医学界新聞

「第46回日本心臓病学会」の話題から

植込み型除細動器(ICD)の現状と問題点

 近年,心室頻拍(VT)/心室細動(VF)による心臓突然死が注目され,その対策は医学的のみならず社会的課題となっている。アメリカでは心臓突然死は年間35万人におよび,その80-90%はVT/VFによるものと考えられており,最も有力な治療法として植込み型除細動器(ICD:Implantable Cardioverter Defibrillator)は1985年以降,急速な普及を見ている。一方,わが国では1996年に保険適用が認められ,ようやく突然死予防法としての位置づけが確立されつつある。
 笠貫宏氏(東女子医大)は,近著『植込み型除細動器の臨床』(日本心臓ペーシング・電気生理学会植込み型除細動器調査委員会編:医学書院刊)で,「VT/VFを予防する薬物療法,手術およびカテーテルアブレーションに限界があるため,ICDはVT/VFによる突然死予防の最終的療法として位置づけられ,急速に普及している」と述べているが,折りしも,先ごろ開催された「第46回日本心臓病学会」では,パネルディスカッション「ICDの現状と問題点」(座長=笠貫宏氏,国立循環器病センター 小坂井嘉夫氏)が企画された。

ICDの歴史

 ICDは現在第4世代を迎えている(参照)。前掲書によれば,第3世代および第4世代の特徴は「(1)心外膜リードシステムのみならず,皮下電極や経静脈性電極を用いる非開胸リードシステムを有すること,(2)除細動およびカルディオバージョン機能のみならず抗頻拍ペーシング機能,バックアップペーシング機能およびメモリー機能を有することである」が,「各世代ICDの植込み手技とその問題点」を検討した矢島俊巳氏(日医大)は「手技的に問題となることはあまりないが,重要な問題は除細動閾値を決めるための細動誘発回数である」と指摘。

ICDの合併症:誤作動とその対策

 また,栗田隆志氏(国立循環器病センター)は前掲書において,「ICDの合併症とその対策」として,(1)周術期死亡(術後30日以内の死亡),(2)術後不整脈,(3)ポンプ失調,心不全,(4)感染症,(5)ポケット部の内出血(血腫),(6)除細動閾値の上昇,(7)不的確な作動(誤認識,誤作動)を上げているが,このパネルディスカッションでは特に誤作動について検討。「合併症として誤作動の発生率は比較的高く,その発生は予測不可能なことが多い。また,特異度の改善を目的とした設定変更は時に感受性の低下を招く恐れがあり,現行の第4世代ICDの診断能力の限界を示すものであり,第5世代ICDの普及が望まれる」と報告した。

ICDの現状と将来の展望

 田中茂夫氏(日医大)は同書の「ICDの現状と将来の展望」において,(1)軽量・小型化,電池寿命の延長,(2)予防的ICD植込み術,(3)VT/VF発生の防止機構,(4)心房細動の除細動機能,(5)次世代ICDの特徴,(6)DDDRD,などについて詳述しているが,「次世代ICDができるとすれば,(1)DDDペーシング,(2)レート応答型ペーシング,(3)心房除細動などの機能が第4世代ICDに付け加えられたものとなろう」と述べている。また,DDDRDとはDDDRペースメーカ(心拍応答型生理的ペースメーカ)にICD機能を備えたものであり「DDDRDはペースメーカとICDが合体したものであり,徐脈と頻脈のいずれでもDDDRDなる抗不整脈装置を植込むことによって対応可能となった。その結果,臨床的には用いる機種は限られたものとなり,どのような不整脈に対し,どのようにプログラム設定するかの選択が重要になってくるだろう」と付言している。


ステント時代のPTCAとCABGの選択

会長講演を受けて論議が展開

 会長講演「冠動脈インターベンションの進歩と功罪」で山口徹氏(東邦大)が指摘したように(本紙第2312号参照),第1世代の冠動脈ステントが保険適応になって4年が経過し,ステントはPTCA(経皮的冠動脈形成術)の難点であった急性閉塞を救済し,再狭窄を半減させた。このため,PTCAの適応は拡大され,冠動脈疾患治療におけるPTCAの適応率はステント時代以前に比べてさらに増加している。一方,CABG(冠動脈バイパス術)も動脈グラフトの瀕用や心筋保護法の改善によって治療成績が向上するとともに,低侵襲手技の導入によってその概念が変遷しつつある。
 このような状況を背景に,会長講演を受けた形で開かれたパネルディスカッション「ステント時代のPTCAとCABGの選択」(座長=大阪市立総合医療センター 土師一夫氏,東大 高本眞一氏)では,両者の選択に関する検討が行なわれた。
 PTCAとCABGの治療選択基準の妥当性を初期成績から検討した岩瀬孝氏(虎の門病院)は,「ステント時代においてもPTCAとCABGの治療選択基準に基本的な変化はない。しかし,入り口部病変に対する再血行再建率,心事故発生率などのPTCAの治療成績はステントを使用することにより改善した」と指摘。
 一方浅野竜太氏(榊原記念病院)は,3枝病変に対する冠動脈ステント,ステント以外のカテーテル治療およびCABGの3治療法を比較し,「第1世代のステントを併用した3枝冠動脈病変のカテーテル治療は,狭心症の改善という点で優れているが,完全血行再建率が十分でなく,遠隔期予後の点ではCABGに匹敵する治療とはなっていない」と述べた。
 また不安定狭心症におけるステント導入に伴うPTCAの治療成績改善を検討した林孝俊氏(県立姫路循環器病センター)は,不安定狭心症においてステントの積極的使用により急性期の成功率の改善を認め,また,安静狭心症を伴う重症例のPTCA症例が増加したが,ステントによる遠隔期成績の改善が認められたことを指摘し,「不安定狭心症に対するステントの積極的使用は医療成績改善をもたらし,予後改善に寄与する」と報告した。
 満尾和寿氏(東邦大)はステント時代におけるLMT(左冠動脈主幹部)病変に対するカテーテル治療成績を検討。「LMT病変に対するステントはunprotected症例であっても,病変成功率は高率で合併症は認められず,有効であると考えられた。LMTは大きなステント面積が得られれば,長期予後も良好であり,インターベンション直後の血管内エコーによる確認が予後改善に有用である」と報告。
 近年,LAD(冠状動脈)の完全閉塞病変を伴う多枝病変に対しても,低侵襲性を目的として試みられている多枝ステントやMIDCAB/PTCA併用療法について,西田博氏(東女子医大)は,「MIDCABを良好な成績で行ない得る技量の外科チームであれば,動脈グラフトによる多枝CABGの成績よりもよいと考えられ,遠隔成績を考慮すると,多枝病変では人工心肺絶対的禁忌例以外に,あえてMIDCAB/PTCA(and/orステント)併用療法や多枝ステントを試みる意義はコスト面も含めてきわめて小さいと考えられる」と報告した。