医学界新聞

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


ケアマネジメントの第一人者による案内書

ケアマネジメント ハンドブック
白澤政和 著

《書 評》橋本正明(立教大教授・コミュニティ福祉学)

 わが国におけるケアマネジメントの第一人者であることを自他ともに認める著者による,ケアマネジメントの案内書である。側聞するところによるとこの原稿の主たる部分はすでに数年前にできあがっていたそうである。しかし介護保険の具体的な姿,特に介護支援専門員の養成プログラムが明確化されるのを待って出版されたという。
 昨年9月から10月にかけて全国で実施された介護支援専門員の実務研修受講試験の合格者発表が済んだ現在,このハンドブックの持つ意味は大きい。
 今回の介護支援専門員の受講試験の盛り上がりは何であったのだろうか。全国で20万人以上が受験し,テキストは30万部も販売されたという。いうまでもなくこれは,新しい介護サービスシステムの登場に,さまざまな分野の専門職や実務家が乗り遅れてはならじと積極的に取り組んだ結果だということができる。
 各専門職団体においても大いにこれを推奨し,受験講座等を開催し,そのバックアップに努めた。その意味で,介護保険の理解を各種実務家に広めた効用は大きいものがある。特に従来連携の必要性が言われながら共通の土俵に乗ることが容易でなかった福祉職と医療職が,共通の基盤そして共通の価値観を持つことができたことの意味は大きい。それが誰にとってかといえば,いうまでもなく介護問題をかかえる1人ひとりの市民にとってである。

生活支援の有効なツール

 この本で著者は,介護保険におけるケアマネジメントの意味を鋭く,そしてわかりやすく解説している。「介護保険とケアマネジメントは本来無関係である」と論じているところには,多くの関係者は奇異の念を持つのではなかろうか。これは,「ケアマネジャー=介護支援専門員」だというように,介護保険のみからケアマネジメントを理解している多くの医療関係者に対する警告ではないかと思える。著者はケアマネジメント自体の機能は「ニーズを持っている人に対して適切なサービスを提供する仕組み・方法」だと明確に述べている。
 また「介護保険の枠内に限定されたケアマネジメント」を越えて,さまざまな要援護者に対して,できるかぎりの広範囲の社会資源を駆使して在宅生活を支えることが本来のケアマネジメントだと論じている。
 従来の福祉サービスの問題点といえる“こま切れ”あるいは“丸抱え”の保護・援助への批判を含めて,個人の自立を支え「目に見える」支援サービスのソフトとしてのケアマネジメント機能を十分に認識して機能化していく必要性は誰もが抱く期待と問題意識であろう。そのような新しい分野の仕事に向かおうとしている実践家のために,このハンドブックが示す道筋は大きな指標になるものと思う。
 さまざまな専門的背景を持つ介護支援専門員にとって,生活支援のキーパーソンとして真に介護(生活)問題をかかえる人々の生活を支える有効なツールとしてケアマネジメントの知識と技術を学ぶきわめて実践的な指南書となっていることを高く評価したい。
A5・頁192 定価(本体2,000円+税) 医学書院


リプロダクティブ・ヘルスをめぐる課題に答える

家族計画指導の実際 豊かなセクシュアリティを求めて
木村好秀,齋藤益子 著

《書 評》北村邦夫(日本家族計画協会クリニック所長)

 リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康/権利)という言葉が,大きく取りあげられることになったのは1994年。エジプト・カイロで開催された国連主催の国際人口・開発会議の席上であった。開発途上国における人口爆発が話題になる中,限られた空間,限られた資源をいかに有効に活用するかが,現代に生きる私たちに課された大きな責任であることは言うまでもない。そのためにも,この人口問題解決の道を真剣に探るための議論が熱心に交わされることとなった。
 出生数のコントロール,出産間隔の適正化などは当然考えなければいけないことであろう。その手段として避妊が有効な役割を果たすことは言を待たない。しかし,議論はそのような方向には進まなかった。いかに有効な避妊手段があろうとも,それを利用するのは女性と男性。コンドームを配布しようが,ピルを無償で提供しようが,エイズ予防や避妊が可能になるわけではない。
 「女性のエンパワーメントを高める」が結論だった。女性の教育力を,社会的地位を,政治への参画意識を高める。結婚や離婚の自由,相続の権利を認める。これらが,最終的には避妊意識を向上させたり,行動を促す力となり,ひいては人口問題解決の糸口となるというのだ。そう考えると,従来私たちが行なってきた健康教育や保健指導は,手段教育に拘り続けてきたなと反省したものだ。日常的な行為とはいえセックスという冷静さを欠きかねない場で行なう避妊。その指導は,決して一筋縄ではいかない。避妊や性感染症への関心をいかに高め,行動を変容させていけるかの課題に答えるものでなければならない。
 それに答え得る書と出会った。木村好秀・斎藤益子両先生が著した『家族計画指導の実際』だ。手段教育,すなわちコンドームはこう使うとか,ピルの服用方法などという記述に終始していないのがいい。史実から今日的課題に至るまで,実に緻密な研究レポートとなっているのだ。話題も第1章「性意識と性行動」では,「今日における女性の意識」「結婚外性交の歴史的考察」「セックスレス」などを取りあげ,読みごたえのあるものとなっている。私の勉強不足を棚にあげれば,鎌倉時代から,「女性は家庭に入り,主婦として妊娠・出産・育児と,子どもの成長を楽しみにして生活していく」意識が根づいていたこと初めて知った。そのような歴史的な経験を踏まえて,現実に起こっている問題,リプロダクティブ・ヘルスにも言及するのを忘れない。
 木村好秀先生の几帳面な性格がさせたのだろうか。長年かけてこつこつと収集した避妊具のコレクションにも感心した(第5章)。そして何よりも,第6章,第7章の家族計画指導法の提示は,家族計画・避妊指導に当たる医師や受胎調節実地指導員にとって,即戦力となり得る具体性のあるものとなっている。

近代的避妊法の引き金に

 私は常々,避妊後進国日本を憂えてきた者の1人だ。ペッサリーは市場から消え,子宮内避妊具も2種残るのみとなり,低用量ピルをはじめとした近代的避妊法は一向に認可されず,それが理由かは知らないが,研究の最先端を期待される大学においても,避妊に関する研究などには目もくれず,あくまでもいつまでも男性に主導権を握られたコンドーム一辺倒の国,日本。結果として既婚女性の26%が中絶経験を持たざるを得ない現実があるのに,国民の多くが不満や不平を口にしない。
 そんな,私の嘆きを吹き飛ばすかのような書に出会い,ほっと胸をなで下ろしている。願わくば,この書が,わが国における近代的避妊法導入の引き金になることを期待したい。
B5・頁144 定価(本体2,800円+税) 医学書院


すばらしい小児看護学実践書

小児看護ハンドブック 病態生理と看護診断
Cecily L. Betz,他 著/石黒彩子,他 監訳

《書 評》湯川倫代(富山医薬大教授・看護学)

 21世紀に向け,より質の高い児・家族の個別性を重視した,看護ケアに対する本格的な取り組みが始まっている。看護診断の実施はいまだ初期段階にあり,小児看護分野では,的確な看護診断を導き出す繁雑さのため,学生の多くが短い実習期間内では,十分な実践を履行し得ない傾向にある。
 早速,後半期の実習開始時に,この夏出版された本書を整備し,学生へ紹介した。全実習終了後,その利用状況と臨床実習評価との関連を調べた。結果,約7割の学生が有効活用していた。

学生の看護実習に最適

 学生の使用後感想を2,3あげると,(1)小児疾患ごとに,小児看護に関する情報が要領よく整理されているので,本書を参考にすることで,受持児の全体像から早期診断ができた。短期間の実習ではあったが,全貌を眺めてテーマをしぼり,適切なケアの実践・評価に至る,納得いく課題実習に役立った。(2)受持児の容態の変化時や,受持児が途中で変更になった場合にも,児の病態生理から発育等の重要な情報をすぐ参考にできた。その場で診断名を確認することが可能で,何をなすべきかも,早期に確信を持って判断できた。(3)携帯用小型本にありがちなハウツーものでなく,最新の小児医療内容に基づいており,情報量も豊富で,臨床の場だけなく学内での学習にも有効だった,などであった。
 臨床実習評価との関連では,看護プロセスにおける前・後半期合わせたクラス全体での教員による「看護診断」到達度の5段階評価は4.28であった。このうち本書を利用した後半期学生群(30人)は,平均4.45で全体平均を上回っていたが,実習前半期学生群(30人)は全体平均に及ばなかった。さらに,看護プロセス全体(情報・アセスメント・看護診断・計画・実践・評価・態度)の7項目別に,実習前半・後半期間内での最高点のばらつきを見ると,実践・態度の2項目は例外として,最高点が実習後半期に集中していた。
 本書を参考にすることにより,実習開始直後から,着実に自主学習の積み上げができるため,指導教官は実践指導に専念でき,学生・教官とも,ゆとりある看護実習を実践することができた。
 本著の監訳者である石黒彩子・鳥居新平両先生は,子どもの看護学・医学分野で長年にわたり活躍され,秀でた語学力を持ち合わせた経験豊かな専門家である。本書も細やかに配慮された邦訳が実にわかりやすく有益である。日常臨床・外来,地域保健・教育機関,看護学生・教官等で,子どもと直接かかわりを持たれる方々に,小児看護学実践書としての素晴らしい1冊であると確信している。
A5変・頁648 定価(本体4,800円+税) 医学書院MYW