医学界新聞

 

緊急テーマ
議論されたヒトへの影響

パネル「内分泌撹乱化学物質(環境ホルモン)」


 「環境ホルモン」という言葉は,近年大きくマスコミで取り上げられ,今や国民的関心事の1つになるに至った。そこで,本総会では「緊急テーマ」としてパネル「内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)」(司会=名市大 伊東信行氏,虎の門病院 紫芝良昌氏)を企画。特にヒトへの影響について,複数の分野の専門家が研究成果を報告した。

内分泌攪乱化学物質とは?

 「環境中の内分泌攪乱化学物質」を口演した伊東氏は内分泌攪乱化学物質(endocrine disrupting chemicals;EDCs)とは「生体の内分泌機能を変化させ,その結果,健康な生物またはその子孫に有害な健康影響を及ぼす外因性物質と定義されている」と説明。EDCsの影響が考えられているものとして,(1)先天異常,(2)精神発育障害,(3)免疫異常(アレルギー疾患の増加),(4)生殖機能低下,(5)悪性腫瘍の誘発をあげた。(4)(5)については「EDCsの一種が作用していることが明らかにされているが,他については根拠があるとは言えない」とし,それぞれのリスク評価を行なっていくことの必要性を指摘した。
 「内分泌攪乱化学物質の人体影響とその作用機構」を口演した井上達氏(国立医薬品食品衛生研安全性生物試験研究センター)は,「EDCsの生体作用の特徴は,基本的には受容体原性のホルモン(様)作用にある」と指摘。その特徴として,(1)種間交叉性が高い,(2)作用のプレイオトロピズム,(3)これに引き続く高次系と呼ばれる諸組織への作用,(4)逆U字型の反応曲線,(5)1分子の受容体に対する化学物質の反応に至るまで反応が連続的となるので,おそらく反応に閾値がない,などを示し,これらが人体への影響とその作用機序を捉えるための重要な点であると述べた。

生殖機能などへの影響が話題に

 一方,岩本晃明氏(聖マリアンナ医大)は,「男性生殖器への影響」を検討。近年,ヒト精子数の減少や精子の質の低下を指摘する報告が話題になっているが,岩本氏は自らが参加している,ヨーロッパでの「正常男性生殖機能の国際調査」の成果を踏まえ,報告を行なった。それによれば,ヒト精子数の減少や質の低下は認められなかったが,「精液検査上の問題点,難しさがそこにあること」を指摘。検査の精度を改善しながらの今後の研究に意欲を見せた。
 その他,本パネルでは,牧野恒久氏(東海大)が「女性性器への影響」を口演。「EDCsと雌性生殖機能の研究は,今ようやく端緒についた段階」との認識を示しつつ,「胚の発生源である卵巣臓器の中でこれら物質の影響がいかに展開されるか」について,研究成果を報告した。また,紫芝氏は「甲状腺への影響」を口演。PCBは「妊娠中に暴露を受けた母親から生まれた子どもは,低体重・成長遅延が見られる。PCBの中毒作用の機序と甲状腺ホルモン受容体の関係が想像されているが,未だ確証はない」と述べた。また,白井智之氏(名市大)は現在までに発表されている成果から「発癌への影響」について検討。「ヒトで発癌性が指摘されているものは,実はほとんどない」などと報告した。