医学界新聞

【座談会】

リサーチナースの現状と将来
日本における臨床試験とリサーチナース

 
斎藤裕子氏
(東京大学大学院・
医学系研究科)
 
桑島 巌氏
(東京都老人医療
センター・循環器科)
渡辺 亨氏
(司会/国立がんセンター
中央病院・内科)
福田治彦氏
(国立がんセンター研究所・
がん情報研究部)
新美三由紀氏
(国立がんセンター研究所・
がん情報研究部)


リサーチナースとは

リサーチナースの役割

渡辺 昨(1997)年4月に新GCP(医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令)が施行され,本年4月から完全実施となりました。その新GCPの中に,「治験協力者または市販後臨床試験協力者は,臨床試験の実務的な部分を担当する看護婦,薬剤師などの医療従事者」という一文があり,そのような役回りが正式に認められるようになりました。これはGCPが定着するという動きの中で歓迎すべきことですが,同時に臨床試験の空洞化が言われています。具体的には,いろいろな領域での臨床試験の実施が困難になってきて,日本の製薬企業は新しい薬を開発しても,臨床試験は海外で行なうという状況になってきています。
 そのような相反する2つの流れの中で,リサーチナース(一般的には臨床試験に関するコーディネートを行なう看護婦,以下Res.N)は今後どのような意味を持つのだろうか,などについて話を進めていきたいと思います。
 まず,Res.Nのアメリカでの現状をご覧になり,雑誌などに紹介をされました桑島先生から,Res.Nはどのような役回りなのかを説明いただけますでしょうか。
桑島 私は昨年の秋に,学会の合間でしたがアメリカのRes.Nの現状を見てきました。開業医と治験施設を兼ねている施設でのRes.Nと,自分自身で開業しておられるRes.N,大学病院でのRes.Nですが,そこで感じたのはRes.Nは必ずしも1つの決まった形態があるわけではなく,いろいろな形態があるということでした。それぞれが違った形態で治験に関わっている職業と定義できるかと思います。
 日本では,新薬の開発や販売後の試験は,すべて現場の若い医師が診療の片手間に行なってきたために,治験データそのものもかなりずさんなところがあったようです。しかし,アメリカではRes.Nが,患者さんのリクルートから研究費の話し合い,交渉,試験後の説明,インフォームドコンセント,加えて検査や次回の予約,データの管理,採血まで行なっています。
渡辺 「Res.Nとは何か」につきまして,新美さんからお話いただけますか。
新美 Res.Nというのは,「ナース」とついていますので,「看護婦」だけの仕事とみられていますが,実際には薬剤師を含めたコメディカルの人が,臨床試験の中で患者さんとやりとりをしているというのが現状です。医師だけで臨床試験を行なうにも限界がありますから,自然発生した役割だと考えることができます。看護職が,たまたまその役割に最も適していたために役を担い,名称がすべてを表すように使われていましたが,最近ではクリニカル・リサーチ・コーディネーター(CRC)と称されることが多くなってきています。
 ナースの立場から言わせていただくと,治験協力者として看護職が選ばれたことはとても嬉しいことですが,残念ながら日本の看護職はそれほど喜んでいないというのも現状です。リサーチというのはいわゆる研究ですから,患者さんを持たずに研究しかしない看護職というイメージが強いのかもしれません。

臨床試験の必要性

渡辺 新薬開発のための臨床試験を治験と呼ぶわけですが,福田先生,治験を含めて臨床試験はなぜ必要なのか,その中でRes.N,CRCはどのような役回りをしているのかにつきましてお話しいただけますか。
福田 日本ではいままで,実地診療の積み重ねで正しい治療がなされていく,あるいは評価されていくという考えがあったと思いますが,それは誤りだったとの指摘があります。要するに,臨床医の経験ですとか,勘といったもので治療が行なわれてきたわけですが,臨床試験という科学的データによる評価をしてみると,実は有効ではなく毒性のほうが強かったという事例が欧米から出されてきました。そのことから正しい治療を患者さんに提供するには,臨床試験を行ない,治療法の有効性,安全性を科学的に評価した上で進めていかなければいけないという形になり,臨床試験は絶対に必要なものであるという認識が欧米では当たり前になりました。日本が最も遅れているのはこの点かもしれません。
 また,臨床試験は患者さんのものであることが重要で,患者さんにメリットのない人体実験であってはならないことが前提です。その時に考えられる最も有望な治療法が比較,あるいは評価されるというのが臨床試験ですので,そこに参加される患者さんには,最もよい治療が提供されなければなりません。そして参加していただいた患者さんのデータをもとに正しい評価がなされ,次の世代の患者さんに最もよい治療が行なわれるということが大事な視点になると思います。したがいましてRes.NやCRCに現在のところ要求されているのは,患者さんに対するケアの部分と,それから正しいデータマネジメントになります。
渡辺 斎藤さんは実際にRes.Nとしてお仕事をされ始めたところだと思いますが,Res.Nの仕事として何が求められているのかは,どの程度わかっていましたか。
斎藤 臨床の場で実際に治験にかかわった経験は1,2度ほどしかありません。それもチームで取り組むというよりは医師と患者さんの間で話が進められているような状況で,その治験の内容について十分には理解していませんでした。ですから,治験や臨床試験の実際についてはほとんど知らないままに,Res.Nに何が求められているのかもよくわかっておりませんでした。
 ただ,私は臨床試験に限らず医療一般の場において,患者さんがよりよい医療を受けることができるよう,患者さんやご家族と医師やコメディカルの間のコーディネートを行なう専門職の必要性を感じておりました。もちろん看護職がその役割を担ってはいるのですが,日常業務に追われる中で,必ずしも十分に機能しているとは言えません。私は看護業務の中でも特にそのような仕事にやりがいを感じ,医療コーディネーターとして働くことができたらと考えておりました。
 Res.Nとして働くことになったのは,実は私のそういった気持ちとはまったく関係なく,本当に偶然なのですが,指導教官の大橋靖雄教授(東大医学系研究科 生物統計学)から,「治験コーディネーターという仕事があるがやってみないか」と紹介されたことがきっかけです。大学院では,患者さんが安心して安全に,かつ納得して医療を受けることができるような環境作りのための研究をしたいと考えていましたので,先生はそれを実践するためのコーディネーターの仕事が私に適していると判断してくださったのではないかと思います。
 CRCとして働くことが決まってから,癌のように標準的な治療法が十分には確立していない領域では特に,現在そして将来の患者さんによりよい医療を提供していくためには科学性の高い臨床試験を行ない,信頼性の高いデータを出すことが大切だということを実感し,CRCにはそのようなローカルデータマネジメントの面でも大きな役割を果たすことが期待されているということを理解しました。

欧米の違い

渡辺 たまたま踏み込んだ領域が結構深く,幅の広いものだったということかと思いますが,桑島先生もアメリカでのレポート(Medical Tribune,2月26日および3月5日号,「看護管理」8巻3号)の中で同じようなことを書かれていたかと思いますが。
桑島 アメリカでも,自分からRes.Nになりたいという人は少なくて,やはり医師から説得されてなったという人たちが多いようです。やはりそういう面でも自然発生的といえるでしょうね。
渡辺 福田先生は先日,EORTC(European Organaization for Reserch and Treatment of Cancer)を視察されてきましたが,ヨーロッパでのRes.Nの実情やトレーニング,またどのような背景の人がRes.Nになっているのかについてお話いただけますか。
福田 私がヨーロッパで会ったRes.Nから聞いたところでは,Res.NあるいはCRCとして仕事をしているのはほとんどが看護婦で,大部分が実際にその病院で働いていた看護婦だと聞きました。一般的には病院や大学が公募をし,それに興味を持った人たちがなるようです。もちろんバックグラウンドとしては,日常診療の中でいろいろな臨床試験や治験が行なわれていて,一般病棟外来の看護職を含め皆が情報を共有しています。その中で,科学的な評価をしているというところにひかれてRes.Nになるのだそうです。実際には自分から希望してなる看護職は5%以下ということですので,それほど多くありません。
 またその教育は,Res.Nとして雇われてからオンザジョブトレーニング(OJT)と,加えていろいろな機会を見つけては自分で勉強をしていく姿勢が大切だと聞きました。アメリカはたぶん教育システムがとても充実していると思うのですが,ヨーロッパはまだそれほど充実しているとは言えないようです。大学に育成のための講座もなく,学会レベルやEORTCのような癌の臨床研究機構がセミナーを持つというように,各機関がそれぞれ教育をしています。
桑島 それはアメリカでも同じです。系統的なプログラムはなく,各製薬メーカーが2-3週間のプログラムを設定して,そこに参加をするということでした。日本では学校教育などによってRes.Nを育成しようと考えている向きもあるようですが,実際的には,まず現場で実践的なRes.Nを作ることが大事なのではないでしょうか。
福田 全体としては,Res.N等の教育制度としてはまだこれからのようですね。
桑島 そうですね。またアメリカの臨床薬理学会でも制度はあるということですけれども,必ずしもそこに強制されるのではなく,民間の製薬会社のコースで研修してもよいということのようです。
新美 私もアメリカでSWOG(Southwest Oncology Group)というデータセンターに行ったことがあるのですが,NSABP(National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project)ですとかSWOGというところはちゃんとコースを持っていました。ただ,資格として取れるわけではありませんが,1週間や3日といったRes.Nの養成コースがあります。

リサーチナースの育成を考える

リサーチナースのトレーニング

渡辺 冒頭にも申し上げましたように,日本での臨床試験の空洞化,特に治験の空洞化を阻止しなければいけないという考えを私たちは持っています。それはRes.Nという職種が定着すればすべて解決できるものでもありません。やはり臨床試験自体の理解,臨床試験のメカニズムについて,医学教育でも欠如していることが多々あると思います。しかし,この件に関する考察は他の機会に譲るとして,Res.Nという職種が,これから伸びてこなければいけないということは共通しているかと思います。
 そこで,いくつかのトレーニングカリキュラム作成の動きですとか,臨床試験の実際の現場での人材養成も進んでいるかと思いますが,新美さん,JCOG(Japan Clinical Oncology Group;日本臨床腫瘍研究グループ)データセンターでのトレーニングについて話をしていただけますか。
新美 JCOGデータセンターは,自分で言うのもなんですが,日本の中ではある程度系統立てて,実践の中で臨床試験について学ぶことができる組織だと思っています。
 私の場合は,大学時代に治験事務局や登録オペレーターなどで経験を積み,セントラル・データマネジャーになったのですが,もしRes.Nとして仕事をするのであれば,こういうことが必要なのではという思いはあります。したがいまして,とりあえずは他で教えられないことを教えようと考えたのが第1です。
 その1つがOJTで,講義を聞いて覚えられる内容はなるべく省いて,データセンターでしか覚えられないトレーニングをしようと考えました。まずは臨床試験とは何か,それから臨床試験はどうして必要なのかについて,自分の言葉で答えられるようにすることを第1目標としました。
 そのためには,データがどのように動いているか,プロトコールはどのようにして作られているか,そこに医師がどうかかわり,治験と市販後臨床試験の間ではどのような違いがあって,どう役割分担をしているのかなども実際にみています。また,製薬企業の人たちとも一緒に勉強会をするというようにかかわりを持っています。また,特に渡辺先生のようなRes.Nに理解のある臨床の先生方ともコンタクトを持ち続けることによって,癌の臨床試験全体を理解した上で,仕事の中で「自分たちが何をしなければいけないのか」を考えられるようにするという意識で教えています。
 そういう思いがあってのトレーニングなので,あまりハウツートレーニングというのはしていませんね。むしろこういう場合にはこのような本を読むといいというようなアドバイスをしています。でも,日本にはほとんど臨床試験に関する本はありませんので,必然的にまず英語の本を読まなくちゃだめなんですね。「しょうがないから頑張って英語の本を読みましょう」という動機づけを行ないます。英語への苦手意識をまず取り除いて,少しでもいいから英語の本を読み進められるような環境を作っていくことにも力を入れています。また,Res.Nはこれまでになかった職業ですから,「あなたがパイオニア」という意識を持ってもらうことが必要です。
福田 OJTですから,まずやらせてみるんですね。間違っていたら,これはおかしいと気づきます。そこで,どこがおかしいか考えてみようということでしょうか。それだったら,この本を参考にしたらという形で,自分自身でとりあえず解決させてみて,それがほかの先生方にもご迷惑をかけない範囲であればできるだけやらせてみるということになります。

待遇とやりがい

渡辺 受託研究の中で,現在私たちは国立病院の医師基準に沿って治験を行なっているわけですけれど,雇用に際しては,謝金の名目で1日いくらということで払われています。そうすると,ボーナスもつかないし,保険もない,それから交通費も出ないし,昇給もないという状況で,基準が大学卒で一律で1日あたり8,300円。8,300円しかもらえないんだと思うと誰も来ないかもしれませんね。でも,国立病院の場合はそういう位置づけの中でまさにスタートしようとしているわけです。仕事自体はとてもおもしろいけれど,待遇の面がイマイチということですと,やはり定着はしないですよね。しかし,仕事としての重要性があって,これから定着させていかなければならないという大前提があるかと思います。待遇につきまして先生のお考えは。
桑島 アメリカの4人の看護婦さんに,Res.Nのやりがいは何かと聞いたところ「手厚い看護ができることがメリット」と必ず言うんですね。
 日本の場合ですと,例えば,病棟のナースは入院中の心不全の患者さんをケアすることはできます。しかし,退院されると外来の看護婦さんでも2-3か月に1回程度しか顔を合わせません。それでは経過などが把握できません。しかし,Res.Nにはそれが可能で,退院後のフォローもでき,患者さんと親密なかかわりが保てるというのです。それは患者さんのメリットでもあるわけですね。
 それから,医師も治験症例には特別な医療をしていると強調する人がいます。おそらく医療費ということも関係しているのだと思いますが,「治験医は有名な一流の医師だ」という考えがアメリカにはあるようです。ヨーロッパは,国民皆保険制度など日本と似ている部分もあるかと思いますが,そのあたりはいかがでしょうか。
福田 私が見てきたのはセントラルデータセンターが中心ですので,詳しい情報を持っているわけではありません。しかしヨーロッパでもRes.Nの人数が少ないですから,Res.Nになったからといって1人ひとりの患者さんに対して手厚いケアができるというわけではないと思います。アメリカで手厚い看護ができるというのは,治験にリクルートすることの単価が大きいからではないでしょうか。ですから,例えば10人の患者さんをコーディネートして,食べていけるというような条件であれば,給料は安いながらもRes.Nのケアの部分で喜びを感じてコーディネートをしているという状況で働いているのではないかと思います。ヨーロッパでもそのようなRes.Nとしてのライフスタイルがたぶんあるのだろうとは思いますが,よくはわかりません。
 日本ではどう考えるかですが,現在の治験は受託研究です。企業はもっと出してもいいと言っていますけれど,国立や公的な医療機関でRes.Nを雇って,患者さんのコーディネートをさせていくとすると上限を決められてしまいます。そうすると,少なくとも公的な医療機関でやっていくからには,まず単価といいますか,報酬の部分が大きく変わらなければ,優秀な人材は集まりにくく,結果的にきちんと機能するRes.Nは育っていかないと思います。
渡辺 斎藤さん,やりがいという話ではいかがでしょうか。
斎藤 今後Res.Nの需要が高まり,看護職がどんどん進出していくことのできる分野であるとは思いますが,看護職が行なう以上は,やはり看護の専門性を生かすことのできる仕事でなくては,やりたいと思う人は増えないのではないでしょうか。
 患者さんとの接点を十分に持つことのできる仕事であれば,給料は第2の問題になってくるのではないかと思います。
渡辺 基本的にはそうだと思いますね。お金が第1目的でやっているわけではありませんが,一般的な話としてそれなりの待遇ですとか立場も大きな要素だと思います。
桑島 アメリカでは,職場でのRes.Nの地位は結構高いと言っていましたね。これは大学の病院での話ですが,彼らはよく勉強もしているわけです。薬の知識がありますし,文献も数多く読んでいます。一目おかれていると言っていました。

リサーチナースの適正は

渡辺 桑島先生は,どのような人がRes.Nに適しているとお考えですか。
桑島 患者さんと1対1で付き合うわけですから,看護のクオリティはやさしさにあるのではないでしょうか。それに加えてアカデミックな勉強ができる。この2点が大事だと思います。それから,3点目としては几帳面であるということ。これはデータを扱うという意味からです。
新美 EORTCのガイドブック(EORTCのホームページ:http://www.eortc.beからダウンロード可能)がありまして,私の一番のテキストともいえるのですが,この中に「Res.Nの必要な条件」が書いてあります。印象的だったのは,「英語が正しく話せて,正しく書ける人」とあることです。要するに,コミュニケーションがうまくとれる人ということなのですが,これはそのまま日本語に置き換えることができます。要するに,プロトコールがきちんと読めて,それが自分の言葉で表現でき,正しくコミュニケーションがとれる技術を持っている人,ということになります。
桑島 患者さんとの信頼関係をずっと続けることが大事になるわけですね。
新美 それも患者さんだけではなく,科学的な部分も含めて書かれているのだと思います。科学的な考え方となりますと,やはり看護職には苦手なのかもしれません。特にトレーニングが必要ですし,Res.Nの立場を得たからもう勉強をしなくてもいいという問題ではなく,そこからが勉強の始まりです。その部分が実はとても難しいと思うのですが,それをしているからこそ,アメリカのRes.Nが尊敬されているのではないでしょうか。
桑島 デンバーで会ったRes.Nは独立しているのですが,クリスマスパーティーに自分の患者さんを呼ぶそうです。患者さんとの接触に気を配っているというか,そういうところもあるようです。ですから,その人が転勤すると患者も移動してくるというんですね。わざわざ治験に飛行機に乗って来る人もいるそうです。

リサーチナースのこれから

チームワークによる連携

渡辺 本年2月6-7日に東大で行なわれました「第10回日本臨床腫瘍研究会」(本紙,3月2日付2279号および3月30日付2283号参照)の際に,私が「おやっ?」と思ったのは,ある看護婦さんが「臨床試験が非倫理的に行なわれており,私たちは横暴な医師から患者さんを守るためにリサーチに参画しています」といった主旨の発言をされたことです。そういう視点が強調されると,ちょっと違った方向になってしまうのでは,という気がしますが,いかがお考えでしょうか。
新美 臨床試験というのは,目の前の患者さんも守るけれども,将来の患者さんへも恩恵をもたらすものなのだと,看護職が理解できてくればいいのでしょうが,まだ目の前の自分の患者さんだけを守ろうという感情が強いのかもしれません。
福田 横暴な医師から守るというのは,現状でもある側面では正しいと思いますよ。
渡辺 一面としてはありますね。臨床試験というのは,従来は,医師が個人プレーでやってきたわけですけれども,これからはやっぱりチームで臨んでいくものです。複数の人間がかかわることにより,客観性,透明性が保たれるということは,すなわち科学性の維持ということになりますし,また倫理性を保つ意味でも,やはり複数の異なった職種の人が協調して行なうという形でないと,いいものにはなりません。そこに視点を置いてほしいと思いますね。
 確かに,いままでのやり方は医師が勝手に,インフォームドコンセントも倫理観もなしに行なっていたとも言えます。そういうところからRes.Nが参画して,チームで臨床試験を行なう方向で動き出したということは,これは非常にすばらしいことだと思います。福田先生の言われましたことはいままでのこととして,これからは是正されるのでしょうね。

リサーチナースの実際

桑島 癌の場合ですが,最近は告知をすることも多いと思います。その時にRes.Nは人生観についての相談も受けるのではないですか。特に治験で抗癌剤を使ったりする時などは,どう対処されるのですか。
新美 確かに相談は受けると思いますが,それはRes.Nだけでなく,がん専門看護師(オンコロジーナース)の役割でもありますね。
渡辺 その場合に,Res.Nは「それは私の管轄ではない」とは言い切れませんね。しかし,臨床のチームの中には,オンコロジーナースがいますし,サイコオンコロジストという精神腫瘍学専門の先生もおりますので,役割を回すことができます。
斎藤 オンコロジーナースは日本にはまだ少ないので,私の勤めていた病院にはいなかったと思います。しかし,最近はプライマリナーシングの体制をとっている病院が増えてきています。1人の患者さんに対して主治医がいるのと同じように,その患者を担当する看護婦がおりますので,Res.Nはプライマリナースと連携をとり,チームとして取り組んでいくのがよいのではないでしょうか。
新美 看護職も,どういう役割でその患者さんと触れ合えばいいのだろうかと考えていると思います。その1つの表現形がオンコロジーナースであり,Res.Nです。その意味で,Res.Nは臨床試験の専門の看護婦ということになります。
渡辺 臨床試験はこれからチームで取り組んでいくべきということが,これまでのお話の中から確認ができたと思います。しかし,Res.Nの問題を議論する前の段階として,われわれ臨床研究者は,臨床試験の重要性を十分に理解して実践していなければいけないと思います。また,それを実践する上でRes.Nは不可欠ということです。当然私たちは,臨床試験の実践に努力をしていますし,そういうものを広げることに努力をしなければいけないという思いがあります。その上でよりよい臨床試験を実践するために,Res.Nがどんどん参画してこなければ,日本の臨床試験はますます空洞化してしまいかねません。
福田 いままでの,いわゆる片手間の臨床試験というのでは,患者さんあるいは国民の皆さんに貢献ができないことは明らかです。また,医師だけが思っていてもだめですから,パートナーとして別の職種の人に参入してもらい,チームとして実践していかなければならない時代になってきました。
渡辺 そうですね。それは時代の要請であるということですね。

資格について

福田 資格化の問題ですが,日本は欧米とは逆向きに,「資格」そのものが先行しようとしている気がします。例えば10年以上の臨床経験があって,一定期間の研修を受ければ資格が得られるというようにですが。しかし資格取得を目的とするものではない養成が必要だと思います。
桑島 養成コースを計画しているところもあるようですね。例えば東京女子医大などではプログラムが進んでいるようです。
福田 それぞれの医療機関が個別に育成しようというよりは,いくつかの施設でまとまった研修を行なったほうが効率的でしょうね。実際,そういう形でいくつか計画されています。ただし,現在計画されているものは,私の知るかぎり「資格先にありき」という雰囲気があって懐疑的です。資格なんて先に作らずに,それぞれが養成プログラムを作成し,他の施設は優秀なRes.Nを育てた施設のやり方を見習えばいいんです。少なくとも,アメリカやヨーロッパにもない「Res.Nの資格」から作ろうとするから間違っていると思います。
新美 資格というのは,例えば,ある一定よりも低い人を排除することはできますけれど,本当にやる気のある人を排除してしまうというマイナス点もありますね。ですから,治験コーディネーターの研修の参加条件として,10年以上の勤務といった制約をつけようとする向きもありますが,そういう規制を設けるのではなく,実際に斎藤さんのように若くてやる気のある人を拾うようにすべきで,規制を設けることを危惧します。もっと自由であってもいいと思いますね。私たちがほしいのは資格ではないですし,下手に規制を強くしてほしくないというのが希望です。
渡辺 おっしゃるように,これまで臨床試験も知らずにきた中堅の看護婦さんが,「これから新たに臨床試験について学びます」では,戦力にはなりにくいですね。最初の時にロジカルマインドとか,臨床試験に対する考え方を持っていればまだしもですが,無理があるような気がします。
福田 大事なのは長い臨床経験ではなくて,欧米でも言われていますのが,ロジカルマインドです。つまり論理的に物事を考える能力がいちばん大事だと言っています。それはRes.Nだけじゃなくてデータマネジャーについても同じです。それがあれば,みんなOJTでやっていくのですから,実際の患者さんのコーディネートの仕方などは自分で考え,あるいはほかのところから吸収しながら考えていける人間が必要なのであって,必ずしも長い臨床経験を必要としているのではないということは理解いただきたいですね。
渡辺 これからのRes.Nの育成についてのとても重要な指摘かと思います。本日はどうもありがとうございました。