医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


大腸がん検診の新時代の扉を開く

大腸がん検診 その考え方と実際 多田正大,樋渡信夫 編集

《書 評》竹本忠良(アジア太平洋消化器病学会長)

大腸集検の新しい地平を模索

 『准南子(えなんじ)』に,「飛鳥の摯つや其の首を俛す」とあって,『大辞泉』は「鳥が獲物に飛びかかるときには,まず首を伏せる。才能のある者は,平生はおとなしく控え目で,いざというときにその力を出すことのたとえ」と説明。その典型が,いま『胃と腸』編集委員長をしている多田正大君だろう。彼は京都府立医大公衆衛生にいるころから,俊秀として注目されているが,最近,続々と著作をまとめ,編著『早期大腸癌内視鏡ハンドブック』に次いで,このたび東北大第3内科樋渡信夫講師と組んで,連携見事に,この好著をまとめた。樋渡君は炎症性腸疾患と大腸がん集検という地道で特に粘りがいる研究を一筋にしている。
 私は,大腸集検の新時代の扉を開こうとして,新しい地平を模索している2人の努力に心から敬意を表したい。編者の歴史認識・人間認識の確かなことを高く評価するものである。
 顧みると,厚生省の癌予防対策要綱でもって,がん検診の普及拡充の重要性が示されたのが1969年のこと。この年,アメリカでは,アポロ11号が月面着陸に成功し,日本では東大安田講堂が封鎖されたが,1960年代以降,日本が高度経済成長を謳歌したときだった。哲学者の中村雄二郎は,この年代から,「検診や医療知識の普及,それに医療の専門分化・組織化によって医療の中心が大病院に移り,……」と書いている。それから20年たって,現在の医療世界の激変ぶりは,きわめてドラマチックだ。そんな結果の1つが,厚生省が老人保健法からがん検診を除外したことで,「平成10年度の国の予算から,これまで永い間実施されてきたがん検診に対する国庫補助を廃止し,地方交付税をもって措置(いわゆる一般財源化)することになった」(久道論文)。

大腸がん検診の基本,実際,精度管理と問題点の3本立て

 いま,大腸集検の先行きを悲観する声が大きいが,この時期に,大腸がん検診の基本,大腸がん検診の実際,大腸がん検診の精度管理と問題点を,3本立てとした本書が刊行された意義は大きい。出版に踏み切った医学書院にも勇断を讃えたい。また,久道茂の「大腸がん検診序論」と斎藤博の「大腸がん検診の有効性評価」は特に見逃せないだろう。
 分担執筆は,実際に大腸集検で苦労しているものが多いことが特徴。保健婦の今給黎みどり,臨床検査技師の三宅智恵子も加わって,全体に記述がていねいで平易である。
 行政に全面的に依存しないでも,この領域がさらに骨太になれることを,いずれ実証してほしいものだ。
B5・頁192 定価(本体4,200円+税) 医学書院


呼吸器疾患の臨床に携わる医師のために

気管支鏡 臨床医のためのテクニックと画像診断 日本気管支学会 編集

《書 評》山木戸道郎(広大教授・内科学)

気管支鏡の正しい普及を

 このたび,医学書院から『気管支鏡―臨床医のためのテクニックと画像診断』が上梓された。本書は日本気管支学会の編集によるものであり,編集責任者はともにわが国における肺癌学をリードして来られた古瀬清行氏と土屋了介氏である。日本気管支学会では,気管支学の進展と臨床における必要性の高まりから,気管支鏡の正しい普及をめざして,学会として1つのガイドラインを作ることを考えてきた。
 というのは,わが国における気管支鏡の手技は,統一されたものではなく,施設により,また研究者や日常臨床における術者により,少しずつ相違がみられる。それはそれでよいのであるが,これほど気管支鏡が一般に普及した以上,学会において何らかのガイドラインを作るのが当然の責務である。例えば器具の取り扱いにはじまり,所見の取り方と表現法,診断と診療の標準化など,できるだけ早期に解決されなければならないことが山積みしている。
 翻って,わが国の気管支鏡はいわゆる硬性気管支鏡にはじまり,近年は軟性気管支鏡すなわちフレキシブルファイバースコピーが中心的存在価値を示している。
 このたび,筆者は第21回日本気管支学会の会長を拝命し,本年5月28日から29日まで,広島市・平和記念公園の広島国際会議場で本学会を開催した。この時期を利用して,硬性気管支鏡をもっと普及させるため,第3日目は気管支鏡セミナーとして,ブロンコボーイ(模型患者)を使った硬性気管支鏡の実習をしていただいた。日本気管支学会では,1989年より毎年このようなセミナーを開催し,気管支鏡の正しい普及に務めている。これらの活動を背景にまとめられたのが本書である。
 最大の特徴は非常にわかりやすく,B5判で232頁の実用書としてまとめられたことである。気管支鏡の認定医試験に活用されるよう,気管支鏡セミナーを受講する臨床家が事前に読んでおいて,1日の実習で十分その目的が達せられるよう項目が組まれている。すなわち,第I章から第IV章までは気管支鏡の種類に始まって器械の取り扱い,気管支鏡の適応,ならびに気管支の正常所見が記されている。
 第V章の診断方法は,病的所見の捉え方が述べられ,さらに検体の採取方法に触れている。また,第VII章の各種疾患の気管支鏡写真は色彩もよく描出されていて,見る者に臨場感を与える。

ガイドライン作成に向けて

 第VI章では軟性気管支鏡でできる各種の治療方法について述べられ,最終章では硬性気管支鏡について,その使い方と適応ならびに利点,欠点が述べられている。さらに,合併症とその予防および対策に関しても章を設けている。
 前述のようにこの領域においては未だ手技に関しては統一された見解がなく,早い時期にガイドラインの作成が望まれるが,本書はその目的に沿ったテキストブックの役割を果たすものとなるであろう。呼吸器疾患の臨床に携わる医師に広くご一読されることをお勧めしたい。
B5・頁232 定価(本体10,000円+税) 医学書院


Patient-orientedな薬物療法をめざして

内科医の薬100 Minimum Requirement 第2版 北原光夫,上野文昭 編集

《書 評》木村 繁(医薬制度研究会)

薬物療法の2つの問題点

 書店で『内科医の薬 100-Minimum Requirement』を目にしたとき,“これだ”と思ったのには2つの理由があった。薬剤師として長い間医薬分業を主張してきたものにとって,薬の適正使用のキーは,医師の処方にあると強く感じていたことが1つ。それとWHOのエッセンシャル・ドラッグズの考え方に現れているように,ほんの数円の補液用薬剤があれば,何万人もの子どもの命が救える開発途上国があるのに,日本では不必要な薬が使われすぎているのではないかと常日頃感じていたからである。
 従来の日本における繁用薬の中には,外国で副作用があるため開発を断念したものが含まれていたり,抗痴呆薬に代表されるように,とても先進国では許可にならない薬が入っていたりした。
 編者のかかわっておられる『治療薬マニュアル』(医学書院)を私たちの地区薬剤師会の勉強会のテキストとして採用しているのも,類書に比して薬効群ごとの比較や使い方の説明が充実しているからだが,本書においてもその特徴は発揮されている。
 中には,これは世界的な標準処方からはどうもという薬剤が入っていなくもないが,その薬剤の解説がまたうれしい。いわく「本剤単独での……効果については若干懐疑的にならざるを得ない」,「……実のところ科学的な根拠を持っているわけではない」。願わくば,そうした品目は本書からも姿を消してほしい。

患者本位の薬物使用の適正化

 初版の,「本書のねらい」に述べられているように,医師が常用する薬剤を制限してその薬剤に精通してはじめて,患者本位の薬剤使用の適正化が達成できる。そうした意味において,各薬剤について記載されている,「病態に応じた使い方」,「代謝・排泄」,「副作用」などの項を熟読することは,医師のみならず薬剤師にとっても必須であるといえる。
 そうすることにより,“Publication bias”や“Promotion bias”から脱却することが可能になり,“Patient oriented”な薬物療法が日本にも根づくことになる。
B6・頁254 定価(本体3,800円+税) 医学書院


適切な救急診療のためのハンディなマニュアル

救急レジデントマニュアル 第2版 相川直樹,堀進悟 編集

《書 評》小濱啓次(川崎医大教授・救急医学)

軽・中等症疾患に重点

 救急外来には多種多様の疾患が来院する。これらの疾患には軽症もあれば重症もあり,また小児科,内科もあれば外科疾患もある。また,救急患者の多くは各種の症状を訴えて来院する。この症状の中には各科にわたる疾患が含まれている。例えば,意識障害という症状の中には,脳血管障害や頭部外傷といった頭部(中枢)に関係する疾患だけでなく,呼吸器疾患であるCO2ナルコーシス,循環器疾患であるAdams―Stokes症候群,代謝性疾患である尿毒症や糖尿病性昏睡もある。さらに,眠剤中毒,農薬中毒,窒息,溺水の患者も意識障害を主訴として来院する。救急診療を担当する医師は,これらの多くの疾患の中から適切な病名(診断名)を見つけ出すと同時に,緊急に適切な治療を行なわなければならない。
 以前より,わが国の救急診療に関する成書は,どちらかと言えば重症疾患(3次救急疾患)にどのように対応するかに重点を置いた本が多いが,実際の救急診療ではその多くが軽症(初期救急疾患)や中等症(2次救急疾患)の患者であり,重症の患者はほんの数パーセントに過ぎない。このことから,救急診療に関する成書は,軽症,中等症の疾患に重点を置いた本が望まれるところであるが,これに適した本がなかなかないのが現状である。

救急診療の全体像を把握できる

 このたび,慶應義塾大学の相川直樹教授・堀進悟助教授を編者として上梓された『救急レジデントマニュアル 第2版』は,まさにこのことに重点を置いて編集されたマニュアルといえる。本書は多くの患者が訴えてくる各種症状をマニュアル編集の中心におき,各種症状の鑑別診断が簡単に,しかも適切に行なわれるように,また緊急治療も行なえるようにしてある。また本書がハンディなこともよい。忙しい救急診療の現場で大きな本を持って歩くことはできない。さらに簡単に要点だけを取り上げてまとめてあるのもよい。長い文章では救急診療に間に合わない。本書は,全体の構成がレジデントに理解しやすいように,必要度の高いものから順に記載されてあり,順次読むことによって救急診療の全体像がわかるようになっている。
 本書が多くのレジデントに利用され,適切な救急診療が行なわれることが望まれる。
B6変・頁496 定価(本体5,800円+税) 医学書院


初めてX線診断を学ぶ人に

上部消化管X線診断ブレイクスルー 齋田幸久 著

《書 評》市川平三郎(国立がんセンター名誉院長・早期胃癌検診協会理事長)

 齋田幸久博士が,またユニークな本を上梓された。心憎いほど気のきいた前著『消化管ベスト・テクニック』(医学書院,1991)を出版された博士が,今度は別の視点から本書をまとめられたことは,意義が大きい。
 別の視点とは何か。それは,前著の出版から6年以上,教育の第一線で学生やレジデントに接して努力してこられた苦悩の結晶ではないか。つまり博士は,技術の必要性とその技を磨くコツを教えただけではどうにもならないということを,その間により実感されたのではないだろうか。
 上部消化管X線診断というものは,かなり奥が深いものなのだが,本書を通読してまず思ったことは,よくぞこれほどコンパクトにまとめたものだ,ということだった。が,同時に,こんなにコンパクトでよいのか,とも思った。でも,よく考えてみると,やはりこれでよいのだ。

素朴な疑問に明快に答える

 そもそも教育,特にまったくの初心者にものを教える場合に最も大切なことは,きわめて素朴な疑問にまず明快に答えることだと思う。誰でも持っている疑問が明らかになると,目が輝いてくる。そして,次を知りたがるようになる。そこが大切なのだ。
 私は,かつて母校の小学校で早期胃癌の診断学の「授業」をしたことがある。生まれて初めてみる二重造影のX線写真を1枚出して,どこに病変がありますか,と質問したら,なんと,小学生が恐るおそる指差した箇所が早期胃癌のところだったのだ。その小学生も狂喜したが,それ以上に私自身が驚いてしまった。この本は,何かそういうところを暗示するような雰囲気を持っている。
 内視鏡時代と言われるように,最近の素晴らしい内視鏡の進歩を決して否定するのではないが,それに匹敵する,否,時にはそれを超える多くの情報を提供するのがX線診断学だということを,改めて深く考え直すべきだろう。このことは,多くの経験者の深く思っていることなのに,世の中の傾向は,内視鏡のほうが手っとり早いと短絡している風潮が強い。こうなったのは教育が悪い,とすぐ言われる。しかし,齋田博士のこの本をみると,何か昔と違う,コンパクトだがスマートな風が吹き流れている。
 「読破すれば,その時,君が平均をはるかに凌駕していることをお約束する」と,著者も自信を持って言っている。

X線診断の食わず嫌いにもお勧め

 X線診断学の奥の深さを示す一面として,X線像と病変の肉眼像との丹念な対比が重要なのだが,それにも触れている。とにかく,数多くの写真をじっと見ることの大切さも,さらに,最近のトピックスなどまで髄所に散りばめて,興味をつなげる努力もしている。
 『ブレイクスルー』とはよくぞ名づけたものだ。本書は,X線診断の初心者はもちろんのこと,いわゆる食わず嫌いの人たちも,とにかく前著とともに一読することをお勧めしたい本といってよいであろう。
B5・頁120 定価(本体3,000円+税) 医学書院


日常診療に役立つ精神科診断・統計マニュアル

DSM-IV-PC プライマリ・ケアのための精神疾患の診断・統計マニュアル
ICD-10コード対応

The American Psychiatric Association著/武市昌士,佐藤武 訳

《書 評》前沢政次(北大教授・総合診療部)

 高齢社会となったわが国の医療が抱える問題は高齢者ケアのみではない。欧米先進国と同様にメンタルヘルスに関するケアも重要な位置を占める。大学病院の総合診療部外来でも,筆者がかつて勤めた地方の病院の内科でも,不安,うつ,そして身体化を起こしている患者が実に多いのだ。特に総合診療部では直接初診患者ばかりでなく,他科からの紹介でもメンタルヘルスがらみの患者が多く,患者統計を取ろうにもその診断や分類方法に苦慮してきた。
 この度,私自身かねてより学ぶことの多かった『プライマリ・ケア精神医学』(南山堂)の編著者である武市昌士先生が中心になって武市昌士,佐藤武訳『DSM-IV-PC プライマリ・ケアのための精神疾患の診断・統計マニュアル』を医学書院より出版された。早速利用させていただいている。

プライマリ・ケア医の精神障害に対する知識と認識の促進

 本マニュアルはプライマリ・ケア医の精神障害に対する知識と認識の促進を目的とした包括的な計画下で作成されたものである。アメリカ国立精神保健研究所(NIMH)はプライマリ・ケア精神医学を研究している専門家を集め,プライマリ・ケア医がなぜ既刊の『精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM-IV)』に馴染めないかを十分に論議したうえで,問題解決を図るためにプライマリ・ケア医のためのDSM-IV版(DSM-IV-PC)を作成するにいたった。ユーザーフレンドリーな形式,臨床上の有効性,教育上の有効性,ICD-10との互換性,調査研究上の有効性などを重視し本書をまとめあげたようである。
 第1章では本書の使用方法が丁寧に述べられている。症例の呈示まであり親切である。第2章ではICD-10コードのついたDSMの分類が並べられている。第3章には診断のためのアルゴリズム(本書では分類のための「はい」「いいえ」の鑑別表を意味するものと思われる)の概略が掲載され,手短に第4章以下のどこを読めば詳細を学習できるかを示している。

プライマリ・ケアの現場で直面する問題に合わせて

 わが国のプライマリ・ケアの現場で実際に直面することの多い,不安や抑うつや説明不能な身体症状などを,4章以下で実際の診断基準に照らし合わせながら分類できるしくみとなっている。例えば,説明不能な身体症状アルゴリズムではまず,ステップ1で一般の身体疾患に関係する症状,物質誘発性(薬剤処方を含む)症状,他の精神障害をまず区別する。次にステップ2では神経学的な症状であれば転換性障害かどうかを判断し,ステップ3で心理的要因が疼痛の発症,増悪,遷延化に影響していると考える場合,疼痛性障害を判別する。これらが否定的であればステップ4に進み,病気へのとらわれを察知し,心気症や身体醜形障害を考える。こうしたステップを8段階に分けて説明している。
 プライマリ・ケアの現場で単に分類のために役立つのみではなく,診断能力の向上をめざすためにも一読を薦めたい。
B5・頁304 定価(本体4,200円+税) 医学書院