医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


神経疾患に携わる医師の手元に

頭部MRI診断学 安里令人 著

《書 評》水野美邦(順大教授・脳神経内科学)

病変における組織病理を提示

 まず,力作である。総頁800頁に図が満載されている。図も概ね鮮明である。内容は,MRIの理論に始まり,中枢神経系で化学シフト効果を示す物質と,それらがなぜ画像診断に役立つかの解説に始まるが,難しい数式に偏ることなくわかりやすく解説されている。そのあと,視床下部・下垂体系および傍トルコ鞍部病変,変性疾患,血管障害,占拠性病変,脱髄・代謝,発生障害・奇形,悪性腫瘍に合併する病変と続く。各章の最初には,それぞれの病変における組織病理が簡潔に解説されており,MRI変化を理解する上で大変有用である。MRIの各図には,詳細な解説がほどこされており,これを読んでいるだけでも,多少基礎知識のある人には十分勉強になる内容である。
 また,小児の代謝異常や先天奇形も豊富に集められており,これらの症例を見る機会の少ない私にとって大変興味深い内容であった。
 いくつか気になった点をあげると,脳腫瘍の項で,各組織タイプ別の脳腫瘍の解説はあるが,画像は部位ごとに腫瘍症例として一括されており,腫瘍診断におけるMRIの重要性を考えると,組織タイプ別に配列されたほうがよいのではないかと感じた。また脳出血の時間経過に伴うMRI画像の変化は,なかなか理解しにくい点があり,よく解説されているが,CTとの対比があるともっと理解しやすいであろうと感じた。また,脳梗塞の初期診断にはフレア法が有用であるが,それがないのが多少淋しかった。さらに感染・炎症症例が少なく,結核性髄膜炎,ヘルペス脳炎,膠原病などの症例がもっとあるとよいと感じた。脊髄病変もあまり多くない。また,疾患の配列が必ずしも病因別に系統的に行なわれていない所があり,例えば,Wilson病が変性疾患に入っていたり,intravascular malignant lymphomatosisが痴呆を来す疾患の中に入っていたりする。症例の分類は,やはり病因別のほうがすっきりしているのではないかと感じた。また,脊髄小脳変性症の分類はやや古い。

各画像には詳細な解説

 しかし,これらの点は,本書の膨大な症例と詳細な解説の中ではマイナーな点であり,決して本書の価値を損なうものではない。これだけ多数の症例を集め,それらを整理し,写真1枚1枚に詳細な解説を施された安里先生に深く敬意を表する次第である。本書は,神経放射線医のみならず,神経内科医,脳神経外科医,小児神経医にとって大変勉強になる素晴らしい内容であり,ぜひ手元において参考にすることをおすすめしたい。
B5・頁800 定価(本体24,000円+税) 医学書院


結核に対する新しい理解を身につける

結核 第3版 泉孝英,網谷良一 編集

《書 評》木田厚瑞(都老人医療センター・呼吸器科部長)

新たに問題となる感染症

 もし今,この地球上に新しい感染症が蔓延し,人類の約3分の1(17億人)が罹患し,毎年800万人の新患者が発生し,300万人が死亡するような事態となったら,医科学者や行政担当者を震撼させ,大パニックとなることであろう。しかし,これが結核の現状なのだ。結核を過去の病気と考えるべきではない。欧米では,従来の減少傾向が逆転し,罹患率の増加がみられている。また,アフリカなどの発展途上国では,HIV感染の増加と相まって,爆発的な増加がある。他方,わが国では新発生患者が毎年4万人以上もあり,うち46%が排菌しており,現在治療中の患者は6万人に達している。
 近年の結核の特徴は,高齢の患者が急増しており,しかも排菌のある重症例が増加していることである。結核の予後は現在でも必ずしもよくないと指摘されている。高齢患者の増加と,他方で問題となっていることは医療従事者の結核である。感染症としての結核に関して必要とされる医学的専門知識が欠如しており,これが医師,看護婦における院内感染や老人保健施設内などにおける集団発生などの社会的問題を引き起こしている。
 筆者らが最近経験したことであるが,自宅で介護されていた寝たきりで痴呆を伴う超高齢患者が重症の肺結核であった事例がある。老衰と言われ特別の検査も治療も受けていなかった。導入が予定されている介護保険では「ケア」が中心となり,高齢医療に必要とされる医学的検査や治療にはあまり力点が置かれていない。今後,予想もされないような形の結核の集団発生が憂慮されるゆえんである。
 本書『結核』は,第1版以来,13年間に3版を重ねている名著である。初版には国立療養所東京病院の院長として日本における結核の撲滅に多大な功績を残された砂原茂一先生の説得性のある推薦の言葉が寄せられている。「結核だけでは医師の商売が成りたたなくなったことは確かですが,同時に結核をまったく忘れては日常の診療がほとんど不可能であることも確かです。-(中略)-すべての臨床家のための参考書であることを明確に意識して編まれた高い水準の医学書として,広く実地医家に活用されることを願ってやみません」と。

医療チームを構成するすべての人に

 結核は日常の診療にきわめて重要で,決して軽んじられてはならないのに,今,診療現場では,必要情報というべきものがあまりにも欠如している。欧米では新しい結核の教科書が多数出版されている。しかし,わが国では医師,看護婦をはじめコメディカル向きの実地指導書として類書となる最新の参考書が他に見当たらない。医療チームを構成するすべての人たちが本書を活用して,結核に対する正しい理解を身につけるべきである。
 本書は,結核のみを解説した教科書ではなく,これに関連する情報をも広く取り込んでいる。医師や医学生だけではなく病院,訪問看護ステーションで働く看護婦やヘルパーをはじめ,コメディカルの方々に広く活用されることを強く望みたい。あなた自身の健康を守るためにも,正確な情報を知ることが必要であると警告したい。
B5・頁464 定価(本体14,500円+税) 医学書院


Q&A形式の心不全のベストガイド

心不全 病態生理からマネジメントまで 700のQ&A
H. J. Adrogue,D. E. Wesson 著/後藤葉一 監訳

《書 評》菅 弘之(岡山大教授・生理学)

 本書は一般医が心不全のマネジメントを担当するのに必須の,最新かつ最低限の知識を得るためのベストガイドとして発刊された英文書“Heart Failure”(Adrougue & Wesson共著)の和訳である。訳者は長年心機能研究の面で,1980年代に9年間の共同研究期間を含めて私と深いおつき合いを続けて来た国立循環器病センター心臓内科の後藤葉一医長と,彼を囲んで心不全・心機能の勉強会を持ってきた,優秀かつ新進気鋭の心臓内科スタッフとレジデントたち,計12名である。
 原書は内科学における適切なトピックスを,基礎医学に関連する概念を用いて解説することで有名な「Blackwell's Basics of Medicine Series」の1冊である。本書の最大の特徴は,最適な患者マネジメントに必要な病態生理学的知識と,その基になる基礎医学的原理の適切な組合せが効率よく修得できるように企画されていることである。その結果,通常の教科書とは大きく異なり,簡潔かつ適切な質問とそれに続く解答と解説が,最新の医学的知識と明解な表現を用いてなされていることである。翻訳後もその原書の特徴は失われていない。

患者マネジメントに直結した病態生理

 このような特徴のために,質問を順に追っていくことにより,心不全に関してのFAQ(frequently asked questions)的問題点と,それに対する解答が知らず知らずのうちに得られるようになっている。これによって,通常の教科書表現よりはるかにわかりやすく,かつ系統的に,心不全の病態とマネジメントに必要な医学・医療的知識が修得できることになる。したがって,監訳者序文にも明記されているように,本書は循環器専門医の知識の再確認のみならず,医学生,研修医,一般内科医向けの基本的参考書としてもふさわしいということに合点がいく。
 内容を具体的に見ると,「1 血行動態の必須事項(66問)」,「2 心臓機能の制御(80問)」,「3 心不全の病態生理(143問)」,「4 心不全の臨床像(129問)」,「5 心不全のマネージメント(282問)」のようになっており,計700問である。具体的に,例えば第1問「全身のホメオスターシス(恒常性維持)のために循環系はどんな役割を果たしていますか?」に対して,答えは「循環系の役割は,細胞が適切に機能できるように全身の体液の組成を適切に保つことです。-(中略)-内分泌系,神経系に加えて循環系が必要です-(後略)」となっている。最後の第700問は「心移植あるいは心肺移植治療の適応症例であるか否かを決定するにはどのような因子を検討しなければならないでしょうか?」,答えは「-いずれを行なうかは肺血管抵抗(心移植のみの場合は低値でなければならない)など,その他の因子により決定されます-(後略)」となっている。さらに,索引が非常に充実していて,知りたい用語から,頁数ではなく,直ちに問題番号に行けるようになっている。

一般内科医から医学生にもお勧め

 本書はA5判で,総頁数は約380頁の軽量小型であるが,その割には内容が充実していて,しかも定価は4500円,コストパフォーマンスの高い本である。早速,病態生理学を学んでいる医学部3年生に勧めてみたい。
A5・頁380 定価(本体4,500円+税) 医学書院


腰痛患者の自己管理の手引書

図解 腰痛学級 日常生活における自己管理のすすめ 第3版 川上俊文 著

《書 評》菊地臣一(福島医大教授・整形外科学)

時代が求めている本

 この本は今の時代が求めている本である。そう断言できる時代背景を考えてみる。まず,臨床現場へのEBM(Evidence-based Medicine)という概念の普及である。高齢化社会に伴う医療費の高騰とともに,医療費の支払い側や医療を受ける側から,医療の内容に対して厳しい目が注がれるようになってきている。腰痛の治療に対しても例外ではない。腰痛の治療や腰痛による職場の欠勤に伴うコストは,医療のみならず製造コストの面からも無視できないほどになってきているからである。
 EBMの観点からみると,腰痛の保存療法には,科学的有効性が立証された手技はほとんどないと言われ,現在,再評価の動きが急ピッチで進められている。この中で,腰痛治療が成功する鍵は,患者さんの抱いている不安や恐怖を除去することと教育であるということが明らかにされつつある。
 もう1つの時代背景は,「医療」のパラダイム・シフトである。腰痛の治療を考えるうえでも,医療をめぐる情勢に,最近,明らかなパラダイム・シフトが起きていることに注目する必要がある。「患者は,自分自身の健康に責任を持ち,健康に対する異なったニーズに対応するさまざまな種類の専門家の助けを必要とし,快く協力してくれる専門家などを探し求める必要がある」,あるいは「医師等は助言を与えることはできるが,健康を管理するうえでの重要な責任は国民にある」といったアメリカやカナダでの報告は,その変化を表している代表的なものである。これは,「個人の健康は,自身の責任で守る権利と義務がある」と理解できる。これは,もはやinformed consentのレベルを越えinformed decisionである。
 この2つの流れに添って腰痛の治療を考えてみる。現在は,「患者さんは,腰痛について学び,自ら腰痛の治療の主導権を持つことが望まれる」ということになる。しかも,それが科学的にみても健康な状態に復帰する最短の道でもある。この概念は,まさに腰痛の治療に対する革命であり,腰痛を治療する側にも重い問いかけである。

患者が腰痛治療の主導権を持つ

 このような時期に刊行された本書は,まさに,時代と科学が求めている,腰痛の患者さんが自己管理をするための手引書である。患者さんはこの1冊で,腰痛治療に,今求められている腰痛の発生機序を知り,恐怖や不安から解放される意識革命を行なうことができる。本書は,世界中で今追試されつつある治療方法の先取りでもある。この本が版を重ねていることは,いかにこの本が世の中に求められ続けてきたかという証しでもある。意識革命のために,患者さんのみならず腰痛に対する医療従事者にも一読を勧める。
 腰痛をライフワークにしている人間からみると,この本を読んだ患者さんとそうでない患者さんの1,2年後の腰痛の発生率や支障度,あるいはQOLの差異の有無を知りたいと思う。いずれにしても,日本の腰痛治療の歴史を語るに欠かせない1冊であることは確かである。
A5・頁248 定価(本体3,300円+税) 医学書院


総合診療医に活用してほしい精神科マニュアル

DSM-IV-PCプライマリ・ケアのための精神疾患の診断・統計マニュアル
ICD-10コード対応

The American Psychiatric Association 著/武市昌士,佐藤武 訳

《書 評》小泉俊三(佐賀医大教授・総合診療部)

 今回,佐賀医科大学精神医学講座の武市昌士教授,佐藤武講師両氏の手により,『プライマリ・ケアのための精神疾患の診断・統計マニュアル』日本語版が上梓された。原著初版は1996年発行であるから3年足らずの間にプライマリ・ケア医が常時参照すべき標準的なマニュアルの日本語版が世に出たことになる。
 DSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)が米国精神医学会の編纂になる精神疾患の標準的な分類マニュアルであり,版を重ねて1994年に第4版(DSM-4)が出版されたことはよく知られている。その簡略版(Quick Reference)の日本語訳が『DSM-IV精神疾患の分類と診断の手引き(医学書院1995)』である。一方,DSM-IVの原著は886頁にものぼる大著であるが,その中でプライマリ・ケアに関連の深い主要な部分を200頁余りにまとめた冊子(DSM-4-PC〔Primary Care Version〕)が米国精神医学会と,米国家庭医療学会,米国小児学会,米国家庭医療学認定医制度,米国産婦人科学会,米国内科学会,米国医師会,家庭医療学講座協議会,一般内科学会および家庭医療教育者協会の緊密な共同作業により編集された。本書はその日本語版である。

現場におけるジレンマに対応

 プライマリ・ケアの現場では患者さんの訴えが心理・社会的な要因によって色濃く修飾されていること,器質的原因では説明できない症状があまりにも多いことなど,誰もが常日頃痛感している。それでも大多数の患者さんとはなにげない日常会話などを潤滑油に信頼関係を築くことが可能であるが,不定の身体症状を訴え続けたり,心の不安定さが見え隠れする患者さんが少なくないことも事実である。このような場合,安易に精神科コンサルトを行なうのもためらわれ,かといって患者さんの症状をどのような範疇で捉えたらよいのか釈然としないまま診療を続けていることが案外多い。特に潜在的な医療不信,家庭や職場での対人関係の悩み,病いに対する過度の恐れなどを抱いて医療機関を転々としている患者さんに接することの多い大学病院総合外来の担当医は,時間をかけてこのような患者さんと対話する姿勢を保ちつつも,自分たちが本来の精神医学や心理療法の専門家でないことにジレンマを感じている。
 佐賀医大総合診療部では,従来から総合外来精神医学を提唱しておられる佐賀医科大学精神医学教室のサポートを受けて,心身相関の強い病態についてのアプローチも積極的に進めているが,一般的にプライマリ・ケア医がさまざまな心身相関的ないし心理的色彩の強い訴えに遭遇した場合,その内容を精神医学のタームでどのように整理すればよいのか,基本的な分類法をコンパクトにまとめたマニュアルがあれば,スムーズなコンサルテーションが可能になろう。

プライマリケア医の必須レファレンス

 神経性食思不振症など心身相関の特に強い身体疾患については,心療内科的「積極診断」と行動療法は専門医に委ねるべきかも知れないが,過換気症候群,過敏性腸症候群,消化性潰瘍,気管支喘息,筋緊張性頭痛など,総合外来を受診する患者には心身相関が大きな位置を占める例が多い。したがって総合外来では必然的に患者の心理過程も含めたアプローチが求められ,診療そのものがカウンセリングの性格を持つようになる。言いかえると,プライマリ・ケア医も「心身相関の病態」(心因性ではない)に関心を持ち,生物-心理-社会的な病態に配慮し,病める人に焦点をあて,正常な人の中にある深い心理を見る姿勢を持つとともに,助言と指示によって患者自身による問題解決をサポートする態度が求められる。
 本書は今後,プライマリ・ケア医が精神医学とのリエゾンを推進する上で広く活用されるべき基本的ツールであり,心のケアに関心を持たざるを得ないプライマリ・ケア医のオフィスに備えつけられるべき必須のレファレンスと言えよう。
B5・頁304 定価(本体4,200円+税) 医学書院


乳癌手術のバイブル

乳癌手術アトラス 霞富士雄 著

《書 評》児玉 宏(乳腺クリニック児玉外科)

 本邦における乳癌の手術術式は,最近の10数年の間に大きく変化してきている。放射線照射技術や化学内分泌療法の進歩と相俟って,手術術式の縮小化の潮流である。手術,照射,化学内分泌療法の三者の組み合わせによって,できる限り手術侵襲を少なくするための多くの試行錯誤が満ちあふれているともいえる。このような状況の中で本書『乳癌手術アトラス』が出版された。
 著者の霞富士雄先生は,癌研外科で永年にわたって故梶谷鐶先生の薫陶を得られ,乳腺外科部長として,本邦で最も多い症例経験を有する乳癌診療の第一人者である。著者の基本的立場は,本書の序でも触れられている通り,“乳癌治療の基本は手術であり,その正統的な手術術式は乳房切除であって,局所に1個の癌細胞をも遺残させないよう,可能な限りメスをもって癌の根絶をはかるべきである”とするものである。この哲学は,著者の乳癌診療での真剣かつ豊富な経験に裏づけされたもので,本書の全編に満ち満ちており,あたかも谷川の清冽な流れのような新鮮かつ峻厳な思いを,読者に与えずにはおかない。

乳癌手術に取り組む姿勢を学ぶ

 本書の書名は『乳癌手術アトラス』となっているが,その内容は,拡大乳房切除術から乳房温存手術までの各術式についての手術操作上のディテールのみならず,各術式を支えている論理的根拠やその歴史的変遷など,実に詳細に記述されており,「乳癌手術バイブル」ともいうべきものである。
 乳腺外科を学ぼうとする一般外科医にとっては,単なる手術手技の解説書にとどまらず,乳癌診療に取り組む真摯な姿勢を学べる必読の書であり,乳癌専門医にとっても,豊富な経験に基づく著者の乳癌治療戦略を読み取ることで,再び新鮮な気概を奮い立たせてくれる1冊である。
A4・頁238 定価(本体23,000円+税) 医学書院