医学界新聞

第33回日本成人病学会開催


成人病対策を総合的に評価・検討

 さる,1月14-15日の両日,第33回日本成人病学会が,武藤徹一郎会長(東大教授)のもと,東京・千代田区のシェーンバッハ・サボーにおいて開催された。1997年から「生活習慣病」という言葉が一般に使われるようになったが,本学会では,“成人病は生活習慣病を包含する広域な疾患概念”と捉え,今回のテーマに「成人病-ライフスタイルの影響」を掲げた。会長講演「成人病としての大腸疾患」(武藤会長),特別講演「養生の考え方-歴史から拾った話題」(慶大 大村敏郎氏)をはじめ,教育講演4題,シンポジウム2題,一般演題60題の発表などが行なわれた本学会では,「病は1つにあらず」という武藤会長の言葉どおり,多方面からの成人病に関する研究が報告されたが,本号では,初日に行なわれたシンポジウム I「成人病-ライフスタイルの影響」(司会=慈恵医大 戸田剛太郎氏,杏林大 跡見裕氏)を報告する。

遺伝子研究からライフスタイルまで

 6人が登壇したシンポジウムでは,まず最初に羽田明氏(旭川医大)が,遺伝子の成人病への関与について口演。(1)ヒト遺伝多型の応用,(2)統計手法の進歩,(3)ヒトゲノム計画の進展などにより,多くの疾患の原因遺伝子が同定されようとしていることから,「これからは,健康診断や治療といった2次予防ではなく,健康教育,健康相談,遺伝相談といった1次予防が成人病の予防の中心となる」と語り,また,遺伝子検査における技術向上や倫理的問題への対応を今後の課題とした。
 続く3氏は,動脈硬化(東大 大内尉義氏),大腸癌(大阪府成人病センター研 石川秀樹氏),炎症性腸疾患(九州大 古野純典氏)に対するライフスタイルの影響を研究。それぞれ,「食事,喫煙,飲酒,運動不足,ストレスなどの要因は,相加的ではなく相乗的に影響を与える」(大内氏),「予防臨床試験の途中であるが,食事指導は有効。ただ,“食物繊維が豊富なビスケット”の投与は,安心感から食事改善意識の低下をもたらす」(石川氏),「野菜・果物は予防的。喫煙・飲酒の関与は不確定」(古野氏)と述べ,ライフスタイルの影響力と,予防の可能性を示した。

メンタルな視点からも

 一方,夏目誠氏(大阪府立こころの健康総合センター)は,A型の血液型を持つ人の行動パターン(Aパターン)が,ストレスを介して疾病にどう作用するかを研究。「Aパターンは比較的ストレス度が高くなる傾向があり,適応障害や身体表現性障害,不安障害になりやすい」とし,支援法や診断といった対応策にも言及した。
 また,森本兼曩氏(阪大)は,ライフスタイルの良し悪しが,糖尿病やがん,循環器疾患などのリスクファクターになることを示すとともに,「3年前の阪神・淡路大震災で大きな揺れを経験した人は,比較的小さな揺れを経験した人より心的外傷が大きい」ことをあげ,精神・心理的健康状態の疾患への関与も示唆した。
 総合討論では,先天性の要因とライフスタイルの要因が比較・検討されたが,戸田氏は,「遺伝子・免疫系もライフスタイルも,成人病に対して大きな影響力を持っているが,いずれも解明に向かって急速に進んでいる」と,本シンポジウムを締めた。