医学界新聞

 

21世紀に向けた整形外科治療の展望

第72回日本整形外科学会が開催される


 さる4月8-11日の4日間,第72回日本整形外科学会が,腰野富久会長(横市大教授)のもと,横浜市のパシフィコ横浜で開催された。

多彩なプログラムを企画

 本学会では,「整形外科学の新しい世紀に向けての発展を求むべく,これまでの整形外科医療の検証と外国から招聘した一流の整形外科医との討論を通して,世界におけるわが国の整形外科の立場の明確化を行ない,今後のさらなる発展の礎をすること」を目的に,「国際協調と21世紀へ飛躍する整形外科医療」が基調テーマとされた。
 なお今学会は,横市大医学部整形外科学講座が開講されて50周年となることから,「Surgical Infections-An Orthopaedic Success Story」( Lund大・スウェーデンL. Lidgren氏),「Future Trends in the Practice of Total Joint Surgery by the year 2005 : A Perspective」(Lenox Hill 病院・米 C. S. Ranawat氏)など,海外から演者を中心とした5題の「開講50周年記念講演」が特別企画として行なわれた。
 また,その他に「21世紀に向けての整形外科治療の展望」や「悪性腫瘍の治療のQOL」,「整形外科領域における生体材料の進歩」などの9テーマのシンポジウムや6題のワークショップ,15題におよぶパネルディスカッション,特別講演5題,教育研修講演24題など,1000題を超える演題発表が行なわれた。さらには,学会に並行して海外の各分野の第一人者と日本の気鋭のシンポジストが討論を交わす場として「International Orthopaedic Symposium in Yokohama」が開催された。
 一方では,整形外科周手術期看護のあり方や高齢者の骨折,リウマチ,脊髄損傷の看護とリハビリテーションをテーマとした「整形外科看護学・理学療法フォーラム」(本紙2239号にて既報)の他,渡辺淳一氏(作家)による特別講演や「スポーツと関節」などのセミナーを取り入れた「市民公開講座」も企画された。

医療の質と医学の進歩が問われる時代に

 最終日に開催されたシンポジウム「21世紀に向けての整形外科治療の展望」(座長=同学会理事長 黒川高秀氏,京府医大平澤泰介氏)では,桧田仁氏(衆議院議員・桧田病院長)が「21世紀に向けての整形外科治療の展望」を,立石哲也氏(通産省工業技術院産業技術融合領域研)は「整形外科分野における生体組織工学の展望」を口演。また,海外からの演者であるB. N. Stulberg氏(Cleveland Center for Joint Reconstruction・米)は「Total Joint Replacement in the 21st Century : Obstacles and Opportunities」を,阿部宗昭氏(阪医大)は「21世紀へ向けての骨折治療」を,石名田洋一氏(国立埼玉病院)は,「日本版DRG/PPS導入による,整形外科医療の変化(試行3か月の経験から)」を口演し,その後,フロアを交えた総合ディスカッションが行なわれた。
 シンポジウムの開催にあたり平澤氏は,アメリカの公的医療保険(メディケア,メディケイド)やマネージドケアの導入と問題点に触れ,「医師と患者関係に変化が起きており,医療の質と医学の進歩が問われるようになり,反マネージドケアの動きなども出てきている」と解説。また,21世紀の医療に関しては,「コンピュータ,低侵襲手術,ロボット手術,テレメディシンなどの先端医療技術の導入が図られるとともに,アウトカムとコストの改善,QOLとコストエフェクティブとの関連が問われるようになろう」と述べた。

日本版DRGに話題が集中

 引き続き行なわれた各演者による口演では,桧田氏は「整形外科出身唯一の国会議員」として,今後10年の医療制度,整形外科領域を解説。「これまでは国民皆保険制度の下で,国民も医師も医療費を考慮せずに治療にあたることができたが,経済の先行きが不安な時代にあっては,これからの医療は,常に医師も治療・入院費を考慮しなければならなくなる。カルテ,レセプト公開は整形外科医にとっても重大な問題。カルテの記載法も考えなければならない。また,整形外科の持つ特殊性を出し,他科との差別化を図らなければならない」と述べた。さらに,急性期・慢性期医療の診療報酬に関しても解説。「急性期では,日帰り手術が現行の4倍に,1週間以内の入院では3倍になるが,4週間からは下がることになる」などと述べ,注目を集めた。
 一方,石名田氏は,昨年11月から全国10病院(国立系8病院,社会保険系2病院)で試行されている日本版DRG/PPS(以下,DRG)導入に関して報告。それによると,国立埼玉病院での4か月間の実績では,DRG該当症例が502件あったが,そのうち整形外科領域は21件であり,収支と入院期間のバランスは一致した。今後は10病院での報告が中医協でまとめられ報告される見込みとのことだが,これらを踏まえ石名田氏は,DRGの問題点として(1)コスト意識,(2)医療の質の確保,(3)疾患群の数,内容の再検討などをあげた。
 総合討論の場では,黒川氏が「すでに導入が試みられているDRGが,開業医,若い医師に知られていない」と発言し,DRGについて,各医師が熟知する必要性を指摘。質疑応答では診療報酬の問題とともに,DRGの話題が中心となった。フロアからは,「どの程度がマルメになるのか」「DRGは,アメリカでも見直しが図られる中,日本で導入しようとしているが,学会としてもその意義などを検討する必要があるのではないか」「技術と診療報酬には関連がないように思われる。医師の技術料は評価されていないのではないか」などの質問や意見が出された。
 一方で壇上からは,「20世紀の医療界では,新しい技術が診療報酬に乗るのに時間がかかった。社会的意義からも早くするメカニズムを」(黒川氏),「DRGは金銭面だけが強調され,医療サイドの面からみていない。患者をみるのではなく,疾患をみている方式。医師の裁量権がないDRGではなく,現在の出来高払いの修正で維持していくのが最良策である」(桧田氏),「高齢者の増加とともに,大腿部骨折も増えている。卒後の骨折の教育が行なわれていない現状だが,今後はその頻度からも必要になろう」(阿部氏)などの意見が出された。