医学界新聞

 

「宅老所・グループホームとは何か」を論議

全国痴呆症高齢者宅老所・グループホーム研究交流フォーラム'99開催


 全国痴呆症高齢者宅老所・グループホーム研究交流フォーラム'99(実行委員長=みやぎ宅老連絡会長 築茂三郎氏)が,さる2月27-28日の両日,仙台市の東北福祉大学を会場に開催された。


「痴呆症ケアの切り札」になるか

 宅老所とは,昼の間,民家などを借りて痴呆の高齢者を預かるもので,「民間デイサービス」の1つ。一方グループホームは,昼間だけでなくそこで寝泊まりもする共同住居をさす。いずれも全国各地で“草の根”的に広まったが,現在では施設収容型ケアに対置されるべきものとして,介護保険下でも“公認”されるに至った。
 昨年初めて開催された研究交流フォーラム(1998年2月28日-3月1日,宮城県松島町)」には,当初予定の300人を大幅に超える800人の参加者があったが,今年の参加者は800人の予定が1300人までに膨れあがった。現場はもとより,行政・社協,企業関係者の参加が目立ったが,特に介護保険を進める厚生省からは,演者として辻哲夫大臣官房審議官,山崎史郎老人福祉計画課長をはじめ同課長補佐と地域福祉専門官が登壇するなど,「痴呆症ケアの切り札」として宅老所・グループホームに注目している様子がうかがわれた。
 また,担当課員全員が自費で参加をしたという地方自治体もあり,「施設か在宅か」という従来の枠組みに収まりきれない宅老所・グループホームに対する行政の関心の高さが表れていた。

施設ケアへの反省を促す発言が

 同フォーラムでは,初日に2つのディスカッションが行なわれた。「宅老所・グループホームの熱い思いを伝えたい」と題した第1部では,全国から5人の先駆者たちが「なぜ開所するに至ったか」を中心に論議。第2部は,「宅老所・グループホームとは何かを整理する」で,宮城県の研究委員会から全国アンケート調査結果の中間報告が行なわれた。
 2日目には,「特養(特別養護老人ホーム)の宅老所・グループホームへの取り組み」などの12の分科会が行なわれた。同分科会での冒頭では,前日のディスカッションで施設ケアへの風当たりが強かったことを受け,「プロの介護者としての誇りを持ちつつも,施設では“上下の関係に基づくケア”という側面が強かったことを反省しなければならない」との発言があった。また,特養や病院は,「自らの施設型ケアを一定程度批判した後に,グループホーム開設に進む」という入り組んだ道筋を辿らなければならない苦しさも露呈された。

社会資源としての位置づけを予見

 さらに,午後からはディスカッション「介護保険下における宅老所・グループホーム」が開かれた。この席で,辻審議官(厚生省)は「一定程度の質を担保するためには“性悪説”に基づいた規制はせざるをえない」という立場を強調。これに対し浅野史郎氏(宮城県知事)は,持ち前の地方分権論から「事前に全国一律の基準を作ろうというほうが無理。基本的に自治体に任せて情報公開とオンブズマンに事後的に質を担保するしかない。国が一律にやるよりも,うまくいった自治体の方法をまねればよいのであり,そのほうがリスクヘッジもできる」との意見を展開した。
 宅老所・グループホームは,「施設か在宅か」というケアの先入観の転換を促すだけでなく,全国一律・平等・公平をモットーとするこれまでの行政の準拠枠自体をも揺るがすことにもつながると推測できる。
 現在,宅老所・グループホームは勃興期であると同時に,全国にシステムとして拡大する時期に来ているとも言える。今後は大規模専門施設や病院で痴呆症をみるのではなく,「痴呆は地域でみる」という動きがますます加速し,宅老所・グループホームは,その重要な資源として位置づけられることを予見させる集会であった。