医学界新聞

1998年度ノーベル医学・生理学賞


 「火薬工場の労働者は,就労中に狭心症の発作を起こす確率がきわめて低い」というエピソードから開発されたニトログリセリン(nitroglucerin)の作用機序は,長い間不明であった。しかし,近年内皮由来血管弛緩因子(EDRF:endothelium‐derived relating factor)が一酸化窒素(NO)あるいはその関連化合物であり,ニトログリセリンの作用機序と酷似していることから,これがアルギニン(Arg)と酸素から産生されるNOであることが判明した。
 奇しくもダイナマイトの発明者であると同時に,この賞の創設者でもあるA・ノーベルに深く関わることになった1998年のノーベル医学・生理学賞は,米国のRobert. F. Furchgottニューヨーク州立大学名誉教授,Ferid Muradテキサス大学教授,Louis J. Ignarroカリフォルニア大学ロスアンジェルス校教授の3氏に与えられた。授賞理由は「循環器系における信号伝達分子としての一酸化窒素の発見(nitric oxide as a signalling molecule in the cardiovascular system)」。
 Furchgott氏は1980年に,ウサギの大動脈から摘出した血管標本を用いて,神経伝達物質アセチルコリンの血管拡張作用には内皮細胞が必須であることを見出し,アセチルコリンによって平滑筋細胞を弛緩させる物資が内皮細胞から放出されると考え,これをEDRFと名づけた。
 一方,Murad氏は1977年に,狭心症の治療薬であるニトログリセリンがどのように働くかを調べ,NOが血管拡張に関与していることを推定した。
 またIgnarro氏は,Furchgott氏とは別にEDRFの正体を解明する研究に入り,その本体がNOであることを突き止めた。なお,Ignarro氏を会長とする学会,「NOS(nitric oxide society)」の公式ホームページ(http://www.apnet.com/www/no/jussayno.htm)にはNOに関する情報が掲示されている。