医学界新聞

「1998年度ラスカー賞」の話題から


 花房秀三郎氏(大阪バイオサイエンス研所長),利根川進氏(米マサチューセッツ工科大教授),西塚泰美氏(神戸大学長)に続いて,増井禎夫氏(トロント大名誉教授)が日本人として4人目の受賞者となったことで話題になった1998年度のアルバート・ラスカー医学研究賞(ラスカー賞)は,いずれも癌に関する研究に対して与えられた結果となった。
 基礎医学研究賞の受賞者は増井氏の他にP.Nurse氏(英国インペリアル癌研究基金)とL.Hartwell氏(フレッド・ハッチンソン癌研究センター)。細胞の分裂・増殖は停止とチェックの複雑な機構によって支配されているが,この細胞周期は細胞の種類によって大きく異なる。哺乳類成体の中枢神経系の細胞は分裂しないが,多くの細胞はその個体の一生を通じて定期的に分裂する。癌におけるこの細胞周期の解明に貢献したことが授賞の理由である。
 一方,臨床医学研究賞の受賞者は,P.Nowell氏(ペンシルベニア大),J.Rowley氏(シカゴ大学医療センター),A.Knudson氏(フォックス・チェイス癌センター)。
 染色体の異常が癌と関係しているという説は,古く19世紀後期にまで遡ることができるが,1960年代まで特定の染色体異常が特定の癌と結びつけられることはなかった。この概念は60-70年代を通じて発展し,特定の遺伝子が癌に関係するという説が生まれた。今回の授賞は,染色体や遺伝子と癌の詳しい関係解明に対する貢献によるものである。
 なかでもKnudson氏は,網膜芽細胞腫(Retinoblastoma)の発生機序に関する臨床医としての深い洞察から,遺伝性のものは1ヒット,非遺伝性のものは2ヒットの遺伝子変化で起こるという,いわゆる「2ヒット・セオリー」の提唱者として知られる。その後,この遺伝子はRb遺伝子として同定され,癌抑制遺伝子研究の先駆となった(詳細は本紙第2257号掲載の樋野興夫癌研究会癌研究所実験病理部長との対談「癌化遺伝子研究の現在-“2ヒット・セオリー”と“Cancer Genetics”をめぐって」〔写真〕を参照)。
 また特別功労賞は,科学専門誌『Science』の編集長D.E.Koshland,Jr.氏に贈られた。