医学界新聞

日本医学教育学会 卒前教育委員会主催 公開討論会

「クリニカル・クラークシップの導入とその問題点」


 「クリニカル・クラークシップ」という言葉を最近よく聞くようになった。これは学生が指導医や研修医で構成される診療チームに加わり,診療することを通して,臨床能力を身につける臨床実習方式のことである。従来の知識伝授型教育は,卒後の臨床能力に大きな偏りが生じていることが指摘され,また,人権意識や消費者意識の高まりから医療に対する社会の視線が厳しさを増す今日,効率的な臨床能力育成法として大きく注目されている(関連記事掲載)。
 折しも,昨年11月8日,東京女子医大弥生記念講堂にて日本医学教育学会卒前教育委員会(委員長:東女医大教授 神津忠彦氏)主催による公開討論会「クリニカル・クラークシップの導入とその問題点」が開催され,多くの医学教育関係者が参集した。
 午前中には「問題提起セッション」(司会=埼玉医大教授 大野良三氏,名大教授伴信太郎氏)が組まれ,まず,司会の大野氏が卒前臨床実習改革の端緒ともなった厚生省臨床実習委員会最終報告(1991年5月13日)を紹介し,またクリニカル・クラークシップの定義(表1)を示した。続いて,徳永力雄氏(関西医大)は「全国医科大学卒前臨床実習調査報告」を行ない,質問紙調査結果から臨床実習のあり方を検討した。それによれば,クリニカル・クラークシップ(ここでは「医療チームの一員として診療に参加し,一部の医行為も許可されるもの。以下,クラークシップ)を導入している大学は回答のあった80大学のうち42大学(国立24,公立3,私立15)であり,うち,臨床実習実施全科で導入しているのが14大学,一部で行なっている大学は22大学であったと報告した。

表1 本討論会で提示されたクリニカル・クラークシップの定義

●医学生が医療チームの一員として実際の患者診療に従事する
●その中で指導医の指導・監視の下に許容された一定範囲の医行為を行ない責任を分担する
●これを通して医師となるために必要な知識・技能・態度・価値観を身につける

互いの役割・目標を明確に

 各大学からの取り組みの紹介では,大谷信夫氏(金沢大)が6年次1学期に導入したクラークシップ(選択必修)を紹介し,いわゆるベッドサイドラーニング(BSL)との異同を検討したほか,狩野庄吾氏(自治医大)は必修BSLの中でクリニカル・クラークシップの要素を盛り込んだ教育内容を報告。また,武田裕子氏(筑波大)は呼吸器内科におけるクラークシップへの取り組みを報告し,当初「チームを組んでも互いの役割がわからず,うまく機能しなかった」経験から作成したという,学ぶ側と教える側の役割と目標を明確にした「ガイドライン」を紹介し注目を集めた。
 一方,大塚洋久氏(東海大)は内科系クラークシップ(東海大クラークシップの概要を掲載)を,森田孝夫氏(埼玉医大)と田辺政裕氏(千葉大)が外科系クラークシップについて報告。やはり「何を学ぶかを明確にする」ことの重要性などが指摘された。さらに産婦人科クラークシップについて発言した豊田長康氏(三重大)は「女性の恥部を診るため,見学だけの実習にむしろ問題があり,この領域での実習の確立にはクラークシップの定着しかない」と指摘。また,小児科クラークシップについて発言した大沢真木子氏(東女医大)は「小児科においてはクリニカルスキルをみがくためにはSP(模擬患者)の活用は困難なため」モジュールを使用するなどの工夫を凝らした教育法を紹介した。

米国式クラークシップで身につけるべきこと

 午後には赤津晴子氏(Stanford大学内分泌内科フェロー)による「米国医科大学におけるクリニカル・クラークシップ」,および黒川清氏(東海大医学部長)による「クラークシップの導入ー大学としての取り組み方」の2題の基調講演および総合討論(司会:浜松医大教授 植村研一氏,神津氏)が行なわれた。
 『アメリカの医学教育』(日本評論社),「続・アメリカの医学教育」(「medicina」〔医学書院〕に連載中)などの著作で知られる赤津氏は,自らの経験に基づき講演をし,米国医大で医師としての最低限求められる能力として,「問診」,「身体診察」,「ケースプレゼンテーション」,「鑑別診断」,「検査のオーダーと理解」,「チャーティング」,「家族とのコミュニケーション」,そして「それらすべてのコーディネイト」をあげた。
 一方,黒川氏は「なぜ,クラークシップなのか」を力説するとともに,クラークシップ導入後,約1年を過ぎた東海大で現状を報告。教員・学生の相互評価,学生の声を教育にフィードバックするシステム,Faculty Development(教育改善)の効果から,学生の満足度が向上していることを指摘した。
 さらに,黒川氏は医学部教育を4年間とし,4年生大学を卒業した者のみを入学させる4+4のメディカル・スクール構想を展開。違う環境にいた者同士が混ざり,切磋琢磨することの効果を強調する一方,同じ大学出身者が集まる日本の医局・講座のあり方を強く批判した。
 総合討論では,いかにクラークシップを導入するかという実践的な課題が数多く提起され,医学教育に大きな変革の予感を感じさせながら幕が閉じた。