医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


利用者本位のケアマネジメントのノウハウが詰まった本

ケアマネジメントハンドブック 白澤政和 著

《書 評》首藤徳子(あすか山訪問看護ステーション)

 在宅ケアが推進される今日だが,マネジメント不足に加え,社会資源に対する利用者の認知が薄く,介護に明け暮れている家族の姿を訪問先で目のあたりにすることが多い。「なぜこんな状況になってしまったの」と思うこともよくある。
 先日もこんな利用者に遭った。
 経済的にも裕福な家庭である。娘2人が介護にあたり,食事から排泄,褥創処置まで,それはもう至れり尽くせりといったケアが提供されていた。しかし,社会資源の活用がなされず外部のサービスがまったく入っていないため,褥創の治癒にも時間を要していた。家族も,その状況を当たり前のこととして受け止めていた。
 そこで看護相談を行なって介護負担の軽減を図りつつ入浴サービスやエアーマットを使用していくと,創傷は1か月半ですっかり治癒した。家族からは「ただ一生懸命で,よくしたいという一心でがんばってきたけど,何も知らなかったんですね」という言葉が返ってきた。その時,「社会資源の活用」などと言っても世間一般にはまだまだ認知されていないことなのだと,あらためて実感させられた。

Q&Aで読みやすい

 看護婦は看護を提供する際,社会像・生活像も含めたアセスメントを行なってケアを提供するよう教育されているが,福祉の面には精通しておらず,疎い。またそのためか,健康上の問題を優先する傾向がある。逆に福祉関係に属していれば,その反対のことが起こっていると考えられる。この弊害をなくしていくためにも,双方の連携やコミュニケーションが必要となってくる。そうすることで,以前より広い意味で患者の生活に則した計画が立案され,真の意味でQOLを追求したケアが提供できるのではと考える。
 このようなことを考えていた矢先に,ケアマネジメントの必要性を説いた本書に出会った。看護婦として私自身がかねがね感じていたことがコンパクトにまとめられていて,実にスムーズに読むことができた。全体がQ&Aでまとめられていることも,読みやすさの一因かもしれない。

サービスをあてがうのではなく

 本書は,次の5部で構成されている。
Iケアマネジメントとは何か
IIよいケアマネジャーになるために
IIIこうすればできるケアマネジメント
IVケアカンファレンスと地域ネットワーク
Vケアマネジメント機関に求められること
 Iの《ケアマネジメントとは何か》では,「いまなぜケアマネジメントが必要なのか」に始まり,「ケアマネジメントと介護保険との関係」,「利用者のニーズがどこにあるか」,「自立を支えるケアマネジメントとは何をいうのか」,「チームアプローチの重要性」などについて述べられており,介護保険下におけるケアマネジメントの今後の方向性を示唆してくれる。
 IIの《よいケアマネジャーになるために》では,ケアマネジャーの基本的資質やニーズ把握の方法について解説している。さらに著者は,これらの技術の前に「要援助者をどうみるか」という価値観や,それを踏まえた面接の重要性を強調しているが,訪問看護においてもこの部分は特に重要である。私たちは,サービスをあてがうのではなく本当に求めているニーズを見きわめ,相手の立場に置き換えて考えなければ看護にならないことを知っている。ここで再度「利用者の立場に立つ」ことの意味を問い直す機会にして活用するのもよいだろう。

実務研修の参考に

 後半のIIIからIVまでは,実際にケアマネジメントを行なう時の具体的な方法が詳細に述べられている。介護支援専門員の実務研修の際に参考にしたり,現場で疑問が生じたときのQ&Aとして事例等を活用するのも一法かと考える。いずれにしても,介護を必要としている高齢者は,住み慣れた地域での生活を希望する人がほとんどである。ただ単に地域での生活が継続できるだけに終わらせず,QOLを視野に入れたかかわりをしていきたい。
 「利用者本位のケアマネジメント」をめざすなら,ケアマネジャーとしてかかわる人はもちろん,チームの一員としてかかわる人にとっても,そのノウハウを簡潔にまとめた本書を活用することをお勧めする。
A5・頁192 定価(本体2,000円+税) 医学書院


「自分自身」を表現してみませんか

ナースのためのスピーチ作法 
読んだ,わかった,話した
 バリー J. カプラン 著/岡喜美子 訳

《書 評》田中マキ子(山口県立大学・看護学部)

「力」を持つ言葉を伝える

 「地域・在宅看護」が推進される今日,看護職の活躍の場は施設外へと広がりつつあります。このような社会状況の変化は,チーム医療を現実のものにすることに役立つとともに,他職種との共働・連携の重要性を一層増すものとなります。そこで私たちに必要とされることは,タテマエの言葉ではなく,対する相手を揺さぶるようなメッセージを伝えることではないでしょうか。コミュニケーションの質の向上と言い換えることができるのでしょうが,タテマエの言葉では人は連携することができないと思うのです。
 本書は,こうしたニードに応えてくれるものであり,効果的にメッセージを伝える方法を伝授してくれるものです。言葉の空洞化が叫ばれる今日,公の場において発言する機会も増えてきている私たち看護職にとって,効果的に自分の考えや思いを伝える技術を持つことは重要なことです。空洞化とは,言葉が何も力を持たなくなった状態と理解しますが,日々の患者・家族との対応や,あるいはさまざまな医療スタッフとの関わりあいの中で,力を持つ言葉を私たちは持たなくてはならないでしょう。
 本書では,メッセージを伝える中でタテマエの言葉にならないような工夫や方法が,さまざまな場面展開において駆使・応用できるよう具体的に紹介されています。言葉に心を寄り添わせる工夫が,たくさん盛り込まれているのです。

「あなた」を伝える方法を教えます

 また本書には,さまざまな場面におけるスピーチを通して,言葉に心を寄り添わせる工夫が展開されています。つまり,言葉に自分自身を寄り添わせる方法です。スピーチをどこでするかから始まり,原稿の書き方から準備,そして実際に行なう際に注意することなど。さらに,病棟でのミーティングからカンファレンス,あるいは面接や電話での対応まで,実に多岐に渡った場面を考慮して,私たちに効果的なコミュニケーション技術を教えてくれます。
 「看護職がもっと上手に自分を表現できるようになってほしい」とする筆者の願いが,効果的な表現技術を繊細かつ具体的な方法でもって提示してくれています。
 私も時々,講演や学会発表などでスピーチをしますが,準備万全でありながらも緊張のあまり上手に伝えられなかったり,逆に準備不足のために慎重となり,聴衆の反応を観察しながら言葉を選び,タイミングを図りながらスピーチすることで,かえってうまくいったりという場合もあります。しかし,いつも不安感はつきまといます。このようなスピーチに対する不安感や,「人前で……」といった嫌悪感を,本書は実に見事に解決してくれるのです。
 本書を読むと,スピーチや発表には,出来不出来を左右する「コツ」があることがわかります。その「コツ」をうまくつかみさえすれば,スピーチや発表を楽しみながら,ありとあらゆる人々とのコミュニケーションが図れるように,自分自身を表現するための実用的で具体的な方法を身につけていくことができるでしょう。
 今後,私たちにはますますスピーチの場や機会が増えてきます。そのチャンスを有効に生かし,「自分自身」を表現してみませんか。力を持った言葉を携えて,「あなた」らしさを表現してみましょう。効果的で人を動かすダイナミックな話術は,構成され練り上げられたストーリーから生まれるばかりでなく,自分自身の言葉に心を寄り添わせる中に生まれるものと思います。
 ぜひ本書より,その「コツ」を盗んでみませんか。
A5・頁136 定価(本体1,800円+税) 医学書院