医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


整形外科医の日常診療に欠かせない1冊

股関節の外科 石井良章,他 編集

《書 評》稗田 寛(門司労災病院副院長)

 第25回股関節学会学術集会開催と時を同じくして『股関節の外科』が発刊された。第1回時の学会誌Hip Joint Volに伊丹教授が「股関節を制するものは,整形外科を制する」と記載しておられる。本書はまさに股関節を制するものにとっての入門書として,また整形外科日常診療にあたり卓上に欠かせない1冊である。
 第1部総論では,第1章「股関節の解剖と生理」,第2章「臨床所見のとり方」,第3章「検査法」,第4章「保存療法」および第5章「手術療法」と分類され,第1章では関節の発生とこれに伴う形態,血管系などの変化,さらには解剖学的ランドマーク,生体力学と,初心者にもあたかも推理小説を読んでいるかのような次々と興味がわく見事な配置とわかりやすい内容である。第2章,3章では常に全身疾患とのかかわりに目を向けた病歴の聴取,診察,検査法が述べられ,超音波検査,サーモグラフィーの有用性の記載は,健康保険審査にもこれらの検査法が地位を確立する一助になると思われる。

生き生きした現場からの情報が満載

 第2部成人編では,まず第6章で「症候からみた股関節疾患」を設け,外来患者診察にあたっての準備がなされている。第7章「代謝性疾患と全身性疾患の部分症」,第11章「慢性関節リウマチと類似疾患」は序で述べられているように一般には全身性疾患の部分症として記載されていた部門が股関節から全身性疾患へと目が向く配慮がなされている。第9章「変性疾患」,第15章「外傷性疾患」,第17章「人工股関節全置換術」など手術術式の記載は第一線で活躍している方々の生き生きした現場からの情報が満載され,診療のこつ,手術術式のこつを知ることができる。願わくば本書が股関節の外科診断編,手術術式編へと発展することを期待する。
 第3部小児編も第18章「骨系統疾患」,第20章「代謝障害」,第22章「自己免疫疾患」,第23章「血液疾患」など,一般の整形外科医が日常の診療で助けを求めたくなる部門がきっちりと記載されている。また,掲載されたレントゲン像も適切で,家族への説明にも大変有用である。
 本書を通読してまず感じたことは,
(1)読みやすい。執筆者71名からなるが文体が統一され,各部門簡素にまとめられている
(2)3人の編集の方を含め,第一線で活躍されている方々の日常の診療,手術経験に基づいた内容である
(3)慢性関節リウマチと類似疾患,代謝性疾患と全身性疾患の部分症など,日頃整形外科医が怠りがちな全身疾患への注意を促している
(4)総論から成人編・小児編と展開し,臨床実習の学生にも十分理解可能な構成と内容である
(5)実際の診療にあたり手軽に辞書として活用でき,研修医から専門医まで座右の書として有用である
B5・頁560 定価(本体18,000円+税) 医学書院


胸腺とT細胞の魅力に触れることができる好書

胸腺とT細胞 T細胞はこうしてつくられる 桂義元,広川かついく 著

《書 評》宮坂信之(東医歯大教授・内科学)

 胸腺とは心臓の前側に位置する小さな臓器。ハーブのタイム(thyme)に香りが似ていることからthymusと名づけられたという。その胸腺でT細胞は分化をし,教育される。また一方で,多くのT細胞は胸腺内で死滅する。不思議な臓器である。T細胞のTは,胸腺(thymus)のTに由来することから付けられた記号である。
 この胸腺の魅力に取り憑かれた2人の学者がこの本の著者である。1人は基礎免疫学者,もう1人は免疫病理学者。2人が絶妙のコンビで胸腺とT細胞を語っている。前者は関西,後者は関東出身であるにもかかわらず,前者の語り口が「濃い口」で,後者が「薄口」であり,そのバランスの妙がおもしろい。
 普通,免疫学の解説書は多数の著者の手になるために,ともするとポリシーが曖昧となり,内容に統一性を欠くことが少なくない。しかし,この本は違う。著者のポリシーはこの本の表紙に余すところなく書かれている。すなわち,免疫・血液系細胞の進化が脳に模して書かれてあり,T細胞は免疫反応全体を統御するという意味から大脳前頭葉の位置に置かれている。T細胞の高度な機能を的確に示しているものといえよう。

T細胞を感覚器官になぞらえて

 内容をひもといてみよう。第1章は「T細胞とはどのようなものか」と題している。T細胞を「感覚器官」になぞらえるという考え方はなるほどと思わせる。T細胞がT細胞レセプターを用いて体内の異物を感知することから,このような言い方をしているのである。第2章は「T細胞の担っている役割」。T細胞が抗原を“見る”方法がわかりやすく書かれているのが嬉しい。クラスⅠ分子とクラスⅡ分子によるキラー細胞,ヘルパー細胞への抗原ペプチドの提示のそれぞれの違いも,図をみることにより一目瞭然である。第3章は「T細胞発見までのいきさつ」である。抗体の発見は1890年までさかのぼることができるのに,T細胞が抗原特異的に作用することが明らかにされたのは今からたった30年前の1968年である。なるほど「T細胞学」が新しい学問なわけである。

胸腺は「免疫系の指揮者」

 第4章以降から胸腺に関する記述が始まる。胸腺が心臓と胸骨との間の単なるクッションではなく,免疫系の指揮者であるさまが如実に書かれている。また,胸腺ホルモンは実は幻想の産物であり,今では死語となった経緯が書かれている部分もおもしろい。また,胸腺の生理的役割はもとより,胸腺がかかわる免疫異常,ストレスと胸腺との関係なども書かれており,臨床家にとっても読みやすくなっている。さらに,最後には付録として,主要組織適合遺伝子複合体(MHC),T細胞レセプター,転写因子などに関するわかりやすい説明が書かれている。読者が迷子にならないような気配りである。
 このように,本書は胸腺とT細胞の魅力に触れることができる楽しい本である。ぜひ,一読をお勧めしたい。
A5・頁208 定価(本体2,800円+税) 医学書院


心肺蘇生法を明快に解説したテキスト

CPR:救命蘇生 須崎紳一郎 監修

《書 評》桂田菊嗣(大阪府立病院副院長)

「心肺蘇生」とは

 Cardiopulmonary resuscitation(CPR)をわが国では心肺蘇生と呼ぶ。肺は呼吸のほうが正しいが,pulmonaryに対応させたものであろう。心も心拍が正しいかも知れない。Resuscitationにしろ蘇生にしろ難しい言葉であり文字であるが,「息を吹き返す,元気をとり戻す,しなびた植物をよみがえらせる,(希望を)復活する」などがもとの意味である。仮死状態の人を生き返らせる(resuscitation from apparent death)のが蘇生であるが,狭義には,これがわれわれの用語であるが,一度停止した心拍呼吸を再開させる,ひいては脳蘇生・保護の観点から心肺停止以前の機能状態に戻す意味で用いられている。
 心肺蘇生法の基本は心マッサージと人工呼吸であり,いわば単純な医療行為であり技術であるが,なかなか奥が深い。Kouwenhovenが胸骨圧迫(体外式)心マッサージの有効性を報告して40年,この間いろいろの研究者によって心肺蘇生に関する研究が積み重ねられてきた。
 「鍛うること千日,用うること1日」という言葉がある。われわれが何気なく行なっている行為に先人たちの努力の積み重ねがある。しかしまた,いまだ心肺蘇生の成績は十分ではなく,さらに知見が重ねられて技術開発が進むとともに,その普及やシステム作りも大きな課題になっている。心肺蘇生は視点を変えれば生と死の問題にもかかわる場合もあり,社会的,倫理的にも重要な問題を含んでいる。
 この本のタイトルは,「救命蘇生」である。なぜ救命蘇生というあまり聞き慣れない言葉なのだろうか。救命という言葉はかつてのわれわれは面映ゆくてあまり用いなかったように思う。一般社会では,救命具,救命胴衣などという用語があったが。
 救命処置という言葉がある。米国医師会による心肺蘇生の基準(1974年)が邦訳された時に,life supportが救命処置とされ,(『救命処置と救急心臓治療法-基準と指針』石田詔治訳,へるす出版,昭和57年),日本救急医学会による最初の指針でも,1次・2次救命処置の語が用いられた(『救急蘇生法の指針』医歯薬出版,昭和53年)。ついでながら最近は救命救急という言葉も一部の人たちによって用いられるようになっている。この言葉のルーツは,私は昭和52年に国に名づけられたことにあると思う。システム上位置づけられた3次施設が,「救命救急センター」の名のもとに,実際には生命危機を抱えた重症急患の診療を担うことになり,その業務にcritical careの語とはニュアンスを異にして救命救急の語があてはめられるようになってきた。監修者や多くの著者たちは,いろいろな重症患者の救急医療に携わっている方々であり,広く救急医療という視野で蘇生学をとりあげたいという趣意があるものと推察される。

「心肺蘇生」を取り巻く問題や背景まで網羅

 さて本書には,心肺蘇生に関する学術的な知見の他に,いろいろな切り口で心肺蘇生を取り巻く各種の問題や背景が網羅されていて充実したものとなっている。分担執筆ではあるがおのおのが全力投球されており,レイアウトからは読みやすいのに重みのある著書となっている。著者は多士済々であり個性的で,また真摯な方ばかりである。日常的には,悩みながらも患者の救命に奮闘しておられる姿が髣髴とする。余白を埋めている「コラム」がまた興味深く,それぞれが一人歩きしたがっている。それにもまして広い視野と豊かな学識を持つ企画監修者の才気煥発に感服する。ユニークな企画に呼応して執筆者たちがアンサンブルを奏でているように見える。
 今までの私にとっては“Cardiopulmonary Cerebral Resuscitation”(P.Safar & N.G.Bircher, WB Saunders)などが座右の書物であったが,ここしばらくは本書も手放せなくなった。心肺蘇生法をただ形式的に行なってすませている,あるいは研修医等にまかせきっている医師たちは,心して本書を読んでいただきたい。心肺蘇生の普及に携わる人たちにとっては,本書はきっと教育の幅を広げることに役立つであろう。
B5・頁276 定価(本体4,200円+税) MEDSi


保健・医療・福祉の連携の全体像が明らかに

保健・医療・福祉複合体 全国調査と将来予測 二木 立 著

《書 評》西 三郎(田原町立田原福祉専門学校長)

 医療施設と保健・福祉施設の両方を開設している「保健・医療・福祉複合体」の全国調査を実施し,その将来予測について,縦割り的な官庁統計では得られなかった事実に基づいてまとめた本である。私的な努力による調査であるから,調査方法,協力者等について詳細に述べ,検証できるようにし,さらに,この調査で得られたデータベースの固有名詞を削除して公開している。
 この本の特徴は,事実を明らかにすることに力点を置き,著者自身の考察を最小限にしていることである。このため,読者は,考察への批判よりは,この本で示された事実をよく読むことが期待される。
 本書ではこの調査により,医療施設開設者が開設している老人保健施設,特別養護老人ホームがそれぞれ84.9%,30.7%あること,都道府県によりその比率に著しい格差があること等を報告している。従来から,保健・医療・福祉の連携の必要が強調されているにもかかわらず,事例報告のみであったが,全国の全体像も初めて明らかにされた。全国で私的病院,老人保健施設,特別養護老人ホームの3つを開設している複合体が259あり,その固有名詞の一覧を示している。さらに,それぞれの開設法人等を調査し,法人の開設と施設の設置の年次的な推移をまとめている。
 その結果から医療計画策定による病床規制の導入により,活力ある医療施設開設者が新しい方向に走り出したことを示し,効率的な経営を基盤としているこの流れは,競争原理を導入した介護保険制度の発足によりさらに加速されるであろうことを示唆している。
 この調査には,私的医療機関を母体とする看護・医療技術系および介護福祉士学校,自治体の複合体,全国大病院の実態調査,私立医科大学病院の複合体化の実態等についての調査結果も報告されている。

全国調査で明らかになった事実

 研究者の多くは,官庁統計に基づいた分析結果の報告と考察を行なってきた。しかし,現在の行政の仕組みが保健・医療・福祉が縦割りになっている中で,この3者の関連を明らかにすることができる調査結果を得ることはできないのが事実である。これに対して著者は,大胆に全国調査を実施し,多くの事実を発見し,将来予測を行なっている。この調査結果は,今までの研究者のように,机上で電算機を駆使してきた方法とまったく異なり,協力者の支援を得ながら自分で現場から資料を集める努力をした成果である。
 政府は,規制緩和,民間活力の導入を主張しながら,保健・医療・福祉の関連を明らかにすることができる全国調査を怠ってきた。規制緩和等の建て前だけの主張から,実態に即した将来展望に切り替えなければならないことを示した貴重な著書で,将来に関心のある人の必読の書と言えよう。
A5・頁336 定価(本体3,600円+税) 医学書院


入門書と百科事典的要素を兼ね備えた皮膚病理学の教科書

Textbook of Dermatopathology R.L.Barnhill 編

《書 評》田上八朗(東北大教授・皮膚科学)

 皮膚科医が他の分野の臨床医と大きく違う点は,常に病変を肉眼で直接に見ていることである。そのうえ,診断が確かでないと,組織標本を採取し,それを自分で顕微鏡下に観察する。すなわち,皮膚の病理学を実践している。もちろん皮膚科の学会では,臨床所見とならんで,病理学的所見も登場し,議論の対象になる。いうなれば,皮膚病理組織学は皮膚科専門医の重要な武器であり,これだけの分野を対象とする国際雑誌が3誌も存在する。米国では病名数が最多のこの分野だけを対象に皮膚病理医の専門医資格が作られ,病理医あるいは皮膚科医出身の専門医が毎日皮膚標本の診断だけを専門に行なっている。

共通して流れる診断スタイル

 本書は,米国の皮膚科医出身の皮膚病理専門医で,色素性疾患の研究者であるBarnhill博士が,各分野の疾患を専門に研究する皮膚病理医60名近くに執筆を依頼してまとめあげた,入門書と百科事典的要素の両者を兼ね備えた皮膚病理学の教科書である。分担執筆の教科書であっても,共通して流れている診断スタイルは,さまざまな構成成分からなる皮膚組織に生じた病変をみるためには,個々の微細な所見に注目するより,まず全体の鳥瞰図的な病変のパターン認識に重点を置いて観察し,ついで細部を調べるという方法を基本に置いていることである。これまで皮膚疾患をみて,標本を観察する,というトレーニングを受けてきた私たち皮膚科医にとっては,皮膚病理医のユニークな診断方法を入門編の部分で教えられる。ともかく,病変,年齢,性,部位などの臨床情報なしで,標本を虚心に肉眼で,あるいは20ないし40倍の低倍率で観察し,診断に迫るというアプローチ法が説かれる。また,1つの結論に急ぐよりも,それを起こす病的過程の情報を把握する,というこの低倍率観察法の趣旨は新鮮に響く。
 実際,よく遭遇する炎症病変は特異的なものでなく,いくつかの過程の2次的なものであることも多いので,組織所見を十分に把握したうえで,はじめて臨床情報を調べるという皮膚病理専門医のアプローチの仕方には納得がいく。

1級品の組織写真を豊富に

 それぞれの各論での記載も臨床所見,病理所見,鑑別診断と落ちがないように構成され,スペースに見合う十分な情報が盛り込まれているといってよい。また,他の教科書にみられない,爪や口腔粘膜の病変の詳しい記載もされている。
 しかし,本書を特徴づけるものは,内容だけでなく,色彩的な魅力があげられよう。一見,初心者にとっつきにくい皮膚病理学を,美的な構成でカバーしているという印象すらもたされる。活字もすべてが黒ではない。見出しの活字に明るいブルー活字が使われ,たくさんのきれいなカラーの組織写真とともに,近づきやすい雰囲気を醸し出している。また,表紙のカラー組織写真だけでなく本文中に多数掲げられた特徴的な組織写真のほとんどが,それぞれ一級品である。もちろん,これらの図が,本書の教科書としての実用性を高くしているだけでなく,まとめの表を随所に掲げ,本文まで読まずとも重要なポイントをつかめるようにできていることも,行き届いた配慮が感じられ教科書としての価値を高くしている。
 ユニークな構成と豊富な内容は,皮膚科研修医だけでなく皮膚科専門医に必携の教科書として広く推賞したい。
909頁 33,150円 McGraw-New York社刊


臨床脳波を学ぶ人のために

脳波判読に関する101章 一條貞雄,高橋系一 著

《書 評》越野好文(金沢大教授・神経精神医学)

 脳波は,形態診断に役立つ頭部CTやMRIなどに対し,脳の機能診断に威力を発揮する。脳波には無限の情報が含まれている。脳波に含まれている情報をとり出すには,定量分析や誘発反応などのハイテクを利用するのも1つの方法であるが,日常の臨床で脳波に含まれている情報をとり出し,十分に活用するためには,脳波記録を1つひとつ丹念に「判読する」ことが基本になる。

脳波判読に必要な知識の道しるべ

 脳波の判読とは,パターンの認識であり,熟練と感性を必要とする。日夜脳波に親しむことによって,感性は磨かれる。しかしそのためには道しるべが必要である。すでに臨床脳波学の大部の教科書や古典的な脳波アトラスがいくつかあるが,それらを読み通すのは決して容易ではない。このたび出版された一條貞雄先生と高橋系一先生の『脳波判読に関する101章』は,「個々の脳波所見がどのような意味を持つのか,それをどう解釈するのか」に観点を置いて構成されており,脳波判読に必要とされる基本的な知識を得るための道しるべとして最適のものである。
 本書は,日本の臨床脳波研究のメッカの1つである東北大学精神医学教室やカナダ留学,あるいは数多くの脳波に親しまれたJR仙台病院での研究,さらには東京時代のてんかんカンファランスや臨床脳波カンファランスなどでの貴重な経験の集大成であり,一條先生のライフワークともいうべきものである。
 本書は,表題のごとく101章からなり,各章は見開き2頁にまとめられている。内容は,脳波とその記録法,脳波波形の種類,律動性波形,睡眠脳波,てんかんと関連疾患の脳波,脳波判読に関する解剖・神経生理,小児・思春期の脳波,老年期の脳波,意識障害の脳波,薬物による脳波,各種疾患の脳波,脳波の賦活法,アーチファクト,誘発電位および脳電位分布と脳磁図に大きく分けられる。先生が最も得意とされておられるてんかんに関連したテーマに20章以上があてられているが,全体としては,基礎から臨床,理論から実践,古典的研究から最新の知見,小児・思春期から老年期などすべてのテーマについて,コンパクトな中にも過不足なくまとめられている。本書を一読すれば,大部な教科書に負けないだけの臨床脳波に関する必須の知識が身に付く。しかも平明な文章と適切な図により,苦労なく読み進むことができる。
 本書で特筆すべき工夫は,各章の最初に内容が簡潔にまとめとして記載されていることである。その章の狙いがわかり,読者にはまことに便利である。また,少し読み疲れた頃に出会う著者らのうんちくを傾けた脳波に関連した逸話の「サイドメモ」は格好の息抜きとなり,楽しい。Gibbs夫妻とBerger夫妻の交流,ヘルマン・ヘッセと欠神てんかん,あるいは臨死体験のトンネル現象などの話はまことに興味深い。

臨床脳波に関わる人への最上の贈り物

 本書は精神科医,神経内科医,小児神経科医,脳神経外科医,脳波技師など臨床脳波に関心のある人々には必携の書といえる。
 本書は,『臨床脳波アトラス』(南江堂,1970年)の出版以来,日本では最も多く臨床脳波の判読に携わってこられた著者らからのわれわれ臨床脳波に関わりを持つ者にとっての最上の贈り物である。
B5・頁224 定価(本体4,500円+税) 医学書院