医学界新聞

介護保険制度の導入と保健婦の役割について論議

第31回自治体に働く保健婦のつどい開催


 さる1月30-31日の両日,第31回自治体に働く保健婦のつどい(田中香南江委員長)が,横浜市の関内ホール,開港記念会館などを会場に開催された。
 同つどいでは,基調講演「今後,保健・医療・福祉はどう変わるか」(全国共同作業所連絡会理事 藤井克徳氏)を皮切りに,シンポジウム「介護保険制度下における成人保健活動を考える」や,トーク(1)「保健婦活動の基本を学ぶ」,(2)「地域保健法,基本指針の見直しの動きに際して-保健所のあり方を改めて考える」の他,基礎講座として(1)自治体の再編と行政への市場参入,(2)老人保健事業は今後どうなるかなど6講座,また分科会が(1)保健婦の出番と生活状態調査,(2)予防活動の展開を学ぶなど6セッション,さらに記念講演「経済不況と私たちのくらし」(横浜国大 上川孝夫氏),自由交流集会など盛りだくさんのプログラムが企画された。

保健婦の仕事がなくなる?

 また,初日の夜(19-21時)には特別集会「介護保険Q&A」が,篠崎次男氏(立命館大),森下浩子氏(広島県沼隈町)を助言者に,「問題を持ちよって徹底討論をしよう」との主旨で開催された。
 本集会には,介護保険モデル事業の一員として,また審査会委員として参加した保健婦らが多数参加(多くは介護支援専門員の資格を取得していた)し,本年10月より施行のための本格的準備が進められる介護保険と現在の老人保健法の問題や関連について議論が交わされた。
 この中で篠崎氏は,「現行の老人保健法は,業務の大部分が介護保険法に移行するため骨抜きとされる」,「かかりつけ医制度の下,健康診断,健康相談,健康教育などが医師へ移行され,保健婦の仕事は現在の福祉事務職に,さらに事務は無資格の若手事務員でも可能なため,保健婦自体の役割がなくなる」との大胆な推測を述べたが,集会のまとめにあたっては,「公衆衛生の主体者は住民であるとの視点で,保健婦という職種を守りながら,介護保険をみつめ,事業を推進していこう」との心構えが会場で確認された。

これからの保健所のあり方を問う

 1997年度から全面施行された地域保健法の改定により,全国の保健所では統廃合が進められている。一方厚生省の公衆衛生審議会は,昨(1998)年11月から中核市の指定人口要件をこれまでの30万人以上から20万人以上とする「地方分権推進計画」の方針を踏まえた「地域保健対策の推進に関する基本的な指針」の見直しを開始した。
 これらを背景に,2日目朝からは基本指針の見直しの動きに際して,保健所の設置基準と保健所強化策の現状,危機管理問題,介護保険制度や市町村との関係について語り合い,保健所における地区担当制の意味,保健所や保健センターは何をめざすのか,介護保険制度にどうかかわるのかなどを論じ合うことを目的としたトーク(2)「保健所のあり方を改めて考える」が開催された。

統廃合がもたらす弊害

 同トークには4人の報告者の他,仁平將氏(青森県五所川原保健所長)と池上洋通氏(自治体問題研究所)が助言者として登壇。
 まず占部芳里氏(福岡県遠賀保健所)は,福岡県における保健所の現況と保健所の強化策を報告。福岡県内全町村と一部の市で進められている介護保険制度の導入に向けた120万人規模の大広域連合構想を紹介。地方分権に逆行する動きに,「福祉に対する自治体の責任放棄」「住民の意思が反映されない」などの批判があることを伝えた。
 続いて亀岡照子氏(大阪市平野保健所)は,現在の大阪市の健康実態について,「結核は世界第4位の罹患率で,一部地域では世界1位。路上生活者から140名を超える集団赤痢が発生した。癌,肝硬変などの死亡率が全国平均より数段高く,平均余命は仙台市や東京都に比べて2-3歳短い。また,ダイオキシン汚染は世界一で,不健康な260万人都市である」と強調。さらに,「住民にほとんど内容を知らせないままに2000年4月実施に向けた『1保健所24センター案』を大阪市が進めている」と報告し,「予防医学が最重要課題である現況にもかかわらず,市の対応は逆行している」と批判発言を行なった。また,医療関係者や住民からも反対の声があがり,「保健所は健康と暮らしを守る砦」と,統廃合に対し反対行動を起こしていることを伝えた。
 一方,全国に先駆け1997年に17保健所14健康相談所が12保健所に統廃合された東京都府中小金井保健所の佐久間京子氏は,サービスを低下させない,また保健所機能強化としてとられた方策を紹介。その取り組みとして,「全国的に業務分担制が拡大する中,責任を明確化できる地区分担制を堅持した」ことを強調し,「健康と暮らしを守るという公衆衛生の課題は,どのような体制になろうとも不変的な課題」と述べた。また,横田静子氏(北海道緑ケ丘病院)は,「北海道は,住民に情報が知らされることなく1998年に45保健所1支所から26保健所20支所に統廃合された。職員が減員される中で保健婦の数は確保したものの,業務分担制となり,範囲が250kmまで拡大し,過労で倒れる職員も出てきた」と報告し,今後の再編に向けた取り組みの必要性を強調した。

住民とともに歩む専門職

 これらの報告を受けて助言者の仁平氏は,「地域における計画に対する評価の検討をすること,住民とともに検証をしていくことも重要」と,保健所の機能評価の検証の必要性を強調。また池上氏は,「保健支所・センターとなっても,それまでの業務や政策をどう維持していくかが今後のポイント」と述べ,「住民の健康を生み出す,住民のための保健所であることを意識してほしい。主治医がいるように,住民にとっての『主治保健婦』としての地域担当制がこれからはますます重要になる」と指摘した。また,将来的には最大人口1万人の小学校区を基本とした,「地域住民の交流可能な保健所機能施設が理想」と語った。
 なおフロアからは,森下浩子氏が,「保健婦は土・日や休日,夜間には機能せず,コーディネーターとしての能力があるのかが疑問。土・日や夜間の対応までのフォローをしてこそ住民の要望に応えられるのではないか」と苦言を呈した。
 また中澤正夫氏(代々木病院)は,「これまで住民として,保健婦の世話になったことがない。それだけ住民にはかけ離れた存在であるからこそ,住民に情報を発信する必要がある。また,介護保険法等,当面の問題は老人にあるが,元気な老人は大勢おり,これからはますます力のある老人が増えてくる。今後は老人をターゲットに一緒に組むことを考えてほしい。また,21世紀の健康を考えるならば,環境問題にも取り組んでほしい」と意見を述べた。