医学界新聞

《Book Review》

「生物学と医学をつなぐ分子細胞生物学」


 本号で紹介したように,東海大学医学部では,「クリニカル・クラークシップ」をはじめとして革新的かつユニークな試みがさまざま形で導入されているが,「統合カリキュラム」もその1つである。
 旧来の「基礎医学」や「臨床医学」という枠組みにとらわれず,「人体解剖学」「人体のシステム」「神経科学」「感染と防御」「臨床病態学」「治療の薬学的基礎」などの授業で,最初から臨床症例を教材にして統合して学んでいくシステムだが,先ごろ,「生物医学」という科目のための大学内部用に作られたテキストが公刊された。ここに紹介する中江太治氏(同大医学部分子生命科学教授)編「生物学と医学をつなぐ分子細胞生物学」〔B5判・頁302 定価(本体8,600円+税)丸善刊〕がそれである。
 本書の全体の構成は,(1)基礎,(2)遺伝子と発現,(3)原核細胞,(4)細胞膜の機能,(5)シグナル伝達,(6)生物学と医学の接点,からなっている。編者は,この科目のプログラムを実践するために到達した1つの方法論として,「学生にあまり多くを教えない,言い換えると根本的なことのみを教えること」であり,このテキストは,「教員が一方的に学生に教えるのではなく,学生に最小限度のことを教え,学生に最大限の努力をして問題解決に当ててもらうよう作られた」と述べている。

“講義”と“討論”の2つの形式で

 「統合カリキュラム」に基づくこのプログラムでは“講義”と“討論”という2つの形式をとる。講義では,各章に示されたテーマに沿って通常に近い形式で行なわれるが,決して網羅的に教えないことに特徴がある。別の表現をすれば,多少飛び飛びに要点を絞って教え,時には最新の学術誌に発表された論文などもエピソード的に挿入する。
 講義の内容は多くの場合,次の週に討論としてもう1度類似の話題を取り上げる。ここで登場するのが,同大学が導入している「チューター制」と呼ばれるスモールグループ学習である。これは,1グループを10名前後の学生で編成し,1-2名の教員(チューター)がそれぞれのグループを受け持つ制度で,旧来の“passive absorber”ではなく,“active participant”な教育をめざすものである。この学習の場における主体はあくまでも学生自身であり,チューターを含めたグループの前で発表し,その回答をめぐって全員で徹底的に討論することになる。
 まさに「統合カリキュラム」がめざす「自学・自習」と「debate学習」には打ってつけのテキストと言えよう。
〔週刊医学界新聞編集室〕