医学界新聞

クリティカルパスが話題に

第24回日本診療録管理学会が開催


 さる9月3-4日の両日,浅井昌弘会長(慶大教授)のもと,第24回日本診療録管理学会が,「社会に貢献できる診療情報管理をめざして」をメインテーマに,東京・新宿区の日本青年館で開催された(2306号既報)。今学会では,「本人をはじめ関係者の心を傷つけない配慮が情報(カルテ)開示には必要」と強調する会長講演「よりよい診療録のあり方をめぐって」の他,なだいなだ氏(作家)による特別講演「文学表現と記録-記録としての文学作品」やシンポジウム「社会に貢献できる診療情報管理をめざして-社会から要望される診療情報管理とは」などが企画されたが,本号では,特別講演および一般(公募)演題からの話題を伝える。

患者の記録としての小説?

 浅井会長と同窓のなだいなだ氏は,精神科医としてまた作家の視点から特別講演。「精神疾患に罹患した作家(芸術家)は少なくない」とし,ドストエフスキー,ニーチェ,モーパッサン,夏目漱石,牧野信一,芥川龍之介,坂口安吾らの名を披露。さらに,直接に診療を依頼された川端康成は,薬物中毒,てんかん疾患があったことを,「死後年数が経ったので」と明らかにした。
 また,なだ氏は「ドストエフスキーの描写は,医師として患者としての視点で執筆された記録としての価値がある」と評価。夏目漱石に関しても「“追跡妄想”との診断が下されているが,“分裂病”という診断名がまだなかった時代のためで,現在ならば“分裂病”と診断されただろう」ことを,同じテーマを繰り返し小説化した作風から推察できるとした。さらに,「今で言う芸術療法として,小説を書いていたとも考えることができる。また,これらの小説は,患者自身が書いた記録でもある」と述べるとともに,「抽象的な分裂病という表現よりは,“ドストエフスキー型”“漱石型”としたほうが患者の人生の行く手に暗示を与え,臨床的に実りのある結果をもたらすのではないか」と示唆し,講演を終えた。

入院日数の短縮,保険点数の減少が可能に

 公募演題「看護記録を考える」のセッション(座長=国立習志野病院附属看護学校,診療情報管理士 山崎不二子氏)では,座長を含め5名が研究発表を行なった。
 まず石川薫氏(慶大病院)は,「子宮頸部レーザー円錐切除術の術前術後の医師のオーダーに差があるために逐次確認を要する場合があり,業務が円滑に進まないなどの問題を抱えていた」として,治療・看護を標準化し,記録の形式を決めるクリティカルパスウェイを導入し患者と共有することを試みた。その結果,「記録時間が短縮」「不必要な処置がなくなった」との改善がみられたことや,在院日数がこれまで3-8日とバラツキがあったのが,術後3日の退院が可能になったこと,保険点数に3500点の減少がみられたことを明らかにした。また,患者満足度からは「退院までのイメージがつかみやすかった」「術後から退院へ向けた達成感があった」「予定がわかり仕事や子育ての不安が解消された」などの評価があったことを報告した。
 高野智子氏(聖隷三方原病院)は,経皮的冠動脈形成術予定患者(24名中19例)を対象に,医師,看護婦,薬剤師などが共同でクリティカルパスを作成した経過や,バリアンスコードの決定,パス使用例からの検討などを報告。「1日ごとのパス用紙に,表面を医師が,裏面に看護記録を記載する方式としたが,簡潔な記録となり,入院から退院までの経過がわかりやすく,患者への経過説明にも有効であった」と評価した。

診療情報開示に向けて

 飯沼智恵氏(慶大病院)は,第三者が理解でき,開示できる情報の提示を目的とした看護記録のシステム化に取り組んだ過程を,(1)1562症例の看護上の問題点の表記の実態調査,(2)要因と看護介入の検討,(3)看護診断別新標準看護計画の作成に分けて報告した。また結果として新たに導き出された「看護ケアシステム」および「新標準看護計画(看護診断別標準看護計画)」についても概説し,注目を集めた。
 また,朝倉あつ子氏(滝川市立病院)は,「フォーカスチャーティングの利点が情報の開示に対して有効か」の視点での検討を報告。朝倉氏は,(1)記録するのにストレスがかからない,(2)記録が見やすい読みやすい,(3)看護展開の妥当性が評価できる,(4)看護問題だけでなく,患者の人間性,生活観,家族背景など,関心を持ったことおよびかかわった内容が素直に書ける,などをフォーカスチャーティングの利点にあげ,「これらの利点はそのまま患者,家族にとっても利点となる」として,「フォーカスチャーティングはカルテ開示に対しても有効」と述べた。
 座長を務めた山崎氏は最後に登壇。「看護記録は保助看法に定められた業務を実施するのみならず,その内容を深めそれを証明すべきもの。これにより,ケアの質を証明し,チームメンバーのケア内容を調整,さらに看護者と病院管理者に対する法的保護を行なう」と看護記録の役割について述べるとともに,「(1)事実に則した正確な記録,(2)記載時間の節約などのコスト削減が,現在の看護記録の課題。今後はこの2つの課題を解決しながら,インフォームドコンセントや診療情報開示に耐えうる看護記録の作成とそのシステム化が必要」と指摘。看護記録の整備,システム化に向けての長期展望としては,(1)法的位置づけ,(2)コスト,(3)専任者,(4)教育,研修をあげた。

大学病院の診療資料管理の現状

 なお,公募演題「大学病院の診療情報管理」のセッションでは,座長を務めた高田彰氏(筑波大)が「国立大学附属病院における診療資料管理の現状調査と今後の課題」を口演。筑波大病院医療情報部の問題として,「スタッフ(常勤4名以外外注)の不足。床荷重が許容量を2倍近くオーバーしているために,ひび割れ,沈下現象がみられる」ことを指摘しつつ,全国42国立大学附属病院における診療資料管理の現状と今後の課題をアンケート調査した結果(回答41病院)を報告した。
 それによると,診療録の保管場所の面積については,300-600m2が最も多く19病院で,1200m2以上あるのは新築となった東大病院および阪大病院の2病院であることを明らかにした。また,診療情報管理士または診療録管理士がいるかについては,「いる」が5病院,「いない」が36病院あったこと,診療録の保管年限については「永久保管」とする病院が圧倒的に多かった。さらに,管理に関する最大に問題点について(複数回答)は,「管理保管のスペース」をあげたのが34病院あったのをはじめ,「管理要員の確保」14件,「診療録管理に対する意識改革」15件,将来の診療録に関する検討内容について(複数回答)は,「電子カルテ・画像システム導入」を筆頭に,「年限を定めた廃棄」が続いた。