医学界新聞

 

「急性臓器不全に挑む」をテーマに

第26回日本集中治療医学会が開催される


 さる3月3-5日の3日間,第26回日本集中治療医学会が,平澤博之会長(千葉大教授)のもと,「急性臓器不全に挑む」をテーマに,千葉市の幕張メッセで開催された。
 本学会の医師部門では,一般演題330題の発表をはじめ,招請講演や会長講演の他,海外からの講師を含めた特別講演6題および教育講演2題が行なわれた。なお,特別講演に引き続いてそのテーマに関連したシンポジウムが6題,教育講演の後にはパネルディスカッション2題も企画されたが,特に特別講演(1)“SIRS, MODS, MOF:Are We Making Progress? ”(セントルイス大 Arthur E. Baue氏)の後のシンポジウム(1)“Pathophysiology, Prevention and Treatment of Multiple Organ Failure”はInternational Symposiumとして位置づけられ,日・米・独・豪・スウェーデン・ベルギーから参加の演者により,多臓器不全に関する熱い討論が交わされた。
 本号では,これらの中から会長講演と急性臓器不全に関する7題のワークショップから,および教育講演Ⅰおよび引き続き行なわれたパネルディスカッションを報告する(2336号に看護部会の報告を掲載予定)。


多臓器不全の治療から予防へ

 平澤会長は,「集中治療の究極の目的は,急性臓器不全の治療あるいは予防である」との考えから,「多臓器不全の臨床-その病態,予防,治療」を講演。「1970年に発表されたBaue氏の論文が,MOF(多臓器不全)研究の転機となった」と前置きし,「1980年に『救急医学』誌に発表したMOF研究論文は,国内初のオリジナルな論文と自負している」と述べた。
 またMOFは,「各種侵襲による臓器を形成する細胞の機能不全から臓器不全にいたるもの」であり,CIS(cellular injury score)を用いてMOFの重症度を評価し,「多臓器不全は細胞の不全(死亡)の固まりで,CISに相関する」と述べたが,アポトーシスとの関連については現在研究中であることも明らかにした。
 その上で,平澤氏はMOF治療のポイントとして,(1)臓器不全発症の病態の解明と把握,(2)重症度の評価,(3)背景病変である感染発症に対する根治的処置,(4)cellularポイントのサポートなどのICUの集学的治療,(5)humoral mediator(特にサイトカイン)に対する対策,(6)重症患者における循環管理の目標としての持続的血液濾過透析の有効性などをあげ解説。さらにMOFの予防対策,将来展望として,「重症化する可能性の高いSIRS(全身性炎症反応症候群)症例を早期に診断し,より積極的な治療管理を施行すること」をあげ,救命率の低いMOFの治療成績を改善するためには,予防が重要になること,そのための病態生理のより詳細な解明とその対策の必要性を指摘。今後の不全臓器対策,治療には,「生体に有利な,よりよい人工補助療法の開発が望まれている」とまとめた。

保険診療下でICUが抱える問題

 ワークショップ「保険診療下での集中治療の問題点と対策」(司会=岩手医大 平盛勝彦氏,昭和大藤が丘病院 高橋愛樹氏)では10名の演者が登壇。「病院の中の不採算部門」とされるICUをめぐり,保険診療下においてどうあるべきかが論議された。なお,10演題は以下の通り。
 (1)特定集中治療室管理料加算のない大学病院ICUにおける保険診療上の問題点と対策(慶大 森崎浩),(2)急性中毒治療における医療費の現状(日高病院 田中淳介),(3)当院ICUにおける査定率低下のための工夫(前橋日赤病院 中野実),(4)社会保険診療報酬請求書審査会特別審査委員の立場から(群馬大 横江隆夫),(5)急性心筋梗塞の在院日数と入院診療費用の検討(関西医大 岩坂壽二),(6)80歳以上の高齢者の集中治療の問題点(昭和大藤が丘病院 刑部義美),(7)集中治療部における薬剤使用は適切か(名大薬剤部 梅村雅之),(8)保険診療下での集中治療の現況,問題点と対策(札幌医大 今泉均),(9)CCUにおける保険診療上の問題点(岩手医大 鈴木知己),(10)日本集中治療学会社会保険委員長としての立場から(自治医大 窪田達也)。
 これらの中で横江氏は,「医療費の高騰とともに今後さらに査定は厳しくなる」と指摘し,岩坂氏は,「包括支払方式の前に重症度を踏まえた方式やガイドラインの確立が考えられるべき」と主張した。
 窪田氏はICUが抱える社会的問題として,合併症の重複化による多臓器不全化の増加,(2)MRSA感染症などの難治化,(3)医師-患者・家族間の信頼関係再構築の必要性などをあげた。その上で,学会として厚生省や日本医師会へ向けた要望書の内容については,「(1)人件費に見合う管理料の加算,(2)治療の長期化に伴う管理料の延長,(3)合併症発症に伴う再入室加算の認可をあげ,「救急,ICUがあることで病院全体の活性化が図れる」とそのメリット述べた。
 総合討論の場では,特定加算のための方策,採算優先,高齢者,インフォームドコンセントの問題などが議論された。窪田氏は最後に,「ICUは不採算部門ではあるが,病院の核となるところ」と述べ,司会の平盛氏は「ICUは臓器不全に挑む最先端部門」と主張し,ワークショップを閉じた。