医学界新聞

 

21世紀の医療
これからの医療政策の根幹を議論

パネル「21世紀の医療」


 パネル「21世紀の医療」(司会=政策研究大学院大 藤正巌氏,国立大阪病院 古川俊之氏)では,「人の基本的生存に関わる医療などの公共政策は,もはやその場しのぎの対策をたてることだけでは済まない」(司会者)との問題意識から,21世紀に必要な医療政策の根幹となる問題が取り上げられ,気鋭の研究者が議論を展開した。

「事前の規制」から「事後の規制」へ

 「国民経済から見た21世紀の医療政策」を口演した大田弘子氏(政策研究大学院大)は,医療における政府関与のあり方に着目。医療サービスの効率化を図る観点からその見直しを検討した。
 大田氏は,医療ではサービスの提供者と購入者の間に「情報の非対称性があり,完全に市場メカニズムに任せるわけにはいかない」としつつも,「現在ある規制は供給サイドを守るものになっている」と指摘。今後は徹底した情報の開示・整備に基づく,「需要サイドのチェック・選択」の重要性を説き,今日までの「事前の規制」から「事後の規制」への方向性を示唆した。具体的には,「保険者機能を強化し,格付け機関のように機能させる」,「病院経営に営利企業の参入を認める」,「病床規制の撤廃」などの提言を行なった。
 このうち,病院経営への営利企業の参入については,「既存の営利・非営利の区分は曖昧であり,非営利法人の実体が不透明である一方,実際には営利企業のほうが情報開示も進んでいる」実態から,「法人形態のあり方より,監督機能の強化のほうが大切だ」との考え方を示した。また,病床規制については「政府に将来の需要予測ができるのか疑問である」と指摘。規制撤廃により懸念される,地域医療機関の淘汰,地域ごとの医療資源の偏りなどについては,「別途,(経済的な)インセンティブをつけることによって,対策を講じるべき」と述べ,規制の原則撤廃の立場を明確にした。
 最後に,大田氏は「社会保障の役割は個人では対応できないリスクに対応」することであり,「個人で予測可能な範囲のリスクに対しては(医療費の)自己負担をあげ,予測不可能な高度医療・先進医療に対して重点的に(保険料を)給付すべき」と述べ,医療保険改革の1つの方向性を示した。 

共同体機能の外部化としての社会保障

 一方,「日本の医療保険改革と社会保障の未来」を口演した広井良典氏(千葉大)は,高齢社会とは「『後生殖期』が普遍化する時代」であり,「人類史の到達点/生命史の到達点」であると捉えた上で,かつての「家族・共同体機能の『外部化(市場化)』,そしてその『社会化』」として,社会保障を位置づける。
 広井氏は「『市場』をベースとしつつ,それを補完・修正する制度として」,また,「『個人』を基本的な単位として」これからの社会保障はあるべきとの基本的な考え方を示し,その具体的な方向性として「公的な保障はしっかり維持(自己負担増には慎重な立場を示す)」した上での「情報開示の促進と市場原理の導入」を示唆した。
 さらに今後の課題として,「医療技術政策の確立」,「『ケア』としての医療の充実」をあげ,現在が大きな医療政策の転換期にあるとの認識を示した。