医学界新聞

 

「21世紀への躍動」をテーマに

第13回日本がん看護学会が開催される


 さる2月27-28日の両日,第13回日本がん看護学会が,江向洋子会長(国立がんセンター東病院看護部長)のもと,「21世紀の躍動」をメインテーマに,東京・北区の北とぴあで開催された。
 今学会では,がんを抱える患者の生活に視点をあて,患者サポートを具体的に考えようと,フォーカスセッション「社会の中でがん患者が直面する問題」とシンポジウム「外来化学療法患者の生活を支える」が企画された。
 また,佐藤禮子理事長(千葉大)は,「コミュニケーションやサポート体制の組織化が今後のがん看護の課題であり,CNSの導入と職位確保が重要になる」と示唆する基調講演「21世紀へ前進するがん看護の課題」を行なった。さらに一般演題では,休まなければ50m以上歩くことのできない「呼吸困難のある終末期がん患者が外泊をするまでの看護支援」(東札幌病院 田中千絵氏)などの“在宅ケア”や,「化学療法による嘔気・嘔吐のある患者への看護独自の介入」(北里大東病院 坂下智珠子氏)などの“化学療法に伴う看護”をはじめ,家族ケア,緩和ケアなど12セッション(16群)全77題の発表が行なわれた。

交流セッションを初の試みとして企画

 一方,今回は学会として初の試みとなった“交流セッション”が企画された。
 同セッション(座長=癌研究会のぞみ看護専門学校 長谷川朝子氏)では,「下半身麻痺により自己否定した患者への退院へのアプローチ―家族・医療チームで協力したことで,在宅ケアが成功した1例」を,西脇みゆき氏(埼玉県立がんセンター)が提示。短気でわがままな,多発性骨髄腫の60歳男性の問題として,(1)圧迫骨折による疼痛,(2)下半身麻痺症状と排泄障害,(3)家族も退院を望まない,(4)社会資源情報が少なく,退院させることに看護婦が自信なく,退院へのアプローチが遅れたなどをあげ,「こんな身体で追い出すのか! 看護婦は鬼!」との言葉を発した患者へ,どのようなアプローチをして退院へ結びつけたのかが報告された。その後フロアを交えて問題解決法などが検討され,在宅へつなげる介護者と医療者のよりよい関係性や,社会資源情報入手のためのチームカンファレンス,退院調整看護婦の必要性などが熱く語られた。ただ,今回は設定された時間が短く十分な討論をつくせなかったことは否めない。1つの事例について,施設を超えて議論ができる場としては貴重なセッションであり,ぜひ次回に期待したい。

がん患者を取り巻く社会的問題を論議

 フォーカスセッション「社会の中でがん患者が直面する問題」(座長=淀川キリスト教病院 田村恵子氏,埼玉県立がんセンター 小磯玲子氏)では,がん患者を取り巻くさまざま社会的問題について3名が登壇し,問題提起を行なった。
 本間美恵子氏(東札幌病院)は「家族が十分に看病をできないために,患者には入院をしていてほしいと願う家族の声がまだ強い」と述べた上で,患者・家族が抱える社会的問題として,(1)ケアの資源上の問題,(2)家族の役割上の問題,(3)経済的な問題などを指摘した。
 中村洋子氏(国立がんセンター東病院)は,「患者・家族を取り巻く経済的な問題」について言及。経済的負担を強いる入院治療よりは,外来通院のほうがはるか治療費が安くすむために,緩和ケアは外来で行なうという外来化学療法患者が,医療費削減政策(在院日数の短縮)のもと,年々増加していることを報告した。
 藤井たけ氏(愛知がんセンター)は,同センターの放射線診断部が行なっている切除不能の転移性肝がん患者への肝動注化学療法を受けている外来通院患者を対象に行なった調査結果から,インフォームドコンセントに関し,説明を受けた29名のうち7名が「聞いたように思うが覚えていない」と回答したと報告。その上で,通院治療が週1回ながら数か月から数年におよぶ患者の在宅療養でのQOL向上が図れる具体的な援助についても述べた。
 なお総合討論の場では,入院より通院治療を希望する患者へのサポートシステムの構築が今後の課題であり,そのためのネットワークやコーディネーターを専門とする担当看護職の必要性が提起された。

増える外来化学療法患者への支援策

 シンポジウム「外来化学療法患者の生活を支える」(座長=埼玉県立南高等看護専門学校 渡辺孝子氏,東札幌病院 濱口恵子氏)では,医師・病棟看護婦・外来看護婦・行政の立場から4名が登壇し,それぞれに意見を述べた(写真)。
 まず藤井博文氏(国立がんセンター東病院)は,「がん治療の最終目標は“治して通常の生活に戻す”こと」とする医師の立場から発言。「アメリカでは,がん化学療法は内科医を中心とする外来治療が基本だが,日本は外科医が中心。大学で臨床腫瘍科の講座を持つに至っていない」とする一方,外来通院治療を行なう患者が年々増加していることを指摘した。
 長場直子氏(神奈川県立看護教育大)は,「外来で化学療法を受ける患者の生活サポート」と題し口演。「嘔気や不安から抑うつ状態となる化学療法患者のサポートをするのが看護職の役割。副作用の苦痛が,QOLの低下につながるため,患者個々にあった苦痛緩和が必要」と述べた。
 同様に「外来で化学療法を受ける患者の看護」を口演した青木和恵氏(国立がんセンター中央病院)は,「患者の苦しみを解決しようとする目標の設定が重要。目標の設定と達成に必須なことは,医師との成熟した関係による状況判断であり,情報の収集や誤解,曲解を調整するのも看護職の役割」と,精神的なバックアップを強調した。
 行政の立場からは,川渕孝一氏(日本福祉大)が登壇。官・民の関係で民間検診が普及したこと,食生活の変化・発展が疾病の変化も引き起こしたことなど,国のがん政策の歩みを解説するとともに,「日本は入院しない方向に向かっている。今後の医療は経済を度外視できない」と指摘した。
 総合討論の場では,「“がんを治す”ではなく共存できればよい」,「複雑化する医療に対応できる専門家が必要」などの意見が出された。まとめにあたって司会の渡辺氏は,「化学療法は,今後さらに入院から外来へシフトしていくだろう。在宅医療・看護も重要となるが,看護婦自らが,日本看護協会の専門認定コースを選択するなど,専門家として学ぶ姿勢も必要」と述べた。
 なお,本学会総会の場において,2002年の国際がん看護学会は日本(東京)が開催国となったと報告された。