医学界新聞

韓国国際看護会議に出席して

牧本清子(金沢大学教授・医学部保健学科看護学専攻)


 韓国看護アカデミーが主催する「看護介入における代替療法」の国際会議(Development of Korean Nursing InterventionII“Alternative Therapy”)が,昨年12月10-12日の2日間,韓国ソウル市の漢陽大学で開催された。
 代替医療については日本でも感心が高まり,昨秋には「日本代替・相補・伝統医療連合会議(代表=東大名誉教授 渥美和彦氏)」が設立されるなどの動きがあったが,韓国では看護介入に取り入れる代替療法の学術会議が開催されたのは,今年が2回目であった。昨年はその理論編と位置づけられており,今回は実践編となった。会議初日には,開会式と海外からのゲスト3名の講演が行なわれ,2日目は代替医療の研究発表と実践的な技術を習得するワークショップが企画された。なお,参加者は大学の教官が多いものの,臨床の看護婦も参加しているとのことであった。

臨床と研究の連携が必須の代替医療

 初日に行なわれた海外の演者による講演では,まずWest Michigan看護大学のBernadine Lacey学長が,アメリカで初めて看護の学士過程のカリキュラムに代替療法としてタッチングを取り入れたことに関して基調講演。日本からは,川島みどり氏(健和会臨床看護学研究所長)がパーキンソン氏病患者のための音楽療法と指圧,マッサージなど取り入れた統合的な看護介入についての発表を行なった。また,タイからはKon Khan大学のSiriporn Tantipoonviani学長が,タイにおけるさまざまな代替医療について講演した。フロアを交えての質疑応答は,日本で行なわれる学会よりも活発であり,外国のゲストスピーカーにも鋭い質問を投げかけていた。
 2日目のワークショップは,実践技術を紹介するもので,手の針,気功,指圧・マッサージ,メディテーションの4部門に分かれていた。ここでは,母国語であるハングル語によって進行されているため,私たちは英語でキョウリョウ手針の特別講義をしてもらった。手には全身の神経が集まっているという理論に基づき,手に灸や針などの刺激を与え治療する方法である。
 実際に,12年の経験を持つというSoon Ae講師に脈診をしてもらうと,講師の診断は私たちの健康問題とぴったり一致し,その診断の正確さに驚かされた。また,講師は川島氏の講演を聞き,代替療法に関するさまざまなアイデアがわいたと語り,学術会議における知識の交換の場ともなったことを実感した。なお,同じ2日目には代替療法の成果に関する研究発表もあったが,ハングル語による抄録のため,詳細についてはよくわからなかった。
 これまで「代替医療は科学的ではない」と言われてきたが,「臨床の実践者と大学の研究者が共同研究を行なうことで,より科学的なデータでその効果を証明することができる」と言った,今会議の企画委員の1人である辛博士の言葉が印象に残った。また,韓国では研究のための採血は被験者のインフォームドコンセントが必要なだけで,医師の許可は不要とのことであった。

韓国における看護教育の現状

 ここで,韓国の看護教育の状況について参加者と話をする機会があったので少し紹介をしたい。
 韓国では,看護婦(士)の国家試験の検討会を設け,学生の学習達成目標や専門領域における必要な知識と国家試験問題についての審議を行なっているとのこと。国家試験の内容をアメリカのものと比較したところ,文化的側面以外はほぼ同じであったという。
 また,韓国には准看護婦の教育制度はないが,80時間の教育を受けた看護助手が看護婦の下にいる。そのため,過疎地などでは看護助手が注射を行なうところもあるという。そこで,現在は最低2年間の教育による准看護婦教育が必要ではないかという考えから,看護助手を廃止し准看護婦に格上げするよう改革を進めている。
 一方で,日本が看護教育の4年制化が急速に進んでいることに対しては,「アメリカもできなかったほど早く達成しているので素晴らしい」と賞賛された。外国からみると,そのように見受けられるものなのかと,教官の人材不足に悩む私にとっては驚きでもあった。

アジアにおける国際看護学術集会の発足に向けて

 今回の学術会議の開催は,今年韓国で開かれる「国際看護学術集会」の訓練としても位置づけられており,この国際看護学術集会の開催は,今後アジアの国々が交代で主催する国際学会の基盤にしたいとの意向も韓国側にはある。つけ加えるならば,川島氏の講演は「実践的で臨床に結びついた研究」とのことから高く評価を受け,このの国際看護学術集会にも招待された。
 韓国でも,現在肥満や生活習慣病の増加が問題となってきているが,同学術集会ではそれを背景としてか,「慢性疾患」がメインテーマとのことである。その他の健康問題としては,男性の高い喫煙率と飲酒問題,そして若い女性の喫煙率の急激な上昇などが,日本と共通の問題としてあげられる。それらを含め,この学術集会の開催は,アジア共通の問題を,アジア的解決方法について話し合う,その最良の機会となると考えることができる。なお,本学術集会の演題抄録の締め切りは本年4月で,詳細は日本の看護系の雑誌に紹介される予定である。今後のアジアの看護としての視点を,ひいては国際的な視点を持つべく,日本からの多勢の看護職が,演題発表ならびに学会へ参集されることを期待したい。