医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


最初に読んでほしい消化管X線診断テキスト

上部消化管X線診断ブレイクスルー 齋田幸久 著

《書 評》荒木 力(山梨医大教授・放射線科学)

 とかく消化管造影のテキストブックというと,専門家特有の特殊用語というか感性先行型定義不明瞭な業界用語が続出して,初心者には近寄りがたい雰囲気があるものが多い。本書も初心者を対象とした上部消化管造影のテキストであるが,違和感のない日本語で書かれており誰でも親しみを持って通読できる本である。これは,著者が画像診断学全般を修得した上で消化管を専門としているからであろう。私自身も一気に読み切ってしまった。偶々,本教室の研修医が本書をすでに購入していたので,彼の読後感想と私自身の感想を以下にまとめた。
(1)立位充盈正面像の読影方法について詳しく記述されている。とかく二重造影にすぐ目が移ってしまいがちであるが,立位充盈正面像の重要性を強調しており,読影の基本姿勢を再認識した
(2)設問形式になっているのがよい。また,設問の解説が必ず次の頁になるようにレイアウトされているので,解説を読む前に自分でよく考えることができる。解答や解説がすぐ目の前にあると,すぐそれを見てしまって自分で考えない,したがって読影能力がつかない,応用が利かないという結果に陥りやすいものである
(3)付録1,2の読影の手順,レポートの書き方がまとまっていてわかりやすい。付録3として撮影の手順がほしい
(4)シェーマや写真にもう少し矢印などを増やしてほしい。本文の説明だけでは初心者にはわかりにくいところがある
(5)説明文中の重要な部分やkey wordを太字やアンダーラインで強調してほしい
(6)もっと症例数が多くてもよいのではないか。同じ疾患でも,重要な疾患については繰り返して出てきてもよいと思う
(7)所々に「エピソード」が挿入されており,読んでいても飽きない
(8)頁数が少なく,値段も手頃で購入しやすい
(9)注腸造影についても,出版してほしい

質問形式で学ばせる

 以上からわかるように,質問形式で学ばせることを基本とし,最後に読影の手順とレポートの書き方をまとめ,所々に心温まるエピソードが挿入されているテキストブックである。これから上部消化管造影検査を修得しようとする医学生,研修医,もう1度復習しようとする一般医師,放射線科医や消化器科医にぜひ初めに読んでほしい1冊である。
B5・頁120 定価(本体3,000円+税) 医学書院


循環器専門医待望のICD実践指針

植込み型除細動器の臨床
日本心臓ペーシング・電気生理学会 植込み型除細動器調査委員会 編集

《書 評》橋場邦武(長崎大名誉教授)

学会として公的な指針を示す

 植込み型除細動器(Implantable Cardioverter Defibrillator:ICD)は,心室細動または心室頻拍を電気的刺激によって停止させる,植込み可能な小型の治療機器である。心室細動はそのまま心臓性急死となる最重症の不整脈であるが,電気的除細動以外には治療法がないので,心室細動発生の時点で直ちに自動的に除細動を行なうICDは,まさに1つの夢の実現といえる。本書はこのICDについて,日本心臓ペーシング・電気生理学会として公的に研修的な実践指針を示したものであるが,非常に理解しやすい解説書でもある。
 パイオニアのMirowskiのいわば四面楚歌の中での初めての動物実験成功から約30年,患者への最初の応用から10数年,本邦での治験開始から8年余を経て,ICDは現在では,心室細動のみならず心室頻拍にも対応できる,かなり完成度の高い救命的治療機器として実用段階に入っている。しかし,ICDは心室細動・頻拍の発生そのものを抑制するものではなく,発生後の細動・頻拍を停止させるのがその機能である。既に広く普及している徐拍用のいわゆる心臓ペースメーカーとは比較できないほどの複雑で高度な機能を備えているので,その適正な利用はICDの今後の健全な発展のためには不可欠である。
 本書が日本心臓ペーシング・電気生理学会の植込み型除細動器調査委員会という学会の公的組織の委員によって執筆・刊行されたことは,まことに時宜を得たもので,ICDの本邦への導入当初から責任と熱意をもって続けられてきた委員会活動の一環として高く評価されるべきものとして,敬意を表したい。

初心者にも理解しやすい

 本書では,それぞれの専門家によって,ICDの歴史,治療適応,植込み術式,条件設定,ICDの機能に起因する合併症,その他の合併症,それらに対する対策,現在使用可能な各機種の特徴,患者のフォローアップ,将来の展望,などが詳細に述べられており,ICDについて初めて学びたいと思う読者にもよく理解できる内容になっている。ICDのような治療法に関しては,不整脈についての深い知識とともに,高度に臨床的かつ倫理的な判断も必要である。その意味で,患者のインフォームド・コンセント,フォローアップ・クリニックなどについても解説されていることは,著者である委員会の強いリーダーシップを示すものと感じられる。
 ICDの治療を行なうのは一定の条件を満たす高度の不整脈専門家に限られるが,ICD植込みの単なる技術者のようになったり,また,ICDの工学的機能についてはメーカー任せになったりしないように,常に本書に述べられている原点に立脚していることが必要と思われる。
 また本書には,ICDの正しい治療上の位置づけのために,心臓突然死の実態から始まり,頻拍性不整脈治療の三本柱である抗不整脈薬,カテーテル・アブレーション,そしてICDのそれぞれの歴史と現況についても最新の解説が具体的で読みやすく述べられている。これらを理解できるだけでも,循環器専門医またはそれを志向する医師にとって興味深く有用な教科書といえるであろう。186頁という手頃な書物でもあり,不整脈専門医,循環器専門医はもちろん,この方面に関心を有するすべての医師に本書を推薦する次第である。
B5・頁186 定価(本体4,000円+税) 医学書院


プライマリ・ケア・ベースの糖尿病治療の質向上に

実地医家ならではの糖尿病クリニック 船山秀昭 著

《書 評》松岡健平(東京都済生会糖尿病臨床研究センター所長)

 糖尿病患者は,670万人もいるというのに,医療機関にかかっている人は190万人しかいない。おそらく未診断か治療中断例であろう。このような放置患者が後になって,重大な合併症の問題を起こすことは,想像に難くない。本書『実地医家ならではの糖尿病クリニック』の著者は重症の視力障害を起こした患者の4人に1人は医療が悪かったからだ,と思っていると警告する。糖尿病患者の日常の管理はプライマリ・ケア・ベースで行なわれるが,食事療法,インスリン療法における用量の調節,合併症対策,sick day ruleなど専門性が高い部分が含まれる。大学を離れて何年も経つと,自分の専門以外の分野の疾患概念の変化や技術革新による新しい治療法に疎遠になることは,ある程度致しかたないかもしれない。しかし,わが国の糖尿病患者の95%以上を占めるインスリン非依存型(2型)糖尿病患者が自覚症状に乏しいゆえに動機づけにくい一方,「糖尿病くらい誰にでも治療できる」とばかりに,患者を抱え込み経口剤を処方して事足れりとする医師も少なくないのは困ったものだ。

病診連携と患者のサポート

 著者は日本糖尿病学会の中央認定委員として患者のQOLを考えると,わずか2000人の認定医が増え続ける患者の治療をすべて受け持てるものではなく,実地医家と専門医の密接な連携が必要であることを痛切に感じたのであろう。糖尿病管理の成否は,最終的には学際的で包括的能力を持つチームにかかっており,本書の約3分の1が病診連携と患者のサポートに関する記述となっている。病診連携あるいは医療連携は個々の診療所の枠を越えて形成する学際的チームなのである。
 アメリカ糖尿病協会は,機関誌Diabetes Careを通じて毎年,治療ガイドラインを示す。ガイドラインとは専門の学会や関係機関が発表する「特定の病的状態に対し適切な健康管理を行なう実地医家と患者を援助するために,系統的に開発された報告書」である。しかし,どんなによいガイドラインも人目に触れなければ何の役にも立たない。プライマリ・ケア・ベースの糖尿病治療の質を向上させるには,非専門医による指導方針の決定や,コメディカルの患者指導のためにガイドラインをガイドブックやマニュアルにして医療現場に運び込まなければならない。本書は,まさに実地医家ならではのガイドブックである。このようなガイドこそ家庭医の下で生涯にわたる一貫した管理を受ける患者の状態の改善に有用である。また,ヘルスケアの資源をより効果的に利用し,全般的に医療に対する信頼度の低下を防ぐ役割を果たすであろう。本書の読者の中には「これは船山クリニック用でうちではとてもできない」とか「自分のほうがもっとうまくやってる」という人も出てくるだろう。ガイドブックの難しさは,誰が読んで実行に移しても安全第一である必要がある。これはガイドラインをガイドブックに移し変える時の鉄則である。

実生活の中で自己管理するために

 また,食事・運動療法,必要に応じて行なわれるインスリン注射を含む薬物療法は,患者の日常生活そのものであり,かつ医師の治療方針の決定には患者が提供する血糖自己測定の結果や生活状況などの情報に負うところが大きい。病診連携がうまく機能しなくなる背景にしばしば見られるものが,診断や治療方針に対する見解の相違で,患者に最も日常的なことほど共通の方針を持って合意を得る必要がある。本書は,20年以上に及ぶ著者の専門医としての研鑽と実地医家としての豊富な経験から著されたものであり,標準的治療方針を個々の患者に仕立てあげる時の参考になり,患者・家族の社会的背景に合わせて自主的に実生活の中で自己管理できるようにするための療養指導の源になると思う。
B5・頁172 定価(本体6,000円+税) 総合医学社


多忙な研修医の実践的手術書

イラスト外科セミナー 手術のポイントと記録の書き方 第2版
小越章平 著

《書 評》愛甲 孝(鹿児島大教授・外科学)

 近年,内視鏡手術や周辺機器の進歩により,外科手術,周術期管理はますます複雑の度を加えているが,その一方ではArtとしての基本的な手技の習得についての重要性が指摘されている。このたび,高知医科大学の小越章平教授(現副学長)による手術手技の解説書『イラスト外科セミナー』が8年ぶりに改訂の運びとなった。本書初版は「劇画タッチの手術テキスト」として若い外科医あるいは研修医に好評を博し,破格のベストセラーとして話題を呼んだものである。

描いて学ぶ外科学

 本書の構成は,第1部の「手術のポイント」,第2部の「手術記録の書き方」から成っている。第1部では一般外科手術全般にわたり,「術前術後管理のポイント」とともに,手術手技について基本に忠実に,学生時代から絵画クラブで鍛練された著者自身の手によるイラストを多用し詳細に記述されている。初心者が陥りやすいpitfallについてもあますところなく,プロとは違った温かみのある線で図示されている。本書の生命であるこのイラストは,読者に今にも自分で描けそうな気にさせるものであり,著者の主張する「描いて学ぶ外科学」のコンセプトが遺憾なく発揮されている。確かに,この種の外科手術や解剖書の挿絵の威力は,“どこがポイントか”をよく理解している外科医が自分自身で描写説明するに尽きることは論を待たない。
 さらには,最近の器械吻合や内視鏡手術の進歩に埋もれがちな手縫い法についても,著者のこだわりが見事に描出されている。ぜひ研修医をはじめ若い外科医に習得していただきたいものである。

手術記録の書き方が詳細に

 いま1つ,本書の初版がベストセラーになった所以は,第2部の手術記録の書き方が詳細に英文と対比して記述されている点である。手術記録記載の10か条のポイントをはじめ,手術記録に欠かせない用語についても詳細に記述されている。この文中で著者は「個人用手術記録」の重要性を読者に以下のごとく訴えている。すなわち「最近,日本外科学会をはじめ,学会認定医制度が進んでいる。そのためにも,また自分自身の生涯の記録として個人的な手術簿を作ることを勧めたい。(中略)ぜひ,生涯の記録として,(研修医の時代に)今から始めることを勧めたい」と。また随所にSupplementとして著者自身の外科医としての見解とともに読者へのメッセージがあり,最後には著者の恩師である中山先生と佐藤先生の含蓄のある言葉で本書を締めくくっており,演出的にも実に心憎い。
 以上のように,本書は外科病棟で多忙をきわめている外科研修医にとっての実践的な手術書として例を見ない好著である。親しみやすく,わかりやすく,手術の経験を豊富に持った小越先生ならではのものであり,先生の遊び心でもってはじめて,その完成をみることができたことは間違いない。外科病棟に勤務する研修医や若い外科医の方々が座右の書として大いに活用されることをお勧めしたい。
AB判・頁296 定価(本体6,500円+税) 医学書院


英語・日本語の眼科学用語の集大成

英和・和英 眼科辞典 大鹿哲郎 著

《書 評》本村幸子(筑波大臨床医学系教授・眼科学)

ことばの辞典とことがらの事典の融合

 この度,大鹿哲郎先生が医学書院から『英和・和英 眼科辞典』を出版された。これは,ことばの辞典とことがらの事典の融合をめざしてつくられたと述べていらっしゃるように,英語から日本語の部の各項目には簡潔な説明がつけられており,この点に本書のユニークさがあるといえよう。しかし,日本語から英語の部では項目の説明はないので,項目の内容については英語から日本語の部を見るようにという指示を利用上の説明に付記しておくのも親切ではないであろうか。
 本書は辞典とはいうものの,英語←→日本語の眼科学用語の集大成といってもよいであろう。英語と日本語の正しい対応で眼科学用語を知ると同時に,その内容も同時に知ることができるわけで,これを手にするものにとって大変便利でありがたいと言ってよい。これまでは英語の用語に対応する日本語を調べ,さらに内容をも知る必要がある時は,次に他の書物も見るという2回の手間が必要であった。それが,本書では同時に可能なわけで,1回の手間でおおよそのことが理解できることになる。それ故,特に眼科学を学び始めたばかりのレジデントたちには,きわめて有用な書籍であろう。

眼科領域で使用される用語・略語をほとんど網羅

 また,本書には眼科領域で使用されているほとんどすべての用語が収録されていると同時に,主な略語も加えられており,この点も大変に便利である。しかし,薬品名が商品名で掲載されているのはいきすぎではないであろうか。薬剤については,眼科学用語とは切り離して,薬品集を利用することが推奨される。また,いくつかの用語で気になる点も見受けられる。例えば,oblique astigmatismという用語には,「斜乱視」という用語のみが記されているが,もう1つ「非点収差」という大切な用語でもある。非点収差はレンズ光学で使われている用語であるが,眼鏡を取り扱う眼科医も知っていなければならないものである。ちなみに,日本語から英語の部に非点収差という用語は収録されていない。
 辞書類は,でき上がった時から改訂作業が始まると言われている。誤植などの訂正に終始せず,これらの内容に関する点も再度見直して改訂されると,より素晴らしい辞典になるものと期待される。
B6・頁700 定価(本体6,000円+税) 医学書院