医学界新聞

1・9・9・9
新春随想

日本医学教育学会の30年

堀 原一(日本医学教育学会長・筑波大学名誉教授)


 社会の変革が進む中,高等教育を含む教育改革が進行中であり,医学教育も大学医学部の入学者選抜から卒前教育と卒後の臨床研修病院での医師養成,大学院を主としての医学研究者・高度専門医養成および生涯教育のシステムとプログラムが変わりつつある。また国民の高齢化・少子化,疾病構造の変化に象徴される社会変革に伴う医療の制度と内容の変化で,医学教育も将来を見越して変わらざるを得なくなった。
 病院や診療所で受診する患者を待つのが主なパターンと行動であった医師が,来年の公的介護保険制度の発足によってその役割に新たな分野が加わり,また医療経済の面からも医療そのものが変わってくるにつれて,来る世紀の医師は昨年までの医師と同じであり得ないことが予想される。
 かつて,1960年代中期の旧インターン制度に発したいわゆる医学部紛争を契機に,全国医学部長病院長会議は永続性ある医学教育改善のために,時の慶應義塾大学医学部長牛場大蔵教授と順天堂大学医学部長懸田克躬教授(故人)が中心となって,日本医学教育学会が創立された。それは1969(昭和44)年8月のことである。
 爾来,毎年1回夏に年次大会を開催するほか,機関誌「医学教育」の発行と配布,編集・選抜検討・卒前教育・医師国家試験検討・卒後臨床研修・生涯教育などの常置委員会ならびに医学教育制度検討・人間性教育・臨床能力教育・総合診療教育・認定医専門医問題検討・大学院教育・教育業績評価・医療制度の医学教育への影響検討・教育技法・医学史教育・臨床疫学教育・在宅医療教育各ワーキンググループをはじめ,「医学教育センター」(仮称)に関する特別委員会など(1998年度現在)の活動を活発に行なってきた。
 その他,4年ごとに「医学教育白書」を刊行するとともに,医学教育に関する図書・文献資料の刊行,厚生省・文部省主催「医学教育者のためのワークショップ」と臨床研修研究会主催「臨床研修指導者養成講習会(ワークショップ)」での主導的役割と後援,医学教育に関する国際会議・公開シンポジウムやワークショップの開催,「医学教育センター」(仮称)設置への努力,医学教育関係省庁・国内外の諸団体・WHOなどとの連携や交流,会員のニーズに応えるサービスなどを行なっている。
 今や大学医学部教員・臨床研修病院指導医をはじめ看護教員や介護教員等幅広い医学・医療教育関係者から成る個人会員(海外を含めて)1401名,学生会員38名,77大学医学部(医科大学),141臨床研修病院などから成る機関会員,日本医師会や臨床研修推進財団をはじめ協賛する機関・企業(医学書院を含む)から成る30賛助会員が日本医学教育学会の会員(1998年10月末現在)で,その数は医学教育の重要さを反映してますます増加している。
 1997年には日本医学会の分科会に列することができ,わが学会の責任と社会からの期待がさらに大きくなった。また,昨年7月には日本大学医学部が第30回大会を開催されたのを皮切りに,学会創立30周年記念行事の数々が始まった。そのもう1つが「医学教育白書'98」の刊行であり,次に国際会議の開催であり,続いて「医学教育用語辞典」の刊行予定と,1997年7月に日本学術会議が報告した「医学教育センター」(仮称)設置への協力努力がある。

Faculty Developmentをキーワードに

 1970年前後,WHOが“Health for All by the Year 2000”のスローガンを掲げ,その方策の第一が医学教育の改善であり,そのためには教員・指導者の教育研修と開発(Faculty Development,Teacher Training)が要(かなめ)としたのと軌を一にする活動をわが学会の目標としてきたのは,過去30年の実績をみていただけばおわかりいただけることと思う。
 昨年末,日本医学教育学会からディレクターとタスクフォースが出た前記第25回「医学教育者のためのワークショップ」が1週間,富士の裾野で開かれた。これもFaculty Developmentを目標として25年間続いているもので,参加者はすでに1000名になる。
 そして,本年2月3-5日に日本学術会議講堂で開催する「環太平洋医学教育シンポジウム'99」(略称PaPaSME '99)のテーマは“Faculty Development”である。「医学教育」の昨年12月号および今年(第30巻)第1号にプログラムがアナウンスされている。多くの皆様のご参加をお待ちしたい。