医学界新聞

“医学教育におけるFaculty Development”を基調テーマに掲げて

PaPaSME(Pan-Pacific Symposium on Medical Education)'99
環太平洋医学教育シンポジウム'99開催


 昨年創立30周年を迎えた日本医学教育学会(会長=堀原一筑波大名誉教授)の記念事業として,「環太平洋医学教育シンポジウム(PaPaSME:Pan-Pacific Symposium on Medical Education)'99」が,さる2月3-4日,東京の日本学術会議講堂において開催された。なおPaPaSME'99は,今年創立50周年を迎えた「日本学術会議」(会長=吉川弘之前東京大学学長)との共催によるもので,後者を代表して久道茂氏(東北大学医学部長)がシンポジウム副会長として参加した。
 同会は“医学教育におけるFaculty Development(以下FD)”を基調テーマとした今回のシンポジウムの開催意図を,「近年の医学・医療の著しい変化に対応するためには,まず教育改革,特に教育者の教育能力の開発(FD)が国際的にも重要視されている。今回のシンポジウムは,太平洋を囲む国々の医学教育者が合い集い,国・地域・機関などの多様なニーズにマッチすべく,どのように“FD”を推進しているか,そのノウ・ハウを分かち合い,きたるべき21世紀の医療と健康に貢献することを目的とする」と謳っている(関連記事を掲載)。


 シンポジウムでは,基調講演「Strategies for Improving Teaching Practices:A Comprehensive Approach to Faculty Development」(LuAnn Wilkerson氏:アメリカ・UCLA),「Faculty Development Activity in Korea with Special Reference to NTTC」(金勇一氏:韓国・ソウル大)の他,パネルディスカッション(2題),特別講演, 総合討論の企画のもとに,J. D. Hamilton氏(オーストラリア・ニューキャッスル大),K. M. Skeff氏(アメリカ・スタンフォード大),R. Bandaranayake氏(バーレイン・アラビアン ガルフ大),任恵民氏(中国・西安医大),田中勧氏(防衛医大),および昨年11月,アメリカ医科大学協会から医学教育における最高の賞,Flexiner Award(1998年度)を受賞したJ. S. Gonnella氏(アメリカ・トーマス ジェファーソン大)などを演者に迎え,熱心な討議が展開された。

わが国の「医学教育における“FD”」の歴史と現状

 現在,わが国の医学教育界にはFDのために,「医学教育者のためのワークショップ」を始めとして,次に述べる4つの医学教育ワークショップがあるが,特に最近の特徴として,(1)卒後臨床研修の必修化構想を念頭においた課題としての「臨床研修指導医養成講習会(臨床研修ワークショップ)」の開催,(2)施設単位としてワークショップを開催する大学や病院の急増,(3)各ワークショップにおける標準模擬患者(SP:simulated/standardized patient),客観的臨床能力試験(OSCE:objective structured clinical evaluation)の紹介や実演演習の導入,などがあげられる。
 田中氏はパネルディスカッションの中でその概要を以下のように報告した。

(1)医学教育者のためのワークショップ
 最も長い歴史を持つこのワークショップが開催された経緯は1973年に遡る。
 WHOが医療・医学の発展のために,Teacher Training(TT)構想を打ち出し,西太平洋地域におけるRTTC(Regional Teacher Training Center)が1973年に開催したワークショップ(Workshop for Deans and Educational Leaders)にわが国から牛場大蔵氏(同会名誉会長),館正知氏(同会名誉会員),日野原重明氏(同会名誉会員,聖路加国際病院理事長)らが参加。翌1974年12月に同氏らが中心になって,「医学教育者のためのワークショップ」が富士教育研修所(静岡市裾野市)において開かれ(このため,「富士研ワークショップ」と称される),昨年第25回を迎えている。このワークショップは,第6回から厚生省・文部省の主催のもとに,日本医学教育学会・医学教育振興財団の協力,WHOの後援を受け,5泊6日の日程で行なわれている。
 参加者はタスクフォース,コンサルタント,ディレクターの講師陣のもとに,40名(大学関係者20名,厚生省関係研修指定病院20名)を原則とし,昨年までに合計912名が参加。第24回までの記録によると,参加大学は国立42校(新設18校中18校,既設25校中24校),公立8校中7校,私立29校(新設16校中16校,既設13校中13校)で,全体の98%。また,臨床研修指定病院は総数325のうち191施設(58.8%),大学関係病院は125施設が参加している。

(2)臨床研修指導医養成講習会(臨床研修ワークショップ)
 卒後臨床研修の充実を図るためには,臨床研修病院の数や質の確保などハード面の充実に加えて,卒後臨床研修の内容などソフト面での充実を図る必要がある。
 このワークショップの趣旨は,特にソフト面で臨床研修医の指導にあたる臨床研修指導医の役割が重要となっていることから,講習会を実施し,その指導力の一層の向上を図ることとする。主題を「臨床研修開発」として,オリエンテーション・プログラムを含むカリキュラム立案能力ならびに臨床研修指導技法を習得することを目標とし,1996年から臨床研修研究会主催,医療研修推進財団委託のもとで,「富士研ワークショップ」より1日少ない4泊5日の日程で開催されている。

(3)大学,病院単位によるワークショップ
 前記「医学教育者のためのワークショップ」,および「臨床研修ワークショップ」の参加者がそれぞれの施設単位で行なうもので,両ワークショップのタスクフォースとの相談のもとに企画,実施される。期間はほとんどが1泊2日から2泊3日で,ミニ・ワークショップと称されている。

(4)日本医学教育学会ワーキング・グループ主催によるワークショップ
(1)医学部における英語教育改善のためのワークショップ
 「外国語教育ワーキング・グループ(主任=浜松医大 植村研一氏)」が主催して,1995年に開催。参加者48名(英語教師:28名,医学専門教師:20名)。
(2)基本的臨床技能教育ワークショップ
 「基本的臨床技能教育法ワ-キング・グループ(主任=川崎医大 津田司氏)」の主催によるもので,基本的臨床技能教育,特に医療面接・身体診察教育方法とその評価方法の普及を目的として,SPの育て方やOSCEの実施方法を含めた実践的なワークショップである。最近では昨年10月,東京の日赤武蔵野短大において,37名の参加者を得て開催された。

 日本医学教育学会は1昨年,90番目の分科会として日本医学会に新規加盟したが,きたる4月2日から東京で開かれる第25回日本医学会総会(会頭=自治医大学長 高久史麿氏)の学術講演において,シンポジウム「臨床研修のあり方」,「医師の生涯教育のあり方」,パネルディスカッション「21世紀の医学医療教育」,レクチャーシリーズ「卒前・卒後における臨床能力評価」(東海大医学部長 黒川清氏)など,かつてないユニークな演題が企画されている。
 なお,第25回日本医学会総会のプログラムの詳細は,次号(第2330号)に掲載予定。