医学界新聞

 

第1回朝日看護セミナーが開かれる


 第1回朝日看護セミナー「クリティカル・パスのすべて」(共催=医学書院・朝日新聞社)が,さる3月27日,名古屋市の名古屋朝日ホールにおいて開催された。朝日新聞社は,これまで医師の生涯教育を目的とした各種セミナーについてはすでに四半世紀の歴史を持っているが,看護領域の開催は今回が初めて。看護管理者にとって現在もっともホットなテーマである“クリティカル・パス(以下,CP)”が取り上げられた。

CPの理論と実践

 セミナーでは,まず看護界におけるCP研究の第一人者である阿部俊子氏(東医歯大)が「CPの理論と実践」と題して講演。 阿部氏は,近著『クリティカル・パス-わかりやすい導入と活用のヒント』(医学書院刊)の中で,その歴史的背景に言及し,「CPは産業界のプロジェクト管理手法の1つであるCP法から連想されて生まれたケースマネージメントの概念であり,今世紀に一般産業界で発展を見せたインダストリアルエンジニアリングの思想が息づいている」と述べているが,このセミナーにおいてもCPの創始者カレン・ザンダー女史の功績を強調(詳細は本紙第2332号「鼎談:クリティカル・パス-その導入へ向けて」を参照)。また,ガンツチャート氏による医師のチャートやPERT(program evaluation and review technique)と呼ばれる1950年代の軍事技術・宇宙開発の生産工程を紹介した後に,CPの理論骨子を次のように概説した。
 「CPの基本原則」としては,(1)時間軸,(2)ケア介入,(3)バリアンス(変化要因),(4)ケアの標準化などが,また,「CPの利点と目的」としては,(1)インフォームド・コンセント,(2)チーム医療,(3)共通言語ツール,(4)在院日数の短縮,(5)教育オリエンテーションツール,(6)ケアの標準化,(7)退院プラン,などが上げられる。
 次いで阿部氏は,「CPの作成方法」,「CPの使用方法」,「CPと記録」,「CPを使用する際の留意点」,「バリアンスの考え方」を詳しく解説し,CP実践によるアウトカム(到達目標)の問題に触れて,(1)入院費用などの経済的アウトカム,(2)在院日数,合併症の発生などの臨床アウトカム,(3)ADL,認知レベルなどの機能アウトカム,および(4)患者,スタッフなどの満足度を指摘した。

CP導入によるチーム医療の達成

 続いて,わが国にいち早くCPを導入した須古博信氏(済生会熊本病院長)は「クリティカル・パス導入によるチーム医療の達成」と題して講演。
 同病院は1996年9月からCPを医療チームとして使用しているが,須古氏は前掲書で,「CPが医療スタッフに抵抗なく受け入れられた秘訣は,導入目的を患者のインフォームド・コンセントに使用するということで使い始めたことにあり,もしもこれが,CP導入目的にケアの標準化を前面に出していたら,医療スタッフの抵抗も大きかったと予測される」と述べている。
 また,CPの病院全体への波及を目的とした,チーム医療推進の起爆剤としての“CP大会”について,「ここでは,病棟で作成したCPの事例を発表して貰い,作成に関与した職員をパネリストとして参加者との間に討論を行ない,他病棟とも意見交換が活発になされた」と報告しているが,今回のセミナーでは,2か月に1度開催し,現在10回を数えているこの“CP大会”をさらに詳述。CP大会がもたらした効果として,(1)パス表(患者に対して医療の専門職がそれぞれの専門知識や技術を,タイミングよく提供し,協同して作り上げた統合された診療工程表)の全院的拡充,(2)チーム医療の推進(コ・メディカル部門の発言の高まり),(3)パス表の充実,(4)業務内容の改善,(5)クリエイティブな発想の出現,(6)患者主体の考え方の浸透,などを上げた。
 CP導入の成果として須古氏は,(1)インフォームド・コンセントの充実,(2)チーム医療の前進,(3)業務改善,(4)職員の活性化,(5)患者・家族の治療への参加意欲の芽生え,(6)在院日数の短縮化,(7)連携医療・自院の役割の再確認,(8)職員の意識改革,を指摘するとともに,「わが国でのCP法に対する評価はいまだ行なわれていないが,自験例から,CPの導入はわが国に欠けていた医療チームの形成とチーム医療達成の有力なツールの1つになる」と強調して講演を結んだ。