医学界新聞

 

日本最大規模のOSCE

学生・教員とも準備にぬかりなし


教員も勉強

 東京医大では1997年よりOSCEを導入すべく,教員向けに学内でOSCE主体のワークショップを開催し,臨床を重視した教育をめざして準備を進めてきた。そして1998年4月には形成的評価としてのOSCEを6年生に対して実施。これには総括的評価としての導入をみこした「トライアル」の意味もあり,ここで得られた教訓を活かし,今年のOSCEを行なった。
 また,OSCEの導入に合わせて「BSLノート」と呼ばれるBSL(ベッドサイドラーニング)用の学生向けハンドブックを大きく刷新。内容を充実させ,ローテーションする各診療科ごとにBSLの目標や学習内容を明確化した。OSCE実施の責任者である松岡健氏(第5内科教授)は「OSCEをBSLの最後に設けたことにより教員側にも学生側にもよい意味で緊張感が生まれた。教員もしっかり教えたし,学生もよく学んだと思う」とその効果を指摘する。OSCE導入にいち早く取り組み,その手本となってきた川崎医大の津田司氏(総合診療部教授)も,今回のOSCEを見学し,「(医療面接などで)患者に接する態度や話し方が,(昨年のトライアルに比べ)洗練されている。よく教育されているし,学生も学んだようだ」と合格点を与える。

学生側も鋭く反応

 受験する学生の側も準備に追われた。市販されている診察マニュアルや,インタビュー・基本的診察手技の実演ビデオなどを参考に演習を重ねるなど,「正攻法」の学習に取り組む一方,昨年にトライアルを受けている先輩たちや,既にOSCEを導入している他校の友人たちからの情報収集にも力を入れた。ある学生たちのグループに至っては自作・自演で「OSCE対策ビデオ」を作成するほどの力の入れよう。これはダビングされ,学生たちの間に出まわったようだ。「試験対策もここまでくると脱帽だ」とある教員は呆れ顔。しかし,学生が積極的に基本診察手技を身につけようとしていることの表われでもあり,「このこと自体がOSCE導入の成果」(松岡氏)でもある。
 試験直前の控え室では,お互いの体を使って診察の練習をしたり,CDプレーヤーで聴診の練習をするなど,独特の試験直前の光景が見られた。また,多くの学生が独自にOSCE対策の要点をまとめたペーパーを準備し,診察の手順・留意点などを試験直前まで必死に暗記していた。

OSCE対策の成果やいかに

 OSCE終了後の学生に感想を聞いてみると,「OSCEを実施するのはとてもよいこと」と口を揃える一方で,「進級判定に用いられるのには抵抗感がある」と漏らす学生もいた。いくつかの学生の声を紹介する。
◆一生懸命学習したが,緊張し過ぎて手順を誤るなど力を発揮できなかった
◆学生同士で模擬患者になりあって学習した。新鮮な経験で医師に一歩近づいた気がする
◆どこが評価の対象でどこが評価の対象ではないのかが明確ではなく,評価される側としては取り組みにくい
◆新しい評価法の導入ばかりが先行して,教育の中身がそれについていっていない感じ。十分な教育を行ない,それを評価するという一連の流れが未整備ではないか
 以上のように,中には手厳しい評価もある。これに対して,松岡氏は「OSCEは点数を争うものではない。患者さんを前にしても恥ずかしくないように,日ごろから基本的技能の習得に努力していれば怖れる必要はない」と学生側の過剰な反応に当惑を見せる。だが,その一方で,「日本の医学部で臨床教育が軽視されてきたのは事実である。ここ数年,学内で教員向けワークショップを開催するなど,教育内容の改善には力を入れてきているが,まだ十分とは言えない。われわれ教員もBSLを充実させる地道な努力を続ける」と述べ,より一層の教育改革に意欲を示した。
 今回のOSCEでは,学生たちの必死の勉強が実り,1人の留年者もなく全員が合格し,6年生へ進級した。しかし本当の成果は,来年,彼らが研修医になったときに試されるはずだ。東京医大の教員たちはその時を楽しみにしている。

胸部の打聴診
体育館は寒い。模擬患者が風邪をひかないようOSCEの開始前から暖房が入れられ,ストーブも炊かれた