医学界新聞

《看護版特別編集》

座談会

訪問看護と地域リハビリテーション

チームとしてのシステム化を図るために

乙坂 佳代
(港北医療センター訪問
看護ステーション管理者)
深沢 啓子
(横浜市総合リハビリ
テーションセンター)
伊藤 利之
(司会/横浜市総合リハビリ
テーションセンター長)
清崎由美子
(石心会訪問看護
ステーション統括部長)


今,訪問看護の現場では

伊藤 公的介護保険制度の導入を1年後に控えていますが,今日は訪問看護の現場では何が問題になっているのかという点につきまして,地域リハビリテーションの視点から,訪問看護ステーション(以下,ステーション)とリハビリテーション(以下,リハ)施設との連携や役割分担,チームワークの問題点,今後の地域システムのあり方などをディスカッションしたいと思います。

自信のない機能評価

伊藤 最初に,ステーションの立場から,現場では何が問題になっているのか,お話をうかがいたいと思います。
乙坂 私は,横浜市にある医師会系のステーションで,現在160-170名の利用者の訪問看護をしています。その中でリハにかかわる援助というのは,1998年の6月の統計ですが,161名の利用者に対して,日常生活動作の援助は79名,ROM(可動域)の訓練から散歩の介助までを含めますと94名となり,ステーションの業務の中でも非常に大きなウエイトを占めている分野です。
 リハ的な援助については,ステーションで勉強会をしたり,外部主催のセミナーに参加することで力をつけるようにしていますが,機能維持であっても「この人にどういうプログラムを立てるのか」という点が非常に難しいところです。プログラムを立てる段階で,それがその人にとって適切かどうか,機能予後などについてどこまでを評価できるかという課題があり,今は試行錯誤といった状況だと思っています。
清崎 私は,川崎市で同じ医療法人の3つのステーションのとりまとめをしていますが,リハのことではいろいろと問題を感じてきました。
 当ステーションの,1998年4-11月までの訪問回数に占めるリハのかかわりをみますと約47.6%でした。神奈川県の115ステーションの傾向をみますと,残念ながら1997年度の数字がなかったのですが,1994年が39.7%,1995年が41%,1996年が55%と増加しており,私どもの傾向と同様でした。
 私たち看護職は,専門的に運動療法などの教育を受けてはいないものですから,経験上の知識で実施しているという部分があります。現在は週に1回非常勤PT(理学療法士)に来てもらっていますが,それで足りない部分は後方支援の病院のPTに評価やプログラムの作成を依頼しています。その効果はあったのですが,デメリットも出てきました。それは,新人の場合特にですが,利用者の生活の幅を広げていくのが看護職の役割のはずなのに,その部分までPTに頼る傾向になるという点です。
 一方,PTに対する不満も正直なところあります。というのは,看護職は,実際の生活の場面ではもう少しできる,もっと先に進ませたいと思っているのに,PTに機能訓練を制限されてしまうことがあり,その目標や制限,限界の決め方に看護職と差が生じてしまうことです。
 それから,入院中にもう少し患者さんを自立させて帰してくだされば,介護者がもっと楽で,本人のQOLもあがるのに,と思うことがあります。また退院後,病院とのつながりがプッツリ切れてしまって,病院で行なってきた訓練が家ではできない,役に立たないと,私どもに連絡が入ることもたくさんあります。そのあたりを今後どうしていこうかと考えているところです。
乙坂 病院での日常生活動作の訓練は,環境の整った中で,しかも限られた動作しかできないのではないでしょうか。在宅で,例えば実際にベッドからトイレまでどのように動くかということを考慮に入れた訓練ではないと思うのですが。

難しい機能予後の予測

伊藤 リハの基本的な考え方として,身体機能を喪失したり低下した状態で入院された患者さんに対して,最終的にはその人なりの「自立生活」をゴールとして設定しますが,だからといって入院中にそのすべての訓練が終わるのだとは考えるべきではないと思います(下図参照)。
 つまり,身体機能の改善については,主に病院で機能評価や訓練をすることになると思いますが,特に障害が重度の場合には家に帰ってから,その環境に合った生活訓練のようなものが必要になるかと思います。その意味では,病院での機能訓練やADL訓練を土台にしながらも,新たなリハプログラムを立てる必要があるのではないですか。
乙坂 そのために,個別に看護計画を立てています。基本としては,ベッド上での起居動作から始まって,生活の基本動作が確立されるまでです。ただ,そのプロセスにおいて,その人にとってどこがポイントであり,優先順位はどうかが,私たち看護職はしっかりと構築できていないのではないかという思いがあり,プログラム作成に自信が持てないのも事実です。
清崎 機能評価ですが,訪問する看護職によって違いが出てくると困りますので,私のステーションではPTと一緒に作ったプロトコールを利用しています。例えば,ポータブルトイレを使うことを目標とした場合,立つ,ズボンを下げる,お尻を拭く,などの一連の動作の中で,どこが問題なのかをチェックすること。また,ここまでできたのだから次にどの訓練に進むのかという,フローチャートも作りました。
 多少個別性を無視しているような感じですけれど,このチャートでやっていければPTがすぐに入らなくてもなんとかなる,ということをめざしました。そこに1人ひとりの個別性を出すとなると,やはりPTに入ってもらいその家庭状況をみていくことも必要だと思います。
伊藤 フローチャートを使って評価をすれば,基本的に今の現象を確認することはできますよね。問題は機能予後をどう推測するかということだと思いますが,そのあたりの判断はいかがでしょうか。
清崎 看護職によって違ってきますので,ケアカンファレンスを開いて,担当の看護職だけで決めないようにはしています。
乙坂 ベテランの看護職がそこで評価し,アドバイスをして,看護計画の見直しもしていくかたちになります。機能的な予後を予測することは本当に難しいと思います。私たちは,身体状況がどう悪くなるかという予測はできるものの,機能としてどうかとなるとはっきりは構築できないですね。
伊藤 そこがいつも悩むところですね。そのあたりがリハの専門家が必要とされている部分といえるでしょうか。つまり機能予後の評価がベースで,そこがしっかりすると,プログラムも非常に明確になってきて,ゴール設定が明確になり,それとの関係で生活スタイルも決まってくると思います。
 はっきり言って,リハの専門スタッフだからといって1人で評価するのは難しいところで,チームでカンファレンスをして,いろいろな角度からみていく手法が必要です。やはりここではチームアプローチできる体制を地域で確立していかないとなかなかできないと思います。
 リハの専門施設で働いている立場から,深沢さんはこの点についていかがですか。

リハプログラムと看護計画

深沢 リハプログラムを作成するための評価にリハの専門職がほしいということだと思いますが,確かに看護職はそういった教育を受けてきていません。ですから,感覚的にとらえたり,自分で抱え込んだりということが多いのだと思います。しかし,私は機能訓練と生活スタイルの援助ということを別個だとは思っていません。きちんと評価をして,ゴール設定をしてというのは大事なことだと思いますけれども,それと生活スタイルの援助を関連させることは別のことではなく,全部が看護計画だと思っています。ですから,他の専門職種に頼らなくても,看護職としてできることではないでしょうか。
清崎 ただ,看護職だけですと,看護職だけの視野ということになってくると思うんです。1人の利用者をとりまく環境はいろいろありますから,医師が入り,リハの専門医,看護職,PT,OT,ケースワーカー,ヘルパーが入るというように関連する職種がチームでみていく。看護計画としてはこれでいいと思っていても,別の方向からの見方もあるわけで,さまざまな職種に入ってもらうことが大切だと思います。
深沢 もちろんそうです。ただ,それと看護計画によってその人に何をなしえたかということの評価というのは,違うことだと思うんですよ。
乙坂 看護計画の評価としてではないんですね。そこの妥当性についての評価は,看護職が自信を持ってできても,リハの部分についてはまだトレーニングの最中だというのが私の実感です。
伊藤 機能訓練をリハの専門病院で受けてこられた人と,受けてこられなかった人とでは大きな違いがありますね。前者の場合これ以上の機能の回復はあまり期待できないという見方がある程度はできると思います。ですから,看護計画としては,「この障害とつきあいながら,どう生活すればよいか」を考えるのが妥当だと思います。
 今,乙坂さんや清崎さんが言われたのは,訪問看護の場では,そうは言ってもリハ的判断ができない人がいらっしゃるということ。しかし,深沢さんのようにリハの施設で働いていれば,各専門スタッフがそばにいて評価をしてくれるという強さがあります。だから,看護計画という点では必要ないという話になるわけで,そこが今の話の食い違いかと思います。基本的に機能予後に関する評価の情報が得られれば,リハ技術の獲得や研修体制を組むことでかなりの問題が解決できるのではないでしょうか。

病院との連携でめざすもの

スムーズに連携をとるために

伊藤 先ほど清崎さんから継続看護の問題が出されました。例えば脳卒中などの中途障害の方には,病院での急性期の治療,回復期の治療と医学的リハが行なわれ,そして退院していくわけですが,この過程でスムーズな連携がとれないというのは,どこに問題があると思われますか。
清崎 体制のとれた病院では,いわゆる退院指導として事前に自宅へ行って本人のリハの方針を決め,在宅での訓練まで取り組んでくださるので,それがその人に合ったものになってはいなかったということもあります。それと,退院した後もご自分で機能訓練をずっと継続できる人ならばあまり問題はないのですが,セルフケアというのはすごく大変です。そういう意味では,退院する前にその部分をどこかに,例えばステーションに頼めばよいと思うのですが,そういう意識がまだ病院にはないのかなと感じますね。
乙坂 それと,たぶん病院での評価と,在宅に帰ってからの評価が違うのだと思います。入院生活では問題がそれほどみえない方でも,家庭に帰れば主婦の役割を果たさなければいけない,というようにいろいろな意味で問題が多くなります。結局そこがフォローされないまま在宅となってしまう。ですから,退院の時には「なんとかやってみます」と帰っても,実際には自分たちに都合のよい,自己流のやり方が確立されてしまうところに問題があります。
清崎 時間がたって,どんどん機能が低下してしまってから,「困った」と連絡があるわけです。
伊藤 「自己流」が定着してしまうと,けっこう面倒なことになりますか。
乙坂 なりますね。どこかの関節を傷めるとか,身体の不自然な使い方をしていても,自分が転んだり,どこか傷めたりしないかぎりそれを続けていくことを選びますので,その時点で新たなスタイルを構築するとなると非常に難しくなるわけです。

退院前にできること

伊藤 そうしますと,在宅生活というのは新しい生活スタイルの構築であって,患者さんにとってもご家族にとっても初めてのことになりますね。施設内では,家という環境下であるという具体性がないわけですが,どう解決したらよいでしょう。
乙坂 入院中の退院指導の一環として,在宅看護を専門としている方と一緒に考えていくことが必要だと思います。寝たきりの人が,階段のあるお宅に外泊をするというのは難しいでしょうから,そういう人は病院の中である程度イメージした生活を組み立てることも必要です。退院前にカンファレンスをしていて,非常に有益だと思うのは,在宅での生活がある程度予測できますので,私たちが問題提起を行ない,それについて入院中にトライしてもらうことも可能だということです。しかし,外泊も病院の日課ではなく,退院後の実際の生活イメージで過ごしてもらわないと,ただ単に体験するだけにとどまってしまい,効果が半減してしまうという危惧はあります。
伊藤 実際に退院指導をする立場ではどうですか?
深沢 いったん退院してみるか,何回かの外泊の経験を積んでから退院するというところですが,これはケースによって違うと思います。ある程度生活を経験した上でないと出てこない問題というのがありますから,その場合はいったん退院して段階的に経験してもらうことが適当だと思います。また,家族に病院に来ていただいて一緒に生活をし,24時間の介護を経験してもらうという方法もあります。しかし病院ですと,看護職に手伝ってもらえるという環境がありますから,あまり実感がわいてこないかもしれませんね。そういう意味では,外泊訓練が有効だと思いますので,そこに力を入れています。

病院との連携の実態

伊藤 退院すれば,経過とともに症状は変わりますし,障害の程度も変わってきますよね。ですから,ずっと病院がみていくということは難しくて,病院の性格からすればやはり退院指導でおしまいだろうと思います。そこで,むしろステーションの側が,病院から連絡を受けた時に,そのケースのいる病院に行ってディスカッションしてくる,あるいは外泊の時に一堂に会して話し合うということがあると非常にスムーズになるでしょうね。そのあたりについてはいかがですか。
乙坂 ステーションがカンファレンスのお話をいただく時点では,病院側も必要性はどこまでと選別をしていますから,必要な人についてはカンファレンスを,そうでない方は書類のサマリーだけで大丈夫だろうということで,連携がとれている病院とは,実際にそのやりとりができています。
伊藤 双方に共通言語ができてくれば,ある程度難しいケースについてはカンファレンスをやるけれど,そうでないケースは書類だけで済むという話になってきますね。病院に対してステーションの側からアプローチをするということはできますか。
清崎 呼ばれれば動けるのですが。
乙坂 呼ばれなければ動けないというのが本音です。私たちはサービスを提供する側ですが,基本的には申し込みがあって初めて利用者の情報を知るわけです。横浜市もそうですが,退院から継続看護への依頼は,主に区役所が窓口になっています。そこで,保健婦さんやケースワーカーさんが必要性を評価して,その上で初めて私たちに話がくる場合が多いのです。病院からダイレクトの依頼もありますが,それはまれです。
清崎 まったく新規の人ですと,私たちには情報そのものがありません。もともとステーションの利用者だった人が,具合が悪くなって入院したのなら,定期的に病院やお宅に電話をして経過を聞くことができますし,退院前のカンファレンスに参加をしたりしています。
伊藤 一定程度,その病院との間に関係ができあがれば,ダイレクトな依頼も増えるし,書類や電話でもかなり対応できるようになると思いますが,どのくらい病院とリハ的に連携が取れているのでしょうか。
乙坂 私どもは1施設だけですね。ケースの数としては,主治医としてかかわっていただいているのが3人ぐらいです。ただ,後方支援という場合もありますので,主治医ではなくとも,ある程度のアドバイスをいただいている方はたくさんいます。
清崎 現利用者の3割ぐらいに後方支援病院がかかわっていますが,それを除くと1,2施設で,そこのリハ医や看護職,PTと連絡を取って行なっている状況です。

これからの地域リハビリテーション

チームに求められる人材は

伊藤 これからの地域リハを考えますと,ステーションが軸になって,リハの専門職集団のチーム,あるいは病院の中のリハ部門との連携が必要になると思います。では,そういうところとの連携の仕方はどうあるのがよいのかについて具体的な話をしていきたいと思います。
乙坂 ALSの方の例ですが,なんとか歩けたので,つかまり歩行でトイレもお風呂も1人の介助でできました。ところが,徐々に歩行が不安定になり,日中は1人なので,移動の手段を見直さなければならなくなりました。歩行は危険だから車椅子の使用を考えるのですが,車椅子に座っていても,上肢の機能が悪ければ座りっきりになってしまうので,生活全部を組み立て直さなければならないという場合があります。そういう場合,私たちがみているところと,PTやOT(作業療法士)の方がみるところが違う。看護職がみることの限界がどうしても出てきてしまうということがあります。
伊藤 そのようなチームのメンバーには,どのような人が求められますか。
乙坂 実際に生活をみている看護職やヘルパー,それから専門職としてPTかOT,最低そのレベルは必要です。さらにそれをコーディネートしたり,具体的なサービスにつなげるためにはケースワーカーも必要で,もちろん,そこには本人や家族がいることが条件になるのかなと思います。
伊藤 そこにリハ医は存在しませんね(笑)。
乙坂 いえ,私は意図的に外したんです(笑)。
伊藤 実は,このことはリハ学会の中でも問題にされていて,いつでもリハ医というのはあまり頼りにされていない,あるいは意識されていないというか,必要とされてないんじゃないかと……。
深沢 それはリハ医が少ないのが原因ではないでしょうか。どこの病院でもリハ部門があるわけではありませんし,専門の科を持った総合病院ですとか,リハの専門施設にしかいないわけです。だから,そことの連携がなければリハ医はすぐには出てこないですよね。

バックアップシステムとしての連携

伊藤 例えば,ALSのような難病のケースですと,私どものセンターではステーションとやりとりしながらずっとバックアップをしていきます。それは,退院の時と基本的に同じだと思いますが,リハの面での後方支援的な施設が必要だという考えからです。そこで,病院とステーションの連携ですが,どういう連携の仕方がよいのか,あるいはその役割分担みたいなものについてはどう考えていますか。
深沢 ステーションとのカンファレンスは,システムとしてきちんとやっていくという意味で必要なことだと思いますし,スムーズな連携のため退院後の情報交換を行なう上でも必要だと思います。また,そこに本人や家族に入ってもらうことによって,「追い出される」というような気持ちから,「これから家での生活が始まる」という意識づけと言いますか,気持ちのつなぎになりますので,私はこのカンファレンスがすごく重要だと考えています。
 私たちのセンターでは退院指導の一環ですけれども,ステーションの方に来ていただいて,家族と本人のいるベッドサイドで3者会議のようなかたちをとって引き継ぎをしています。今,その人にいちばん適している方法をみていただくこと,現状をわかっていただくという意味合いが大きいんです。
 それから,サマリーも書きますが,昔と比べるとかなり中身の項目が変わってきています。そこで最も悩むのは,「退院後に問題となる点」です。顕在化している問題は,あまり在宅でも問題にならないのですが,むしろ新たに出てくる問題というのがどのくらい予測できているのかです。できるだけそこを書こうと努力はしているのですが,受け取られる側との認識が一致できるかなという不安があります。
乙坂 病棟の看護職とダイレクトというのではなく,現状のように区役所ですとか,病院の地域サービス課というところでいったん受けて,そこでアレンジをしたほうが問題は整理しやすいと思います。必ずしも看護の問題だけがあるわけではありませんので,他の職種もかかわる総合的な窓口があったほうがよいと思います。
 それから,利用者の生活の幅を広げることや,家族を含めたQOLのことも,バックアップ機能として求められているのではないでしょうか。
伊藤 本当にそういうことが,今地域の中で切実に求められているのですか。
乙坂 それこそ「生命を維持するというレベル」ではない,やはり高いレベルの要求ではあると思いますが,確実にそのニーズはあると思います。それがないと,結局「知らなかった」あるいは「ないから使えなかった」ということで終わってしまう。ですが,そういう部門があれば当然ニーズは高くなりますし,私たち自身も連携を取ることでメリットがあると思えば,それをもっと有効に使うと思います。
伊藤 清崎さんのところは,リハ部門のある後方支援の病院を持っているわけですが,そことの連携はどのようにされていますか。
清崎 例えば利用者の変化に対して自分たちの判断に困った時に,「行ってくれますか」と頼んで,その担当看護職と一緒に行ってもらう,またはPTが行けば解決できそうな問題の場合には,直接病院のPTにお願いしています。
伊藤 そうすると,単に病院のリハ部門だけではなくて,そういう総合的な機能をもったバックアップシステムがほしいということですね。
清崎 そうですね。生活をベースに考えられる,それがわかった人たちがいるところですね。

看護が地域リハビリテーションの原動力に

社会参加にどうつなげるのか

清崎 リハは,やる気が出れば7-8割は成功だと聞いていますが,精神的に落ちてしまった人を引っ張りあげることができた時のその快感というのも,また何ものにも代えがたいものがあります。それには,その人がやる気になった時を「今だ」と,チャンスを逃さないプロの目が必要ですね。
 38歳で脳卒中片麻痺となった女性の例ですが,杖歩行が可能となり,自分でお風呂にも入れる,片手で料理もできるようになって帰ったにもかかわらず,家の中の生活だけで,2年間,1歩も外に出ないまま持っている能力が生かされていないということがありました。
 その方のきっかけとなったのは,ご主人が呆れ果てて離婚を言い出した時でした。「看護婦さん,私,歩かなきゃいけないかしら?」と言い始めたんです。その時に私は,「今だな」と思ったんです。それで毎週のように外に連れていきました。それもただ歩くだけじゃおもしろくないから,買い物に行ってみたり,銀行でお金を下ろしたり,郵便局に行ったり,自動販売機を使ってみたりしました。それがある程度介助つきでできたら,次は1人でやってみて,その後やっと作業所まで引っ張り出したんです。作業所に行ったら,自分で何千円かですが,お金が稼げてやる気につながりました。退院後,初めて電車に乗った時に,その方が一言「生きててよかった」とおっしゃったんです。私は一緒に泣いてしまったのですが,そういうところの楽しみというものを,訪問看護婦にはわかってほしい。これこそ訪問看護の醍醐味と思うのですが,ちょっと話がずれましたか……(笑)。
伊藤 いや,まさに今のことが今日の結論にしたいと思うところです。要するに,ステーションにどういう役割を果たしてもらいたいかというのを,リハの専門家の立場から言わせてもらいますと,機能訓練は必要ですが,機能訓練という頭ではなくて,それを通してどうやって社会参加につなげるかという,そのプランをきちんと立てていただいて,それをどう実行するかというところだと思うんです。

何のために機能訓練をするのか

伊藤 そのプランの作成をバックアップするのに,入院していた病院のリハ部門の機能評価や予後評価の情報を提供してもらうとか,在宅生活の中でバックアップとしての地域リハ機関を利用するとかすれば,かなり社会参加を推進していくプランを立てられるだろうと思います。そうすれば,もっと有効にステーションの看護職が働けるようになるのではないですか。
 しかし,医師の指示書が必要ということから,それが主に機能訓練になってしまう。障害を持ってどう生活するか,どう生きるかというところにもう少し目を向けなくてはいけないのに,機能訓練をすることによって医療に引き戻してしまうということがしばしば目につきます。
 今までの医療モデルで育ってきた看護婦さんがステーションの主役ですから,旧来の医療モデルに沿った看護を提供しがちだと思います。そこが非常に気になっていましたが,地域の中ではもう少し生活モデルというものに目を向けていただいて,今清崎さんが言われたようなこと,「それが醍醐味なんだ」というところに価値観を持たないといけないだろうと思いますが……。
乙坂 そうですね,そこをどう展開するかは,むしろ私たちのテリトリーで,そこは「お任せください」と言いたいですね。医療管理としてのケアプラン,もちろんそれはベースにあるけれども,その人のケアプランとして何がいちばん優先されるかということを考えていったらいいと思います。

連携で培う安心感

深沢 ステーションがたくさんできてきて,たくさんの具体的なケースで連携するようになってきました。それらを通してですが,私たちと同じ看護の認識レベルで患者さんを引き継げるということに,とても力強さを感じます。私は以前総合病院に勤務していましたが,そこから区役所の保健婦さんにつないでいた時と比較すると安心感はまったく違います。
 私たちとしては,「ぜひこのケースにはこのやり方を続けてください」と言いたい時もあるんです。でも,それをあえて言わなくてもわかってもらえる,そうなってきたことをすごく嬉しいと思っています。
乙坂 直接サービスを提供する同士で話ができますから,「そこまでの苦労もわかる」ということがありますね。このところは大事にしていこうと思っています。
深沢 だからこそ,ステーションがどういうケアプランを立てるのかということについても,あまり不安を感じていません。
乙坂 それは嬉しいことです。
伊藤 どうも,わが国ではホームドクターがリハの,特に機能訓練にこだわる傾向が強いですから,地域リハを推進していく力にはなりえないかもしれない(笑)。ここまでの話を聞きますと,やはり看護の力に頼りたくなります。そういう意味では,介護保険下で今考えられている地域リハ支援センターといった構想が実現して,生活モデルを想定したリハの支援機関としての役割を果たしてもらえれば,ステーションもさらなる活躍が期待できると思います。
 今日はありがとうございました。
(1998年12月9日,横浜市総合リハビリテーションセンターにて収録)