医学界新聞

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


国試とはどういうものかがわかる1冊

看護国試ナビ1999 今井 舞 著

《書 評》守家貴子(東大附属病院)

 早いもので,看護婦国家試験を受験し,看護婦として働き出してもうすぐ1年になろうとしています。この時期になると,昨年の受験勉強が思い出されます。
 ここ数年,看護婦国家試験の合格率が低下していることから,私たちはかなりの危機感を抱いていました。受験ぎりぎりまで臨床実習に追われ,満足に勉強する時間が持てない中で,たくさんある看護婦国試対策のどの参考書がよいのかを先輩の方々に聞いたり,友達と情報交換したりして,いろいろと悩みました。

国試受験者のパートナー

 ひと口に国試と言っても,内容は解剖生理学から公衆衛生学をはじめ,成人,老人,母性,小児看護学まで幅広くあり,どこから手をつけたらいいのかわからないほどの膨大な量と範囲です。参考書を目の前にして,今何をやったらよいのか悩んでいる人は,決して少なくないと思います。私も,試験の日が近づくにつれ,同じような思いにかられ,あせればあせるほどいろいろな参考書に手をつけるのですが,結局は少し遠回りをしたような気がします。
 本来はどの時期にどのような勉強をすればよいのかということが重要になってくるのだと思います。その折々に適した勉強の方法があるわけですが,その点で本書『国試ナビ』はこれから国試を念頭に勉強にとり組もうとする方たちの1年を通してのパートナーとして適しているのではないかと思います。本書の内容を拝見させていただき,国試に出題されやすい基本的なポイントをとてもよくおさえていると感じました。先ほども触れましたように,国試の内容はとても幅広いのです。国試直前までそのような幅広い内容を見渡し続けるのはとても大変なことですし,逆に危機感を募らせてしまうことになりかねません。

出題されやすいポイントをおさえる

 国試に受かるということはすべての問題を正解するということではありません。問題にはかなり難解なものも含まれていますし,国試出題傾向も毎年違います。しかし,出題されやすいポイントはいくつかあります。それをしっかりとおさえておくことが,国試直前に必要なことではないでしょうか。その点,本書はしっかりとポイントをおさえており,またなぜその答えが導き出せるのかという解説もついていますので,丸暗記の必要がありません。本書ひとつだけで,他の参考書を見ずに問題が解けるという点もとてもよいと思います。
 また,新書版のサイズはコンパクトで持ち運びやすく,電車の中などでも気にせずひろげられますし,常に携帯できることも魅力です。さらに,アルファベット選択肢の問題やわからない問題の解き方が盛り込んであるのも,おもしろいポイントですし,問題を速く正確に解くためのよい方法だと思います。ただ,やはりこの本1冊だけで国試対策が万全であるとは言いきれません。各分野のポイントをおさえるのが本書の趣旨だと思います。各分野の復習,理解度のチェックに非常に役に立ちます。
 これから国試を考えようとしている人たちにとっては,国試とはどのようなものかがわかる本ではないかと思います。
B6変・頁256 定価(本体1,800円+税) 医学書院


“関係障害”としての痴呆を描くケアエッセイ

〈生きいきケア選書〉老いのスケッチ-痴呆性老人とデイサービス
松井俊雄 著

《書 評》三好春樹(生活とリハビリ研究所代表/理学療法士)

 齢をとれば誰でも呆ける。目がうすくなるのと同じように物忘れをし,耳が遠くなるのと同じに尿道括約筋がゆるんでおもらしをする。問題が生じるとしたら,そうした,老いという自然過程とうまくつきあっていけないことからではないか。近代社会が,そして核化した家族が。
 また,呆け老人が,時々引き起こす激しい問題行動は,そうした物忘れをし,おもらしをする自分に,当の自分自身がつきあえないという,“関係障害”によるのではあるまいか。これが私の現場から作りあげた痴呆論である。
 ところが社会の側は,呆けを老いに伴う自然過程ではなく,一時的で回復可能な疾病であると思いたがった。そうすることで,老いに適応できない社会の問題を直視しないですむからである。
 医療の側も近代医療で治癒可能であるかのように思い込もうとした。呆けを「アルツハイマー型痴呆」と言い,少しずつ「アルツハイマー病」と言いかえることで,老いに無力な近代合理主義の限界に目をつぶろうとしたのである。

人は個性的に呆ける

 そんな流れの中で,私に“関係障害としての呆け”論に確信を得させてくれる事件があった。この本の著者,松井俊雄さんの講座を聞いたのである。
 当時松井さんは,わが国の民間デイサービスの草分けである「みさと保養所」で,呆け老人の在宅ケアを支える仕事をされており,それに続けとばかりに,川崎市で生まれたばかりの「生活リハビリクラブ」の勉強会に呼ばれて話をされたのである。
 彼の話を聞いて,世の中には同じことを感じ,同じことを思って,同じことをやっている人がいるもんなんだと,私は驚いてしまった。私は広島の特別養護老人ホーム,彼は群馬の民間デイと,所は違えども,呆け老人は同じ,そしてそれに関わる人間の考えること,やることも同じなのである。
 人は個性的に呆ける。個性が数字にならないように,呆けも数字で評価できるものではない。この本には,同じ「生きいきケア選書」の既刊書『よりそってケア』と同じように,個別の老人の個別のエピソードが充満している。そのエピソードを深めることはあっても,アプローチをマニュアル化したりすることはされない。医療の世界の人たちはそれを「普遍性がない」なんて言うかもしれない。しかし,個別の老いや生活を“数量化”“普遍化”し得ると考える近代的思考こそが,老人問題を作り出しているのではないか。医療の出版社から出された,医療の枠を越える1冊である。
B5変・頁170 定価(本体2,000円+税) 医学書院


高齢者の理解を高める…正常をしっかりみる目の重要性

高齢者の看護アセスメント
アネットG. ルーキンオッティ 著/前川厚子,他 監訳

《書 評》真田弘美(金沢大教授・保健学)

 今般,医学書院MYWより刊行された『高齢者の看護アセスメント』は,成人とは異なった正常さを堅持しつつ生きる高齢者の身体的なアセスメントが詳細に記載されている。高齢者の健康アセスメント・ツールも多数紹介されており,この1冊で系統的な知識と訓練が行なえ,高齢者ケアに携わる看護者の導きの書になると考える。それにしても,米国では看護専門職が医師に劣らぬ身体的・精神的健康の正常と逸脱の知識と,診察の手技を身につけていることに感心する。ヘルスケアチームメンバーとしての責任感が強く,またそのための必要な学習の努力を惜しまない気概溢れる書であると感じた。
 解剖に関する図が豊富で,しかも加齢による変化を押さえた記述が,高齢者の心身への理解を助けてくれる。また,随所にBOX欄で日常の看護に活かせるケアのガイドラインが載せてあり参考となる。事例や対象となっている数値は一般的な米国の高齢者の体格やデータが基準となっているが,必要な箇所では日本人における参考値を併記してあり訳書の違和感が少ない。

EBNと呼ぶにふさわしい

 高齢者は1つの機能障害が全身の機能低下に影響を及ぼし,不可逆的な変化をもたらしやすいだけに,目の前の問題だけでなく潜在的な問題をどれだけ予測できるかがケアの鍵であろう。さらには,在宅や施設といった医師が身近にいつもいるとは限らない場で働く看護職が増加してきた今日,こうした心身の中を適切にイメージでき,高齢者の健康の逸脱を判断できる看護職の存在はますます重要であろう。そのような観点からも,米国のナースプラクティショナーである筆者によって体験され,実際に裏付けられた本書こそ,「Evidence-Based Nursing」と呼ぶにふさわしい参考書といえる。
 本文もさることながら付録にも注目していただきたい。米国では米国厚生省公衆衛生局医療政策・研究機関(AHCPR)が医療費削減のために治療・ケアのガイドラインを,患者用と医療者用に分けて提供している。この本では,ガイドラインの中でも,特に高齢者に頻発する急性・慢性失禁および褥創の予測と予防を取りあげている。私自身ETナース(Enterostomal Therapy Nurse)であり,今回特に失禁のガイドラインに大変興味を持った。
 具体的には,尿失禁ケア(付録C)の項では失禁パターンだけでなく,失禁に影響すると考えられる疾病や薬剤などを関連づけてアセスメントし,介入方法を提示してある。日本においてはコンチネンスアドバイザーやET等の専門的技術と考えられてきたケア方法を,このガイドラインでは基本的な看護技術として位置づけ情報を提供している。即実践に役立てることができるほど具体的に解説してあるので必見の価値がある。積み重ねてきた自分の経験・知識をより確かな専門知識・技術へ高めていきたいと触発され,私にとっては必携の1冊である。
A5変・頁348 定価(本体3,800円+税) 医学書院MYW