医学界新聞

 

「医療教育メディア国際グランプリ'99」を企画して

“21世紀の医療教育メディア”を考える

中山太郎氏 国際医療教育メディアフォーラム'99実行委員会組織委員長,衆議院議員,元外務大臣 に聞く


 健康・医療は国境を超えた問題であることは論をまたず,世界中で健康の増進を図る不断の努力がなされている。また,医学・医療技術は進歩し続けており,その成果である新しい医学知識や健康知識および医療技術の普及には,“教育”が不可欠であることは言うまでもない。特に,“インターネット”に象徴される現代の高度情報化社会においては,新しい発想で新しいメディアを駆使した医療教育が期待されよう。
 このような折りに,「国際医療教育メディアフォーラム'99実行委員会」(組織委員長=中山太郎氏)は第25回日本医学会総会の開催を機に,「医療教育メディア国際グランプリ'99」を企画し,きたる4月6日,東京の国際フォーラムにおいて表彰式を開催する(受賞作品は下記表参照)。それに引き続いて「遠隔医療研究会」との共催のもとに,記念講演と遠隔医療国際会議が行なわれる(詳細は「Medical Information」参照)。
 そこで本号では,審査発表を終え,表彰式の開催を目前に控えた同実行委員会組織委員長の中山太郎氏に,あらためて企画・開催の意図,また氏がかねてより推進している「遠隔医療・遠隔教育」について今後の抱負や展望をうかがった。

(文責=週刊医学界新聞編集室)


専門家と一般市民がともに手を携えて

―― お忙しいところお時間を割いていただきましてありがとうございます。
 まず最初に,応募の対象を“(1)マルチメディア系ソフト(コンテンツ),(2)オーディオビジュアル系(映像)の作品で,医学・医療技術の研修・普及・教育に資するもの”とされた今回の「国際医療教育メディアグランプリ'99」を企画された意図をお聞かせいただけますか?
中山 申し上げるまでもありませんが,わが国における医療教育ソフトウェアは,日本医師会の「ビデオ生涯教育講座」や,「日本医師会ビデオライブラリーリスト」を始めとして,大変レベルの高い作品がたくさんあります。しかし,残念なことに一般化されていません。つまり,一般の方が接する機会が必ずしも多いとは言えません。せっかく多くの経費と,有形無形の労力や英知を投入して作られたわけですから,社会全体の財産と捉えて考えますと,非常にもったいないことだと思います。
 一方,翻って考えてみますと,医療教育や医学教育というものは,今後もより一層専門家と一般の方々がともに手を携えて進めていかなければならないと私は思っています。そのためにも将来は,さらによりよい教材が必要になってくるでしょう。
―― 今回の第25回日本医学会総会(会頭=高久史麿自治医大学長)のメインテーマ「社会とともにあゆむ医学-開かれた医療の世紀へ」とも符合しますが,対象作品のテーマ内容を「専門家対象」と「一般市民対象」にお分けになったのも,そのような意図がおありになったわけですね。
中山 ええ。ご存知のように,現代は「専門家」「非専門家」を問わず,さまざまな分野で,またさまざまな種類・形態の作品が作られています。
 医療教育の分野も決して例外ではありませんし,むしろ大変活発な分野であると言えるでしょう。そういう作品に対して「グランプリ」という形で,各種の賞を差し上げて表彰し,広く世界に紹介すれば,大きく捉えると,いわゆるインフラストラクチャーも蓄積されることになり,さらに進んで経済施策上の観点から市場形成も可能になるのではないかと思います。
―― 「メディアグランプリ'99」と銘打たれておりますが,今後毎年開かれるお考えでしょうか。
中山 今回は第1回目で,いわば試金石とも言うべきものです。申し上げるまでもなく,それ相応の経費も労力もかかりますので,これから今回の成果を考慮して,多くの関係者と相談しながら進めて行きたいと思います。

開原成允実行委員長の協力が成功の最大の理由

―― 第1回目を実際に開催されて,ご感想はいかがでしょうか?
中山 たまたま第25回日本医学会総会の開催時期と重なりましたが,その展示委員長をなさっておられる開原成允先生(国立大蔵病院長・東大名誉教授)とは古い友人でもありましたから,私の考えをすぐに理解していただきまして,「国際医療教育メディアフォーラム'99」の実行委員長をお願い申し上げました。開原先生にご協力いただけたことが,この行事が成功した最大の理由だと思います。
 それから,この種の催しとしては,他に比較するものがありませんが,大変多くの作品が寄せられました。堀原一プログラム委員長(筑波大名誉教授)を始め,審査に当たっていただいた12名の委員の先生方の多大なご苦労に対して深謝していることは,もちろん言うまでもありません。
―― 私どもの応募作品が,映えあるグランプリ(最優秀作品賞)という望外の幸せをいただきました。
中山 そう聞いております。おめでとうございます。私も若い頃は,今回のような新しい媒体ではありませんでしたが,貴社の出版物を使わせていただいたものです。
―― ありがとうございます。

21世紀の医療教育メディア「遠隔教育」

―― ところで,「21世紀に向けた医療教育メディア」ということに関して,中山先生はかねてから「遠隔医療・遠隔教育」に大変深い関心をお持ちと伺いましたが,どのような展望をお持ちでしょうか?
中山 「遠隔教育」に関して申しますと,文部省や厚生省が推進している「放送大学」などを通じた医学教育や,それぞれの大学の教育現場,また先ほど申しました日本医師会のビデオによる生涯教育などにおいて,これからますます重要な要素になると思います。今回の応募作品や受賞作品にみられるような,さまざまな形態を駆使して,内容的にも工夫を懲らして活用される時代が来るでしょう。

「遠隔医療」について

―― 「遠隔医療」についてはいかがでしょうか。
中山 これも,来るべき世紀に向けて,これからさらに積極的に進めるべきだと思います。
 国内的には,わが国の遠隔医療はすでに四半世紀の歴史を持っておりますが,先ほどお名前があがりました開原先生を中心に,厚生省の「遠隔医療研究班」が活発な活動を展開しています(資料参照)。
 また国際的には,特に太平洋の島嶼(とうしょ)国家,いわゆる小さな島国の方々,あるいはモンゴルとかシベリア,これらの国々にとっては,衛星を使った遠隔医療を行なうことが不可欠になってきます。
 先週,WHOの新しい事務局長のDr. G.H. Brundtland女史にお会いしましたが,かれらも遠隔医療に対して非常に熱心でした。まさにグローバルな視点からの展望が望まれると思います。
―― 本日はお忙しいところどうもありがとうございました。
(収録:1999年3月17日)


「医療教育メディア国際グランプリ'99」受賞作品
◆グランプリ(最優秀作品賞):『シム・クール-救急救命のための呼吸・循環動態シミュレータ』((株)医学書院/NEC文教システム事業部)
◆外務大臣賞:「CARDIOLOGY Today and Tomorrow-“Endocarditis:Comprehensive Management”」(Mayo Clinic Cardiovascular Division)
◆文部大臣賞:「O157腸管感染症-その病態と抗菌薬療法の効果」((株)アイコム)
◆厚生大臣賞:「世界にまん延する結核制圧の鍵-DOTS」(東京シネ・ビデオ(株))
◆通産大臣賞:「The Physiological Origins of HEART SOUND AND MURMURS」(John Michael Crile M.D.)
◆郵政大臣賞:「インターネット生物医学国際会議」(医学生物学インターネット研究会)

応募作品内訳【総数:140点(国内119点/海外21点),応募団体総数:96団体】
応募作品ビデオCD-ROMホームページその他合計
専門家向け50(5)33(3)7(2)9(1)99(11)
一般市民向け20(6)12(3)8(1)1(0)41(10)
合計70(1)45(6)15(3)10(1)140(21)
※(  )内は,うち海外からの応募作品.
※「その他」の内容はチャットルーム:1, FD:4, MO:5

国別応募件数
国名団体数作品数
日本80119
アメリカ1317
カナダ11
メキシコ12
ロシア11
合計96140

(資料)厚生省「遠隔医療研究班」の構成と分担課題
開原成允氏(国立大蔵病院):医療情報技術応用の基本構想の制定〈班長〉
山本隆一氏(阪医大医療情報部):セキュリティシステムの実装研究
前田知穂氏(京府医大放射線科):遠隔放射線診断の評価
澤井高志氏(岩手医大病理学):遠隔病理診断の評価
山口直人氏(国立がんセンターがん情報研究部):遠隔教育の応用と評価
喬木幹雄氏(東京理科大基礎工学電子応用科):映像とコンピュータ技術の統合研究

「遠隔医療研究班」の「総括班最終報告書」について

 厚生省「遠隔医療研究班」の「総括班最終報告書」(1997年4月)は,(1)要約,(2)遠隔医療とは何か,(3)「遠隔医療」の医療上の意義,(4)わが国における遠隔医療の歴史と現状,(5)遠隔医療で考慮すべき事項,(6)遠隔医療が通常の医療として可能な領域と条件の考察,(7)遠隔医療によって診療を行なうための条件,(8)問題点解決のための提言,の8章からなり,「遠隔医療」を「映像を含む患者情報の伝送に基づいて,遠隔地から診断,指示などの医療行為および医療に関連した行為を行なうこと」と定義している。
 また,「遠隔医療の医療上の意義」を,
(1)医療の地域格差の解消
(2)医療効率化(患者の不必要な搬送の減少,遠隔病理診断の普及など)
(3)患者サービスの向上
(4)医師の診療を得ることが通常は困難な場に対して,専門医による診療の機会を提供(移動体と病院間,将来的には会場や飛行機,さらには宇宙船)
(5)国際医療協力においてきわめて有効な手段となる
の5点を上げ,特に(5)については,「遠隔地からの通信は,たとえ外国からであっても技術的には異なることではなく,この特徴を活かせば,外国の医療に直接日本からアドバイスを与えることも可能である」とし,「このような遠隔医療の応用は外国にはかなり例があるが,わが国ではまだほとんどない」と指摘して,遠隔医療における今後の重要な応用分野と強調している。