医学界新聞

院内感染の予防強化に向けて対策を検討

第27回日本病院設備学会より


 さる10月21-22日に,東京・有明の東京ビッグサイト・国際会議場で開催された,第27回日本病院設備学会(会長=北里大教授 渡辺敏氏)では,学会長講演をはじめ,特別講演,シンポジウム3題などが行なわれた(本紙2317号で既報)。今号では,院内感染の危険因子を解明し,対処法を確立することでリスク削減の実現をめざした,シンポジウム「病院感染のリスクマネージメント」(司会=関東逓信病院長小林寛伊氏)を紹介する。

 

感染予防のための医療設備

 「医療施設計画と感染管理」をテーマに口演を行なった辻吉隆氏(国立医療・病院管理研)は,まず医療施設計画に求められるものとして,最適な医療の提供と快適な療養環境の提供の2つをあげ,「特に療養環境に関しては,快適空間の提供,安全性の確保,清潔管理が必要」と発言した。また,感染管理に関しては,感染経路別予防策(空気感染,飛沫感染,接触感染)として,空調設備やトイレ・シャワー・手洗い設備などの改良と,清掃・消毒の徹底を指摘。明年4月からの伝染病予防法の改正に伴う「感染症の予防および感染症の患者に対する医療に関する法律」の制定に向けて,感染管理の標準作りの必要性を語った。
 続いて登壇した波多江新平氏(明治製菓)は,諸外国の病院設備を写真で紹介し,日本の設備の問題点を具体的に示した。波多江氏が注目した点は,主に(1)ほこりが舞うのを防ぐ,(2)床には物を置かない,(3)手洗い洗面台の役割,の3点で,(1)に関しては,回転扉などの風の入らないドアや,ほこりを外に出しやすい窓を,(2)に関しては,壁を通る排水管,壁掛け式のベンチなど,床になるべく物を置かないことによる掃除の効率向上を,(3)に関しては,下表のような手洗い専用の洗面台を紹介。また,わが国によく見られる消毒剤噴霧器,粘着マット,湿式消毒マット,抗菌グッズなどは必要ないと付け加え,感染対策に配慮した合理的な設備の設置を促した。

●水を溜める必要がないので,水栓,チェーン,オーバーフロー用の穴は不要
●水が外に跳ねないような深さが必要
●十分な高さの蛇口
●肘や手首で回せる蛇口のハンドル
●液体石けん,消毒剤,ペーパータオルの設置

感染対策と患者ケア

 病院感染防止対策に関して谷村久美氏(関東逓信病院・写真)は,「病院計画と感染対策」をテーマに,看護部感染対策室長という立場から,病院計画のハード面とソフト面について意見を述べた。
 ハード面では,(1)患者のスムーズな移動を考えた部門配置(部屋割り)を行なう,(2)スタッフ専用の通路を設置,(3)医療器具の保管・供給の一元化,および清潔管理,(4)個室の増加,(5)各病室へのトイレ・シャワーの設置,(6)清掃しやすいカーペットの使用など,システムの整備と設備の充実を紹介。ソフト面では,(1)ITC(感染制御チーム)の活動,(2)病院感染疫学調査プログラムの構築と運用,(3)清潔維持などをあげ,特にITCについては,「サーベイランス,監視,教育,感染対策委員会への報告といった役割があり,ITCの活動報告を随時病院計画に反映させ,感染管理の効率アップを図る」と語り,患者を第一に考えた病院計画を紹介した。
 続いて,CDC病院感染対策のガイドラインの普及に貢献した向野賢治氏(福岡大)が,「感染経路を遮断する患者ケアの方法」をテーマに口演。予防策の中でも特に手袋やマスクといったBarrier Precautions(遮断予防策)を取りあげ,「感染患者を隔離するのではなく,適切なBarrier Precautionsを使ってケアする」必要があると訴えた。
 向野氏の行なった,MRSA患者とそれ以外の患者に対するBarrier Precautionsの着用に関する調査によると,(1)全体的に採血時のゴム手袋着用率が低い,(2)MRSA患者に対する時はマスクが必要でない場合でもマスク着用率が高い,(3)MRSAでない患者に接する時のプラスチックエプロンの使用状況が悪い,(4)キャップはなくてもよい,などが判明。「ゴム手袋は絆創膏が扱いにくい等といった問題もあるが,各施設での適切なBarrier Precautionsの実施を期待する」と語った。
 総合討論では,手術室内での感染,感染経路を考えた感染対策,空調の問題,バルコニーに飛来するハト,サーベイランスの必要性など,多くの話題があがった。
 なお,次回第28回日本病院設備学会は,明年11月10-11日に,石福昭会長(早大教授)のもと,東京ビッグサイト・国際会議場において,「次世代の医療を支える設備」をテーマに開催される。