医学界新聞

 シドニー発 最新看護便
 オーストラリアでの高齢者対策[第8回]

 帰国しての雑感

 瀬間あずさ(Nichigo Health Resources)


 本年10月中旬より3週間,筆者はコーディネーターとして兼務している痴呆症サービス開発センターのリチャード・フレミング所長に同行し訪日をした。
 そこで今回は,オーストラリアの高齢者ケアから少しはずれて,1年ぶりに訪れた日本での印象を記してみようと思う。

全国をめぐって

 今回の訪日目的は,フレミング所長が岩手県老人保健施設協会創立10周年記念大会(盛岡市,10月14-15日)で講演を行ない,また第57回日本公衆衛生学会(岐阜市,10月28-30日)でポスター発表することになっており,そのつきそい役を務めることであるが,岩手,大阪,東京,岐阜と各地を訪れることとなった。
 それらの地域では,さまざまな高齢者向けの施設を訪問する機会ともなったが,その折にフレミング所長が痴呆性高齢者施設,例えば建設予定の特別養護老人ホームの痴呆棟設計図を前にすると,痴呆症ケアにおける環境デザインのコンサルタントとしてアドバイスをしてしまうのを目の当たりにした。彼のアドバイスには約4つの情報,つまり(1)設計図,(2)入所予定者の情報,(3)ケアスタッフの状況,そして(4)どのようなタイプの施設を運営したいのかなどがある。例えば,治療を中心とした医学モデルの施設とするのか,生活を主体とした施設とするのか,言い換えればどのようなケア理念を推進しようとしているのかを基本としているのだが,本連載の3回目(本年1月26日付,2274号)で述べた痴呆症施設における「7つの環境原則」に基づいて,コンサルテーションが行なわれる。

言葉,国,文化を超えても機能するシステム

 フレミング所長に言わせると,彼のアドバイスは「痴呆症施設においての基礎であり常識である」がゆえに,言葉,国,文化を超えても機能するとのこと。つまり,多勢の痴呆症入所者を一同にケアをすると,余計に混乱度を増長させてしまうことになるため,例えば50床のフロアであれば,それを半分に区切ってケアをするとか,安全性を考慮して階段,エレベーター付近には入所者が自由に出入りできぬように設計するなどである。
 確かに,フレミングが説く7つの環境原則の中で「家庭的」とか「慣れ親しんだ」という部分においては,日本の国民性,暮しぶり,文化などの影響がかかわってくるだろう。これについては,すでに日豪の共同研究が開始されており,痴呆性高齢者施設の環境デザインについては両国の差異,共通点がそう遠くはない将来に明確となっていくと思われる。

ますます進む日豪の協力態勢

 研究といえば,本年2月に前厚生大臣(小泉信一郎氏)がオーストラリアを訪れ,今後,日豪両国で「高齢者ケア」に関する共同研究を開始する方針が文書で交わされ,現在その研究計画が進められている。来年は「世界高齢者の年」にもあたり,それにちなんで,シドニーで国際会議が開催される予定である。同会議での両国間の医療福祉分野での研究が,より多く発表されるのを期待している。
 個人的なこととして,久しぶりに日本に帰国して,新聞,テレビなどのメディアを通じ,介護に関する話題が連日のように報道されているのを見て改めて驚かされた。それと同時に,今まで福祉といえば,イコール北欧と考えられてきたものが,公的介護保険導入を前に高齢者ケア評価チームの存在,コミュニティオプションプログラム(利用者選択制度)にみられるようなケアマネジメント,痴呆症ケアなど,オーストラリアの中負担,中福祉のシステムが日本でも紹介され,多くの医療関係者に知られるようになったことをうれしく思った次第である。