医学界新聞

 

ICUにおける意識障害対策を論議

第26回日本集中治療医学会より


 第26回日本集中治療医学会が,さる3月3-5日に,千葉市の幕張メッセで開催された(本紙1面参照)。
 同学会での教育講演は2題。「意識障害に対する新しいアプローチ」(日大 林成之氏)と「難治性心不全の集中治療の限界と心移植」(日医大 高野照夫氏)が行なわれたが,本紙では前者およびその後のパネルディスカッション「ICUにおける意識障害の病態とその対策」を報告する。

脳低温療法の可能性

 教育講演で林氏は,「意識障害の段階や植物症患者の中には,意識がなくとも周囲のことを理解していることがあり,脳蘇生の限界といわれ死の3大徴候である瞳孔散大,心停止,呼吸停止があっても回復する患者はいる。これは治療が有効であったためと思われるが,説明できない現象であり,この現象は特に脳低温療法を受けた患者に多くみられる」として,内因性の意識障害に対する脳保護対策と新たな概念での診断と具体的な治療法を解説した。
 林氏は,重症脳損傷に伴う意識障害の発生機構について,「一時的な壊死やアポトーシスに伴って発生する脳浮腫,頭蓋内圧亢進でのグルタメート放出亢進に関係している」と述べた。
 また,脳の組織は34℃でドーパミン放出が「0」になることをあげ,「急性期は脳温を下げることでドーパミン放出を抑制できる」とし,「なぜドーパミンだけなのかは不明」としながらも,「ドーパミン補充療法の工夫で植物症,記憶知能障害,高次神経機能障害からの脱却が容易になってきた」と述べた。
 その上で林氏は,「心停止の患者の低脳温管理の回復率は絶大だが,低温での弊害も大きい」と述べ,脳低温療法に関して「酸素量が十分でないと効果はなく,単に冷やすだけでは間違い。冷やしながら,いかに酸素を供給するかが重要」と指摘。急性期脳低温療法のデメリットとして,「下垂体ホルモンが低下し,リンパ,CD4の低下に伴い免疫不全に陥ることがある。脳温32℃でグルコースは減少,34℃で脂質代謝がプラスとなるなど,糖代謝から脂質代謝へと代謝バランスが変わってくることから,糖尿病体質となり病態悪化を引き起こすこともあり,脂質管理がポイントになる」ことなどをあげた。
 まとめに当たって林氏は,「今後は,集中治療の看護法やどう管理するかの方法論を,医師と看護職がまったく同じレベルで解決していくことで,この治療法は大きく進展するものと考えている」と述べた。

意識障害患者へのさまざまなアプローチ

 教育講演に引き続き行なわれたパネルディスカッションでは,前川剛志氏(山口大),福家伸夫氏(帝京大市原病院)両氏の司会のもと,7名のパネラーが登壇。
 守谷俊氏(日大)は,正中神経刺激療法によりドーパミンが上昇,臨床症状改善群では約3倍となったことなどから,「正中神経刺激療法は,重症頭部疾患に対する急性期後療法として効果的。侵襲が少なく容易で安全な治療法なことから,今後は脳低温療法を含めた集中管理後の新しい治療法となりうる」と可能性を示唆した。また,財津昭憲氏(九大)は,「表情や自動運動のある植物症患者は,脳低温療法により回復の可能性がある」と指摘し,伊藤靖氏(札幌医大)は,高齢者の蘇生後脳症に対する脳低温療法の適応と限界について考察。「施設内に暫定的に用いてきた80歳の年齢制限は再検討の必要がある」と述べた。
 一方,定光大海氏(山口大)は,敗血症性脳症に関して,「それ自体が致命的になることは稀」としながらも,著しく脳酸素消費量低下と脳血流量の減少が特徴であることから,「中枢神経機能の客観的指標と免疫を含む生体防御機構との関係の検討が重要」と示唆。石井健氏(東大)は低酸素脳症の臨床について,また,町田徹氏(関東逓信病院)は意識障害におけるMRI機器の現在と今後の進歩および救急医学への貢献を展望した。最後に登壇した国元文生氏(群馬大)は,ICUにおける鎮痛・鎮静法ガイドライン作成の必要性を主張した。