実」等を旨とする,「新たな救急医療体制」を打ち出した。シンポジウム「21世紀の救急医療」(司会=東大 前川和彦氏,川崎医大 小濱啓次氏)では,この「新たな救急医療体制」を視点に,救急医療に対する近未来像と提言が,5名のシンポジストから語られた。

21世紀に向けた救急医療とは

 一般市民の立場からは迫田朋子氏(NHK解説委員室)が登壇。救命救急センターを取材した経験から,「(1)現在,患者は搬送先を選択できないが,救急は公的なもの,(2)搬送だけではない,障害発生から社会復帰までを考えたシステムを,(3)家族への精神的な配慮,プライバシーの確保を,(4)積極的な発言ができる市民参加の場を」と提言し,市民とともに新たな救急医療システムを構築していく必要性とともに,「市民は救急の現場を知らない。市民の側が救急医療への認識を深めることも重要」との考えを述べた。
 また,土居弘幸氏(厚生省健康政策局)は,行政の立場から発言。救急医療体制の今後の検討課題として,(1)小児救急医療体制,(2)特定診療科の救急医療体制,(3)プレホスピタル体制,(4)広域救急患者搬送システム,(5)へき地・離島の救急医療,(6)高齢化社会に対応した救急医療体制,(7)O-157等の大量患者同時発生時の対応などを指摘。また,プレホスピタルケアの課題としては,(1)搬送先を調整する能力不足(たらい回しの続発),(2)救急業務に「医学的管理」が希薄(救急業務の質の向上を確保できない),(3)救急救命士の行為が限定(救命率の改善があまり期待できない)などをあげた。
 一方現場医師の立場からは,大北昭氏(大阪府医師会)が登壇。大阪府医師会による「救急医療体制体系図」を提示し,初期から3次に至る医療体制,および情報センターとの連携を解説。その上で大北氏は,新しい世紀の救急医療の問題点として,(1)救急医療体制の拡充,(2)救急医療情報センターと災害時医療体制,(3)低医療費政策の中での救急医療,(4)現場医師の労働条件,(5)教育・研修,啓発の5点を指摘した。
 また,箕輪良行氏(船橋市立医療センター救命救急センター)は,臨床研修,教育とプレホスピタルケアに関して発言。より基本的な領域での課題として,(1)プレホスピタルケアの向上,(2)卒前救急医学教育,(3)一般医の救急診療能力の向上をあげ,救急外来に求められる能力として,トリアージと重症患者の蘇生診断と治療や,病態判断に基づいた専門医との協同などを指摘した。さらに,同救命センターが行なっている臨床研修の経験からのまとめとして,「臨床研修中の若手医師にとって救命センター等での救急医療の研修は重要であり,医師としての自信や満足感にも影響した。第3世代の救急医にとって,救急医療の教育,プレホスピタルケアの充実,救急室の確立は,救命救急の“chain of survival”の実現に寄与する」と述べた。
 最後に大塚敏文氏(日本医大)が,日本救急医学会の立場から,救急医学と救急医療について概説。救急医療は,「さまざまな救急患者に対する初期診療を行なうと同時に,外因性・内因性疾患による特殊病態に対する専門的治療である」と定義した。その上で,「医師が過剰と言われる中で,救急医は不足している」として,救急医学の講座は43大学で28講座しか実施されていない状況を報告。また,卒前教育の重要性を説くとともに,救命救急センターでの臨床研修の必要性を指摘した。
 一方で日本救急医学会としては,ヘリコプターを用いた救急医療の推進を提言。救急医療専従の身分の確立のためのテリトリーとして,(1)救命救急センターや救急部における救急診療,(2)ドクターカー,ドクターヘリ等を活用した院外救急診療,(3)各病院内救急医療体制の構築,(4)医療従事者等に対する救急医学教育,(5)救急医学に関する基礎的ならびに臨床的研究をあげた。

21世紀の夢は

 総合討論の場では,「3次救急後のアフターケアをどうするか」を論議。「これに対しては民間病院を育てること」(大北氏),「病診連携が重要になろう」(大塚氏)と応えた他,関連して土居氏は「地方分権の時代はさらに続く。その中では情報開示が重要となる」と発言した。
 また「21世紀の夢は」との前川氏の問い対しては,「緊急事態が起きた時にはできるだけ早期に搬送してほしい。すぐに相談できるかかりつけ医のような救急医組織に」(迫田氏),「テレメディスンができるシステムを。救急医は医師の原点であることを理解してほしい」(土居氏),「医師が救急の現場にいくこと。119番した時の医療体制の向上」(箕輪氏)などの意見があった。加えて大北氏は,「金銭を考えなくてもよい医療ができること」と述べ,大塚氏は「医師免許を持つ者は,初期医療が全部できることが求められる。3次医療は医の原点ではなく,応用医学である」と述べた。
 まとめにあたって小濱氏は,「きたる21世紀には,救急医療が市民にとって最も身近な医療になることを望みたい」と述べ,シンポの幕を閉じた。