医学界新聞

1・9・9・9
新春随想

保健・医療・福祉複合体

二木 立(日本福祉大学教授)


 昨年末,私の「ライフワーク」と自信を持って言える研究がようやくまとまった。『保健・医療・福祉複合体-全国調査と将来予測』(医学書院刊)だ。おかげで今年は,久しぶりに晴れ晴れした気持で正月を迎えている。

「複合体」とは何か

 「保健・医療・福祉複合体」(以下,「複合体」)とは,単独法人または関連・系列法人とともに,医療施設(病院・診療所)となんらかの保健・福祉施設の両方を開設し,保健・医療・福祉サービスを一体的に提供しているグループであり,その大半は私的病院・診療所が設立母体となっている。
 この「複合体」は1990年前後に初めて登場し,その後急成長し続けている。最近は,病院・医療経営雑誌だけでなく,一般紙でも「複合体」の成功事例が報道されるようになっている。しかし従来,それらの全体像はまったく不明だった。医療施設と社会福祉施設別に集計されている既存の縦割の官庁統計では,それの全国的実態を明らかにできないからだ。
 そこで私は3年間,全都道府県の「関係者」の協力を得て,「複合体」の実態調査に専念してきた。最終的には,1646の個人・施設・組織から貴重な生の資料や情報をいただけた。その結果,「複合体」の全体像を初めて明らかにすることができた。それらのうち,私自身にも予想外だった事実を紹介すると,……(1)特別養護老人ホームは典型的な社会福祉施設であり医療施設とは無関係と思われているが,約3割が私的医療機関を母体としている,(2)介護保険のケアマネジメントで中核的な役割を果たすと予測されている在宅介護支援センターのうち半数近くが私的医療機関を母体としている,(3)私的病院・老人保健施設・特別養護老人ホームの「3点セット」を開設しているグループは全国に約260もあり,しかもその8割が医療法人病院を母体としている。
 上掲書では,この全国調査の結果を示すとともに,それの医療経済学的分析を行ない,「複合体」の光と影を明らかにした。

21世紀を見通した改革のために

 2000年度に創設される介護保険が私的病院・診療所の「複合体」化の流れを加速することは確実であり,「複合体」を抜きにして,21世紀の保健・医療・福祉を語ることはできない。それだけに,その研究が21世紀を見通した改革のための建設的論争の共通の土俵となることを願っている。
 実はこの研究は,当初は私のささやかな個人研究として始めた。しかし,昨年からは私の勤務先である日本福祉大学福祉社会開発研究所のプロジェクト研究に採用され,医療・福祉研究者と企業分析の専門家との学際的な協力が始まっている。幸い学外からの研究資金にも恵まれ,本年は「複合体」の日米比較にも取り組むことになっている。日本医療の歴史と現実に根ざしつつ国際的な視野で研究を進めること,それが今年の私の新しい課題である。