医学界新聞

“健康科学としての理学療法”,“健康科学と健康行動”

「第33回日本理学療法士学会」の話題から


 “健康科学としての理学療法”。
 これは,さる6月11-12日,京都市の国立京都国際会館において開かれた第33回日本理学療法士学会(会長=京大理学療法部 森永敏博氏)のメインテーマ。
 今学会は特別講演,教育講演,学会長基調講演などを中心にして展開されたが,2日目に行なわれたシンポジウム「健康を科学する-それぞれの取組みと理学療法士への提言」(司会=筑波大 福屋靖子氏)もそのテーマに即したもの。医師,建築家,医療消費者,保健に従事するナース,など健康にか関わるそれぞれの立場から,理学療法士への提言があった。

「健康科学と健康行動」

 森永会長の基調講演「健康科学としての理学療法」を受けて行なわれた日野原重明氏(聖路加国際病院名誉院長)による特別講演「健康科学と健康行動」は,50余年におよぶ氏の臨床経験に基づき,“健康とは何か”,“健康を実践するためには何をなすべきか”が語られた。国民の健康維持と健康実践活動において理学療法士がどのように貢献できるかを説き,聴衆に深い感銘を与えた。
 日野原氏は,「今日の医療に関する学問体系は,以前のように医学をトップとして,その他の分野は下に並ぶという体制はもはや崩れ,健康科学という大きな傘の中で,医学,薬学,歯学,保健学,看護学,検査関係の諸技術,情報科学など並列される体制になりつつある」と強調した。また講演の後半で,“習慣病”という言葉の提唱と実践のテーマに言及し,「健康には与えられたもの(遺伝因子,環境)と勝ち取るものとがあり,与えられた環境にうまく適応し,悪い習慣を変容していくことが大切である。理学療法士が患者の健康増進に貢献するためには,患者の行動変容を促すための幅広い学際的な知識(行動科学)が必要。ADL(Ability of Daily Living)を高めることはもちろん大事だが,さらに生きがいのある生活を加えること。すなわちQOL(Quality of Life)の向上に寄与することが理学療法士の重要な仕事である」と満場の理学療法士に語りかけた。
 上述のように,今年の同学会は“健康”と“科学”をキーワードに掲げ,科学としての理学療法を明確にしたことが特徴的であった。会員の日頃の研究成果の発表の場である一般演題は,主題16題を含む642題に上った他,入門講座やイブニングセミナーも日本各地から多数の理学療法士が参加し,2日間にわたり活発な討議が交わされた。
 また,世界理学療法連盟(WCPT)主催による第13回理学療法国際学会が,奈良勲会長(日本理学療法士協会長)のもとで明年5月横浜市で開催される。理学療法士の職域が海外医療協力の場にも広がっている今日,世界的な視野に立った理学療法士の活躍が期待されている。