医学界新聞

21世紀に向けた自治体病院の機能強化のために

第37回全国自治体病院学会開催


 さる11月5-6日の両日,岐阜市の長良川国際会議場他において,第37回全国自治体病院学会が開催され,村瀬恭一会長(岐阜県立岐阜病院長)のもと,「長良川から発信する21世紀の医療-時代の転換の中で我々は今…」をメインテーマに,総会特別講演2題,総会シンポジウム2題が企画された他,看護,臨床医学,リハビリテーションなど9つの分科会に分かれて,分科会特別講演9題,病院紹介,シンポジウム,および665題の演題発表が行なわれた。
 今号では,転換期を迎えた医療業界の中で,医療の質の向上と経営管理の効率化をめざし,自治体病院がどういう役割を担うべきかが話し合われた総会シンポジウムI「21世紀の病院経営管理はいかにあるべきか」(座長=全国自治体病院協議会長 諸橋芳夫氏)を紹介する(次号2318号に続報掲載)。


サイエンスを生かした病院経営

 「ヒューマニティに基づく質の高い医療と効率化をめざす病院経営管理」をテーマに口演を行なった岩崎榮氏(日医大)は,医療の質の評価に関して,「カルテの多くは開示するに値しないものばかりだ」と訴え,「質の評価とアメニティの要求が高まる中で,EBM,インフォームド・コンセント,カルテ開示等,いずれも質の向上が求められる」と提言。病院経営に関しては,「入院から在宅,医療から介護といった時代の変化に適応するとともに,経営理念の明確化,予算管理の徹底などが必要になる。発注・受注の効率化,業務引き継ぎの効率化など,まだ改善の余地はある」と語った。
 そして,今後の課題として,(1)ケアサービス,(2)EBM,(3)カルテの完成度などの質の向上をあげ,「“良質の医療を効率的に”提供するには,サイエンスを生かした経営と人材の育成が重要になるだろう」と締めくくった。

自治体病院の採るべき方針

 続いて登壇した余語弘氏(小牧市民病院長)は,「医療変革期における自治体病院の対応」のテーマで口演。「地域の福祉関連施設との連携を深め,縮小する医療保健の範囲内での高度医療に徹する地域完結型の病院をめざすのなら,病診連携や病病連携を進め,紹介率を上昇させる必要がある。また,行政主導から病院主導に移行していくためにも地方公営企業法の全面適用が望ましい」と語るとともに,「小牧市民病院では,さらに訪問看護の強化も図り,12年間実質黒字を続けているのだから,高度医療と健全な病院経営は両立できる。それに,不採算と言われている救急医療も,診療圏を広げる重要な要素であり,職員の救急医療に対する使命感があれば採算は取れるはず」と,質の高い病院経営の実現に向けた方針を示した。
 さらに,病院経営にとって大きな問題である在院日数の短縮に関して,(1)外来の有効利用,(2)後方病院の確保,(3)訪問看護の充実,(4)最新技術の導入,(5)看護の質の向上,(6)病棟管理の一元化,(7)クリティカルパスの導入といった対策をつけ加えた。

将来を予測して生き残る

 「混乱と変革の時代に対応する7つのキーコンセプト」というテーマで口演を行なった松下博宣氏(ケアブレインズ社)は,経営コンサルタントの視点から日本の医療経営が直面する問題を取り上げ,対応策を模索した。
 そこで松下氏は,問題点として「国民皆保険,フリーアクセス,自由開業医制度,出来高払い制の4つの制度が制度疲労をおこしており,新制度の基本的なデザインが明確に示されていないまま“定額制”や“在院日数短縮”などが叫ばれている」ことを憂慮。近未来的に医療機関が取り組むべき事柄として,(1)成果責任の所在を説明可能にする明確な役割分担,(2)価値創造型経営戦略とマネジメント・サイクルの活性化,(3)暗黙的共同体組織から明示的機能組織への転換,(4)理念,戦略,成果責任,成果目標へのコミットメント,(5)脱年功序列と成果主義人事の導入(人の評価),(6)明示的「標準」の活用と効率化への挑戦,(7)Evidence-Based Healthcare(EBMとクリティカルパスの統合)の7つをあげ,「近い将来を予測する力がこれからの時代で生き残っていく原動力になる」と指摘した。

牽引者としての自治体病院

 最後に,長谷川敏彦氏(国立医療・病院管理研)が,「政策的立場からの病院管理経営」をテーマに口演。1980年代に始まった“健康変革”という潮流の中で,財源確保の難しさ,医療供給体制の未整備,政府の役割の見直し,公立病院(自治体病院を含む)と私立病院の相互不理解といった課題を指摘した。また,「病院と診療所のデタント・逆紹介や,公私の役割分担といったネットワークの整備が重要である」とし,「超高齢化社会に突入する21世紀の日本の保健医療福祉システムを再構築する上で,自治体病院にはその先駆的な役割を担ってほしい」と述べた。
 また,総合討論では,(1)クリティカルパスにもEBMが重要,(2)自治体の財政悪化が自治体病院に打撃を与える,(3)医療業界の縦割りシステムにより各医療従事者に意識格差が発生,(4)公立病院と行政の相互不理解,といった意見が出され,「病院環境にも地方公営企業法にも改善の余地がある。DRG/PPSの導入も慎重に考え,明確な経営戦略と競争意識を持ち,日本の病院の牽引者として頑張ってほしい」という諸橋氏の言葉でシンポジウムの幕を閉じた。