医学界新聞

対談

第3の医学
『統合医療』をめざして

「日本代替・相補・伝統医療連合会議」
発足によせて

渥美和彦氏
東京大学名誉教授
日本代替・相補・伝統医療連合会議代表
帯津良一氏
帯津三敬病院院長


 本紙第2316(11月30日付)号で既報のように,さる10月16日,東京・神田の一橋会館において,「日本代替・相補・伝統医療連合会議」の設立記者会見が開かれた。
 同会議は設立趣旨に,「科学を基盤とした近代西洋医学は,その合理性と緻密性のために,この100年間に飛躍的な発展を遂げ,世界の医療に大きく貢献してきた。しかし,その成熟とともに,最近ではその限界について,世界の医学界で議論されていることもまた事実」と指摘している。そして,「一方,いわゆる西洋医学を代替し,相補する代替・相補医療は,その文化的背景からきわめて多種多様なものを包含しており,それらを整理し,真に効果をもたらすものを評価する必要も生じてきている」と述べ,「今や西洋医学をも含めた,これらの代替・相補・伝統医療のすぐれたものを統合し,新たに第3の医学とも言うべき『統合の医療』を創造する時期にきていると思われる」と強調している。
 そこで本号では,同会議の代表者である渥美和彦氏(東大名誉教授)と同会議の世話人であり,長らく代替・相補医療を自ら実践されてきた帯津良一氏(帯津三敬病院院長)に,この第3の医学『統合医療』がめざすところについてお話しいただいた。


なぜ,いま代替・相補・伝統医療なのか

「代替」と「相補」

渥美 おそらく代替・相補・伝統医療という言葉は,西洋医学に携わってこられた方には聞き慣れないと思います。帯津先生,簡単にご説明願えますか。
帯津 まず「代替」という言葉は,オルタナティブ(alternative)を日本語に訳したものです。
 ご存じのように,「alternative」はもともと“二者択一”,“選択すべき2者の1つ”といった意味の言葉で,アメリカやカナダでは「alternative medicine」(代替医療)という呼称が一般的です。しかし,イギリスではこの言葉が嫌われ,「complementary medicine」(相補医療)と呼ぶならわしになっています。“alternative”が既成体制にとってある種の脅威を感じさせるのに対して,「complementary(相補)」には一種の謙虚さが感じられ,既成体制によけいな刺激を与えないという配慮がみられるように思います。それぞれのお国柄でしょうか,いずれにせよこの2つの言葉が示しているものは,「現代西洋医学を相補し,またはそれに替わりうる治療法の総称」であることに変わりありません。その証拠に,最近では米英両国ともに両者を合わせた“CAM(Complementary & Alternative Medicine;カム)”という言葉が使われるようになりました。
渥美 そう言えば,1991年にアメリカのNIHが,「代替・相補医療研究室(OAC:Office of Alternative and Complementary Medicine)を設置し,その翌年に“Alternative & Complementary Medicine”という報告書を作りましたね。そして,国費で代替医療の科学的研究と報告を援助する活動を始めました。時代の流れとはいえ,現代医学の牙城とも言える施設に代替医療の研究を推進する部署ができたことは,アメリカの保健医療の歴史の上でもまさに画期的なできごとと言えるでしょう。
 私も「代替・相補医療研究室」が行なった国際シンポジウムに参加しましたが,そこでは代替・相補医療の他に伝統医療までを含めて,西洋医学の周辺の医療という捉え方がなされていました。

自然治癒力の再認識

渥美 これらの動向に底流するものは,人体の中にある自然に治癒する力を重視し,それをいかにして促進し,健康を保ち,場合によっては治療をしようというものだと思います。それが,最近再認識されてきたということではないかと思います。
 その背景として,やはりエイズや癌などのいわゆる難病に対して,西洋医学的にウイルスや細胞,細菌といったものを標的にして,それらをやっつけるという方法ではどうもうまくいかないのではないか,むしろ自然治癒力,言葉を換えると免疫力を高めるという形で治療に利用する。つまり,これまでの西洋医学的な方法から大きな発想の変換をせざるを得ないということもあるのではないでしょうか。
帯津 そうですね。特にがんの治療の場合,外科手術と化学療法と放射線治療を標準方式としてきたわけですが,おそらく西洋医学の最先端で治療や研究をなさっている方々も,きっと免疫療法に期待しているのではないでしょうか。そして,その気持ちの奥にやはり自然治癒力などに対する期待があると思います。
 ただ,免疫のメカニズムがまだ十分に解明されているわけではありませんから,その奥にある自然治癒力のような力はまだまだ未解明です。そこで近代西洋医学の側に,「科学的な証明ができないうちは手が出せない」という立場の方と,「代替療法の科学的な検証ができていなくても,どうもこれは効きそうだから手を出してみよう」という立場の方とのスタンスの違いが出てくるのでしょうね。

心身医療:精神神経免疫学とサイコオンコロジー

渥美 もう1つは,西洋医学でも心身医学や精神医学で心の問題を取り扱ってきましたが,特に東洋医学は心身統一と言いますか,心と身体とを表裏一体の格好で捉え,病気や身体の健康を考える時に,切り離せないものと捉えています。そういう意味で,病気に対する認識が,西洋の二元論から東洋の一元論へ変化している傾向もあると思いますね。そのへんはいかがですか。
帯津 特に心の問題は,例えば精神神経免疫学(psycho-neuro-immunology)がある程度科学として出発した感じがします。
 それからサイコオンコロジー(psycho-oncology:精神腫瘍学)も非常に充実してきております。一昨年,神戸で第2回国際サイコオンコロジー学会があって,私も口演をしたのですが,その時,400人ぐらいの方が世界各地から集まっていました。内科や精神科の先生方,それに医師ではなくて心理療法をしている方とか,もっと幅広く宗教関係の人などもいましたが,問題のオンコロジストである外科や病理の先生があまり参加されていませんでした。まだ外科医とか病理医は,形あるもの,目に見えるものしか信用できないのですね。
 しかし,動きとしてはサイコオンコロジーが徐々に大きくなって,国立がんセンターにもそういう部門ができてきましたし,私たちも現場にいますと,患者さんの心の動きひとつでスイッチが入ってよくなるというようなことを,よく経験しますから,大きな領域になってくると思います。
渥美 それから,いわゆるイメージ療法がありますね。身体の中に白血球が集まって,極細胞が集まって,がん細胞が破壊されていくことをイメージすることによって,がんが治ることもあると言われています。これは西洋医学では理解しにくい方法ですが,先ほどのお話の精神神経免疫学の分野が発達してきて,西洋医学でも検討されてきましたのでどこかでつながってくると思います。

医療経済の面では

渥美 もう1つ,アメリカでも日本でも医療経済の問題が重要になっています。これは先進国のみならず,発展途上国でも同様です。先端医療が発達し,高額な器械や医療法が開発され,実際に利用されると患者さんは恩恵を受けますが,一方,経済的負担は非常に大きくなります。それに対して,いわゆる代替・相補・伝統医療は,どちらかと言いますと,ライフスタイルの改善とか,薬草などの植物を使うので,コストの低い医療になります。特にアメリカはその点を真剣に考えているようです。

代替・相補・伝統医療とは何か?

代替・相補医療について

渥美 一体西洋医学のどういう部分が代替・相補されるのかという問題がこれから重要になると思います。「代替・相補医療」は多種多様であると思いますが。
帯津 簡単に分類しますと,表1のようになります。
 (1)は医療人類学でさらに中国医学,インド医学,チベット医学,ユナニ医学(アラビア系医学)などの「大伝統医学」と,世界各地に残るシャーマニズムという「小伝統医学」に分類されます。シャーマニズムは大伝統医学のルーツであると同時に,ネオ・シャーマニズムという形で現代社会に復活しつつあるものです。また,宗教儀礼にともなう瞑想法や「癒しのわざ」もこの中に分類されます。
 (2)はホメオパチー,オステオパチー,カイロプラクティック,シュタイナー医学など,その創始者が判明しており,しかも独自の理論体系が確立され,欧米では公的な認知があり,専門の教育機関(大学)などがあるものです。
 (3)は古くからあるもの,新しくできたもの,創始者が判明しているもの,そうでないものなど種々雑多です。理論体系が曖昧なものも少なくありませんが,科学的に研究されその効果が裏づけられているものもあります。いずれも経験的にはその効果が認められ,一定の支持者を持っています。
 (4)は(1)~(3)には分類しにくいものの,確実に「代替医療」の一角を占めている各種の療法で,サイコセラピー的なもの,ボディワーク的なもの,エネルギー療法的なもの,五感を活用するものなどが含まれ,イメージ療法,バイオフィードバック療法,催眠療法,アレクサンダーテクニーク,フェルデンクライス・メソッド,ロルフィン,ヘラーワーク,アロマテラピー,スピリチュアル・ヒーリング,セラピューティック・タッチ,色彩療法,音楽療法,光線療法,バッチ・フラワーレメディー,波動療法などがその代表です。

表1
(1)各国の伝統医学
(2)現代医学に対して生まれた比較的新しい医学体系
(3)民間療法
(4)その他の心身相関療法


帯津病院におけるがんに対する相補療法

渥美 先生はがんの専門家で,しかも外科のご出身ですが,実際に相補医療をどのようになさっているのですか。
帯津 私は,まず患者さんの希望を聞いて,それに沿うように治療計画を組み立てていきます。手術で治癒できるものについては,私は原則として手術を薦めます。しかし,手術も絶対的ではなく,再発がないとも限りませんから,嫌だという人には別の方法をとります。「何か月か期限を区切って他のことをやりましょう」と提案し,その場合,「手術という確実性のある手段を一度選択肢から外したのだから,一生懸命やらないと駄目ですよ」と説得します。
 私の病院は再発の患者さんが多いので,そういう方の場合は,順序としては自然治癒力の向上を根底に置きます。そして,免疫療法も含めた「からだの治療」(丸山ワクチン,ビタミンC大量療法,リンパ球療法など),「気の治療」(気功,ビワ葉温灸,食事療法,漢方薬など),「心の治療」(リラクゼーションとイメージ療法など)の3つに分けて整理しています。また,患者さんには「病を克服する家」と称してできるだけわかりやすく説明しています。
 そうやって1人ひとり個別的に治療しています。

帯津病院の「病を克服する家」
2階代替療法・中国医学・西洋医学
1階気功・食事
土台

“西洋医療”と“東洋医療”

渥美 まさに個人に対する医療をやっておられるわけですね。そこが西洋医療と東洋医療の差だと思います。もちろん西洋医療でも個人のことを考えていますが,どちらかというと統計的な医療をしますね。つまり,煙草を吸うと肺がんになる人は30%だ,という数字が出ているので禁煙する。これはよいことです。しかし調べてみますと,煙草を吸わない人も肺がんになるし,その逆の場合もあります。。こういうことに対して,正直言ってあまり西洋医学では解明されていないわけです。
 東洋医学の根本は,どちらかといいますと個人の体質によって薬なり診断なりを選びます。同じ病気でも,薬の種類が違うことがあります。そういう意味から,西洋医学の欠点とでもいうようなものを補っていくということで,東洋医学の意義も出てくると私は思います。
 がんはある場合には大変な痛みや苦痛が伴うので非常に怖がられるわけですが,本当に不治かというと必ずしもそうではなく,自然治癒というものがごく稀ですがあるのですね。
帯津 そうですね。
渥美 統計的には大体十万人に1人ぐらいが自然治癒したと言われています。これには,まったく何もしないで治るということも考え難いのですが,いろいろな療法を行なっているのですね。特に,いま先生が言われた食事や,薬草等を使うこと以外に精神的な療法を応用している例が多いです。自然治癒力を高めるという意味でも,私は相補医療は伝統的な医学を含めて再評価されなければいけないと思います。

患者さん本人が代替・相補療法を持ち込んでくる

渥美 がんの代替・相補医療には多くの療法がありますが,先ほどの個人に対する治療という面からも,帯津先生はどのように患者さんにご説明なさっているのですか。
帯津 患者さんと家族の方がいろいろな療法を持ち込んできます。効能書きもないし,よくわからないので,困ってしまうのですが,「駄目だ」と退ける根拠もありません。私は,とりたてて危険がないことと,費用がバカ高くなければ,患者さんにやってもらいますね。費用については,高いと感じるか,安いと感じるかはさまざまです。われわれが高いと思っても,本人は「命には代えられない」と考える場合もあります。原則として,患者さんの希望する方法はやっていただく姿勢でいます。
渥美 先生は,代替・相補療法を強制しないわけですか。本人が勉強してくるわけですか。
帯津 ええ。私のほうには,強制する根拠はありません。ですから「この優劣は判断できない」ときちんと言います。そういう意味でも,代替療法なのですね。「相性みたいなものがあるから,あなたがいいと思ったらやりなさい」と言います。その代わり,きちんと検査データをみながらチェックして,この治療をしているにもかかわらず悪くなっている場合には,潔く止めて他の方法を取り入れるわけです。
渥美 アンドルー・ワイル博士が,「患者さんがその方法を信じて,医療者がそれを信じたら,それはうまくいく」と言っています。これはある種のプラシーボ効果ですね。患者自身が「治る」という気持ちになることが,ある意味において免疫,つまり抵抗力を高める大きな契機になるのではないでしょうか。

伝統医療の連合について

渥美 ところで伝統医学については,中国医学,アーユルヴェーダ医学,イスラム医学の3つの大きな流れがあります。これまではそれぞれに会合や学会を開いてきましたが,各学派が独立性を保ちながら研究や開発や臨床を進めていただくと同時に,一堂に会して,その間をつなぐものは何かを検討すべき時期にきているのではないかと思います。今回の連合会議ではそのあたりを検討してみたいと思いますが,先生はどのように考えておられますか。
帯津 「代替」という言葉が嫌われる1つの理由なのですが,西洋医学以外を「代替」と括ると,いま言われた3つの伝統医学はすべて代替のほうに入るわけです。ところが,おそらく伝統的な学問を研究している人はそうは思っていらっしゃらない。
 しかし,今まで通りに西洋医学からこぼれてきた患者さんだけを扱っていたのでは,統合医学に育たないと思います。代替医学として一度皆で団結し,その上で西洋医学と統合していく必要があると思います。つまり,団結して共通のものを認め合って,それから統合医学に発展させる。そうでないと,先生も以前からご指摘なさっていますが,中国医学と西洋医学を併せ持った中西医結合というものが実を結ばない。中国医学と西洋医学が一緒になって,どちらの由来の方法なのかわからないぐらいに渾然一体となった時に,大きな効果が出てくると思いますね。統合医学というのは,ただの足し算ではないということです。
渥美 よく考えてみますと,西洋医学も結局患者さん本人が持っている自然治癒力に頼っているのですね。傷が治ったり,病気が回復したりするのは,その人に自然治癒力があるからで,手術や温熱療法,水療法をしたり,薬を飲んだりしているのは,そういう自然治癒力を促進して,補助しているにすぎないと私は思います。
 その点では,東洋的な,いわゆる伝統医学は自然治癒力をいかにして高めるかということがベースにあるわけです。先ほど話に出たように,徹底的にウイルスなり細菌を殺すために抗生物質を使う,あるいは手術をする,という方法ではなく,体内の免疫力を高めるという方向にいくわけですから,当然ライフスタイルを変えて,食事をどうするか,睡眠をどうするか,運動をどうするかというように,できるだけ病気に対して抵抗するような形に身体を作り上げていくわけです。そういう点で,アーユルヴェーダもイスラムも中国医学も共通だと思います。特に,心と身体は非常に密接な関係を持っているという考え方も共通です。西洋医学は局所を診ますが,伝統医学は特に全体を診ます。そのような意味から言うと,私は伝統医学はそれだけの歴史を持っているから,経験の中に共通のものが必ずあると思うのですね。そういうものを,なんとか皆さんと協力しながら見出していきたいと思っています。

代替・相補・伝統医療の問題点

客観性,再現性,普遍性

渥美 その際に問題になるのは,その治療法が本当に効くのか,その評価,つまり臨床効果をどう実証するのかが残念ながら,西洋医学と違って科学的に実証されていません。この点について,先生はどのように思われますか。
帯津 やはり実証する努力はしないといけないと思います。ただ,従来のテクノロジーや方法論で実証する努力をしても,現在の科学ではおそらくすべてを解明できないと思います。先生がよくおっしゃっている,パラダイムの変換ですが,違った方法でないとわからないのではないでしょうか。そして,わからないからといって切り捨てるのではなく,これは将来科学がパラダイムシフトして科学そのものがさらに進歩する時まで温かく見守ってやるという,両方の態度が必要だと思います。
渥美 西洋医学は科学,サイエンスに基づいていますから,その効果を実証する際に比較検討ができるわけですが,私は科学には3つの原則があると思っています。
 1つは客観的であること。それから2番目は再現できること。1回起こったことが2回目にも起こる,つまり,ある細菌にある薬が効けば,それと同じような細菌には何度でも効くということです。そしてもう1つは普遍的ということがあります。アメリカでうまくいけば日本でもうまくいくということです。この客観性,再現性,普遍性の3点が西洋医学を支えてきた柱で,そのために,非常に緻密な体系を作り,多くの疾患を治したり診断してきました。
 伝統医療もそうですが,代替・相補医療と言われているものは,そういう科学的な根拠ではなく経験で進歩してきたわけです。ですから,科学的方法と経験的方法のどちらがいいか,という比較は決して容易ではありません。これが難しい問題です。アメリカのNIHの代替・相補医療調査室も,効果をどのように実証するのか,そしてさまざまな療法を比較する基準があるのか,ということを現在検討していますね。これについてはいろいろな方法があると思いますが,これからの大きな課題だと思います。先生はどのようにお考えになりますか。

患者さんの意識と比較・評価の基準の設定

帯津 やはり視野を広くして,両方を取り上げていくことが重要ですね。1人の患者さんに対して,両方の療法を行なっていくということが大切だと思います。科学的にわかっていることはきちんとやって,わからないことでもその人を癒すという意味で,いいことであれば大いにやろうではないかということになります。
 患者さんの意識はそうなっていますね。私が現在の病院を作った16年前には,「漢方薬ががんに効くんですか?」「気功なんてやったことがありません」などと言う人ばかりでしたが,いまは皆さんがそういうことをやるし,私の病院に来た時にはすでに多くの代替療法をされていますね。患者さんの意識は明らかに西洋医学の枠を外しています。ですから,われわれがそれに応えるためには,まず患者さんが行なっている代替療法についてある程度の知識を持っていなければいけないと思います。
渥美 もう1つ重要なことは,現在はいわゆる健康食品に対する規制が十分ではなく,無秩序に多くのものが市場に出され,患者さんは藁をも掴む思いでそれらに飛びついていくわけです。それが,本当に純粋なものかどうかは大変難しい問題です。
 例えば,免疫力を高める健康食品がありますが,まがい物が多く出ていて,それを掴んだ人は困ることになります。そういう基準や規格というものが,現在では十分あありません。これをどうするかは難しい問題ですが,やはりこれも連合会議で考えていかなければいけない1つの課題と思います。

代替・相補・伝統医療の今後の展開

患者さんのQOLの向上と医療経済への影響

渥美 今後統合医療が発展しますと,1つには患者さんのQOLが高まると思います。つまり,西洋医療を基盤としながら,相補的な代替医療を重ねていくわけですから,患者さん自身のQOL,例えば抗がん剤の副作用を代替医療がかなり軽減するという報告が出ています。
 それから2番目に,代替・相補医療は西洋医療に比較すれば高くはないはずですから,私は医療費を相当削減すると思います。アメリカでもライフスタイルを改善することによって,いわゆる成人病の50数%が予防できるというデータをNIHが報告しています。もしそうだとすれば,ライフスタイルを健康な方向へもってくることにより,医療費は下がるだろうと思います。

医療体制の変化

渥美 それから,私が重要だと思うのは,各医療が持っている立場が明確になってくることです。現状では,やはり西洋医学は医療の大きな中心で,救急や外傷,急性疾患,特に炎症などは西洋医学の独壇場です。しかし,原因がよくわからない慢性疾患というものもたくさんあります。そういうものについては,むしろ東洋医学的な方法のほうがよいのではないでしょうか。そういう形で,それぞれの医学が持っている立場がわかってくると思います。
 これからの医療は,遺伝子による診断と遺伝子治療が非常に大きな分野になってくるでしょうが,遺伝子レベルで解明されると場合によっては遺伝子治療によってこれまでできなかった治療が可能になります。しかもバイオテクノロジーを使った治療になりますと,ひょっとすると現在の先端的な医療機器や画像診断というものが本当に必要なのかという問題も出てきて,病院のあり方が変わってくる可能性があります。そういう点でも,代替・相補医療が発展して統合医療になりますと,在宅医療を含めて医療施設,医療機器のあり方が大きく変わってくると思いますが,先生はどのようにお考えですか。
帯津 私も大きく変化するだろうと思います。実は,上海のがんの患者さんのクラブと毎年交流会を行なっているのですが,何をやっているかというと,テリトリーごとに毎朝暗いうちから集まって気功をやり,食事などの情報交換や,先生を呼んできて指導を受けたり,お楽しみ会をやったりしてるのです。そして,誰か経過のよい人がいると,その話を聞き,真似をする。そうやって1つの場を作っているのですね。
 それぞれは,みな違う病院の違う先生にかかっているわけで,つまり主たる生活の場はそのがんクラブで,病院はその後方の兵站部みたいなもので,食糧や弾薬を補給してくれる場所という感じになってきているんですね。私は将来の医療はこうなってくるのではないかと思います。みんなで公園に集まって気功をやっているぶんにはお金もかかりませんし,医療費もかなり違うと思います。病院の形はそのように変わってくるのではないでしょうか。現在のように,同じような病院がたくさんあって,同じような治療をして,患者さんはそこに閉じ込められている,という状態とは違ってくるでしょうね。
渥美 いままでの代替医療のあり方は,特にがんの場合が多いですが,末期になって西洋医療ではもうお手上げという状態の患者さんが,藁をも掴む思いで取り入れるという形でやられてきました。私は,これでは手遅れだと思うのです。むしろ,早期の時に代替・相補医療を使って治す。もっとはっきり言えば,代替・相補医療によって身体の抵抗力が高まって,がんも予防できるようになれば理想だと思いますね。
 そのためには,代替・相補医療の本質を捉え,それと西洋医療を補完し,代替して統合医療に発展させることが重要だと思いますね。それには,これまでのような科学的な方法では実証できないものを,どのようにして実証して比較するかということですが,少なくとも西洋医学以外のものに対して,医療人が関心を持ち,「そういう世界もあるのだ」と気づいてもらうことが大事ですね。既にそういうことに対して実際にNIHが調査を始めて5年ぐらいたちます。そういう意味でも,代替・相補・伝統医療というものに関心を持っていただきたいというのが私の願いです。
帯津 いろいろ紆余曲折があって,統合医学への流れはストレートではないにしても,渦を巻きながら勢いを増してくるように思います。それは生命というものに対する認識の問題だからです。生命のうち,その時点での科学のレベルで解明できた部分を扱うのがオーソドックスな通常医学なら,解明できていない部分を予測しながら扱っていくのが代替・相補・伝統などの名称で呼ばれている非通常医学です。
 科学が進歩するにつれて,通常医学の部分は次第に大きさを増していきますが,それでもその縁には,常にその時点での科学の範囲を越えた非通常医学が存在し続けるのです。このことを認識すれば,統合医学という発想は自ら生まれてくるのではないでしょうか。この認識が患者さんにも医療者にも広がりつつある現状を見ると,統合医学への流れは止めようがないというのが実感です。
渥美 帯津先生,本日はお忙しいところをありがとうございました。