医学界新聞

 

エイズと感染
エイズ研究の新たな展開

レクチャー「エイズウイルス研究の進展」,他


新しいエイズ医療の可能性

 1981年の報告以来,エイズ研究は急速な展開を遂げている。83年にHIVウイルス分離,85年にゲノム解読,86年にはHIV受容体CD4が同定された。永井美之氏(東大医科研)によるレクチャー「エイズウイルス(HIV)研究の進展」では,95年に大きな変動を迎えたエイズ研究について,(1)ウイルスのライフサイクル(ウイルスと標的細胞の動的平衡),(2)HIV特有の感染,増殖とエイズ発症(ケモカインとケモカイン受容体),(3)HIV増殖を抑えるための化学療法(多剤併用療法)という3つの視点から概説。(3)については,新しい治療薬として非核酸系逆転写酵素阻害剤,プロテアーゼ阻害剤の開発と,多剤耐性HIV株,プロテアーゼ阻害剤への耐性の出現を述べる一方,エンベロープ蛋白(gp120),ケモカイン・ケモカイン受容体に的を絞った治療法の開発に新たな可能性が見出せるとした。特にワクチンの重要性を強調し,DNAワクチンの可能性を紹介。氏は現在のHIV-エイズ研究を「真のパラダイムの形成と制御可能な慢性疾患への第一歩を踏み出した」と位置づけた。
 エイズ医療の今後の課題として,(1)宿主の遺伝的・免疫的基盤の解明など感染と病態の実態,(2)荒廃した免疫系の再構築,新規治療薬の開発などの治療,(3)予防としてのワクチン開発など,の3点をあげて講演を結んだ。

エイズ治療の大きな進歩

 続いて行なわれた木村哲氏(東大)によるレクチャーシリーズ「エイズの治療法の進歩」では,ここ数年で,HIV感染症の病態が明らかにされつつあり,それと同時に新しい治療薬や治療法が開発され,画期的な効果をあげているが,ここでは3剤併用療法(HAART)を中心に,エイズ治療の新たな展開について概説した。それまで抗HIV療法の中心であった核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI)に加えて,新たにプロテアーゼ阻害剤と非核酸系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)が開発された。これらの3剤を併用した治療法により,患者のウイルス量が測定可能範囲を超えるほど減少すること,CD4陽性リンパ球の増加,日和見感染症,エイズ発症が減少するなどの効果が認められたことを報告。また実際の薬剤の組み合わせや薬剤選択のしかたなどの併用のしかたを紹介し,エイズ治療の可能性を示唆した。