医学界新聞

 Nurse's Essay

 「読み書き算盤」と現代医療

 久保成子


 「読み書き算盤」。懐かしい言葉です。これが本来,私たちが生活していくうえでの基本的な学習の序列でした。しかし,「いつの間にか算盤がだんとつに抜きん出て優位な席を占め続け,その結果が今日の人心の渇き,社会の砂漠化模様をもたらした。“思いやり”への教育を真剣に考えるなら,この序列の本末転倒を正常な状態に戻すべき」と,O大学の教育学教授が先日TVで主張しておられました。
 読み書きは,「生活者として必要な緩やかな(他者への)理解力や想像力,情緒などを育み人間に潤いをもたらす。これらの教育は義務教育期間での中心教科。この教育を軽視して,子どもたちにボランティア活動をさせたりして“思いやり”を学ばせるなどとは……」と教授。
 「本当にまったく」と同感の私です。しかし,今や市場経済,科学技術全盛の時代。
 「“人は,パンのみにて生きるにあらず”の価値観を放棄しなければ,競争社会に生き残れない」と必死の世界があるのですから,算盤の優位,理数科系優先は必然です。
 医療は,この算盤勘定を前面に出すことは不謹慎といった価値観を,行なう側の理念としてきました。が,現在は少子・高齢社会=低成長経済,医療費削減と医療・福祉システムの改革……で,「競争」,「生き残り」など,かつて医療界で赤裸々には言われなかった言葉が飛び交っています。
 看護においてもこれは例外ではなく,「個々人が医療経済,看護経済の自覚なくして活動はできない」といった気運は日増しに高まり広まっていきました。訪問看護ステーションなどの運営なども始まっておりますから,当然のことなのでしょう。
 それでも,先の教授の主張は,大切な現代社会への提言だと思えます。特に医療,看護などの領域では,経済原理がそこに働くとはいえ,例えば,在院期間の短縮=1人当たりの医療費節減の仕組みが実施されてはいても,その間の医療・看護活動では,従来にも増して他者(対象)への理解・想像力などを駆使した,人間味豊かな援助が必要となります。
 大学入試科目に,理数系のみならず「読み書き」が重視される必要性があるのではないでしょうか。