医学界新聞

社会に貢献できる診療情報管理をめざして

第24回日本診療録管理学会開催


 第24回日本診療録管理学会が,さる9月3-4日の両日,浅井昌弘会長(慶大教授)のもと,東京・新宿区の日本青年館で開催された。「社会に貢献できる診療情報管理をめざして」をメインテーマに掲げた本学会では,会長講演をはじめ,精神科医であり作家のなだいなだ氏による特別講演「文学表現と記録-記録としての文学作品」,特別報告「日本の医療の基本的な構造とその意味-日本版DRGの調査・研究のデータ分析から」(国立肥前療養所 田原孝氏),メインテーマに則したシンポジウム「社会に貢献できる診療情報管理をめざして-社会から要望される診療情報管理とは」(司会=新潟市民病院名誉院長 木村明氏)などが企画。また,一般(公募)演題は6領域7セッションで51題が発表された。


開示には「心を傷つけない」配慮を

 「よりよい診療録のあり方をめぐって」と題し会長講演を行なった浅井氏は,「診療録は医療の基本的な記録であり,よりよい医療を行なうためにはよりよい診療録の作成と管理,運用が必要。チーム医療の時代においては,医師,看護職をはじめコメディカル,診療録管理士など種々の業務担当者が円滑に協力しあい,実際の医療を支えていくが,診療録はそれらの人々を緊密に結びつける橋渡し役」と診療録を位置づけた。その上で,よりよい診療録をめぐる問題について(1)作成,(2)管理,(3)運用・活用,(4)国際化・情報化への対応,(5)学会発表に分けて考察。(1)では,「看護記録との統合が重要課題」と指摘しつつ,「読める字による明確な記載を基本とし,専門用語,略語の使用に関しては誤解を生じない,理解できる記載が必要」と述べた。
 また,カルテ開示の法制化が検討されている中,特に浅井氏の専門である精神領域においては生活,学習,職業,婚姻など家族を含めたすべてを網羅する診療録の内容から,「本人および家族のプライバシー保護が問題になる」と指摘。「守秘義務を遵守すること。開示に際しては,本人をはじめ関係者の心を傷つけない配慮が必要」と強調し,「診療録のあり方については,非常に多様な事柄が関連しうるが,結局はよりよい医療が行なわれるように努力を重ねていくことが基本的には大切」とまとめた。

社会から要望される診療情報管理とは

 シンポジウムでは4人のシンポジストが登壇。まず最初に,大谷彰氏(総合病院国保旭中央病院)は,「診療録の取り組み-レセプト審査の立場から」を口演。(1)読みにくい字によるもの,(2)その病院でしか通用しない横文字,略語混じりのもの,(3)病名がない,もしくは転帰と判断されるにもかかわらず数年来同じ病名のままのもの,(4)経験年数の少ない医師を中心とした検査過剰のもの,(5)禁忌無視のものなどがレセプト上の問題と指摘した。また今後の診療録については,「略語のない,日本語による記載。一目でわかるカルテが理想」としながら,「患者および関係者とのやり取りは必ず記載すること」を強調した。
 郡司篤晃氏(聖学院大総合研究所教授)は,「パス法とわかりやすい診療録」を口演する中で,クリティカルパスを「医療チームで作りあげた患者に対する最良の管理だと信ずるところを示した仮説」と定義づけた。また,パス法の利点として,(1)資源節約,(2)医療の質,(3)患者満足度,(4)職務満足度,(5)自立性の向上,(6)システム化の視点から解説し,「患者にインフォームドコンセントを行ない,協力を得ること。医療関係者が疾病の経過を共通理解していること」を特徴にあげた。一方で,パス法の限界について,「(1)ルーチンケアが対象,(2)すべてのケースにあてはまるわけではない,(3)ハイボリューム,ハイリスクの疾患が対象で,大病院向き」と述べた。
 羽賀千栄子氏(羽賀法律事務所・弁護士)は,医療過誤訴訟を係争中という立場から「医療過誤訴訟におけるカルテの役割」を口演。「医師の過失行為と患者の利害の客観的事実確認のために診療録,レセプトなどは重要な証拠書類となる」としながら,診療録については「医師の身を守ることにもつながるため,第三者が判断でき,検証できるものでなくてはならず,略語のない日本語による書き方に加え,用紙や記載方式に統一があることが望ましい」と指摘した。
 最後の演者となった鳥飼将迪氏(ローレルインテリジェントシステムズ代表)は,1患者としての入院経験から「患者の祈り―安心と信頼の医療システムの構築を」を口演。携帯電話の電磁波による影響とみられる医療機器停止事故に対する恐怖感,検査データの行き違いや漏洩,プライバシー保護に対する不安を語るとともに,特に医療においては生命管理をも操作できることから,コンピュータハッカーに対する十分なセキュリティ対策の必要性を述べた。
 なお同学会に関しては,次号(2307号,看護版)で特別講演および看護の視点からの報告を,2309号では特別報告を中心に掲載する予定である。