医学界新聞

脳性麻痺とリハビリテーション医療

「日本リハビリテーション学会」パネルより


 さる5月28-30日の3日間,青森市で開催された第35回日本リハビリテーション医学会(会長=弘前大教授 福田道隆氏)のプログラムの1つとして,「脳性麻痺治療におけるリハビリテーション(以下,リハ)医療の位置づけ」をテーマとしたパネルディスカッション(座長=長崎大 穐山富太郎氏,弘前大 中村隆一氏)が企画された。同パネルでは,胎児期から新生児期,小児療育期から就労までの問題などについて,小児科,療育分野からのパネラー5名が,それぞれの立場から意見を述べた。

胎児期から新生児期の問題

 「胎児期から乳幼児期の問題と予後」を口演した竹下研三氏(鳥取大)は,「30年前の肢体不自由児施設に入所していた脳性麻痺児と,今日の脳性麻痺と診断されている児の心身機能は大きく異なる」とし,「今日の脳性麻痺児の50%が,未熟児(超低体重出生児)脳障害児であり,重度・重複化した精神遅滞,視聴覚障害,奇形,呼吸・消化器症状などが特徴」と指摘。また,障害の内容が複雑ながら個人機能としては軽度であるものの,集団適応となると困難な児も少なくなく,「児を支える家族の背景も児の能力に微妙な影響を与えている」と家族の対応が重要な鍵になること述べた。
 司会も務めた穐山氏は,「新生児期の脳性麻痺の諸マーカーと超早期療育」と題し意見発表。新生児期の評価方法であるプラゼルトン新生児行動(NBAS)による新生児期諸行動と脳性麻痺児の行動について,(1)相互作用,(2)運動,(3)状態,(4)自律神経の4つの系から比較。NBASによるリスクマーカーとして,(1)4つの行動系およびその組織化過程において問題がある,(2)適応障害によるストレス行動がみられるなどをあげる一方,早期介入・療育の目的としては,(1)新生児と両親の相互作用の援助,(2)新生児行動の組織化(発達の援助),(3)発達促進などを指摘。また,急性期のリハ医の役割として,NICUへの主体的かかわりや,家族を1つの単位とするアプローチ(家族にはっきりと状態を説明し,治療に入る)などをあげた。

小児期から成人へ

 「早期療育から障害を見通した長期療育へ」を論じた北原估氏(北九州総合療育センター)は,「脳の発育異常や損傷の結果としての運動障害は,成長・発達の過程で身体的・心理的・社会的などでの2次障害をもたらす。すなわち,身体所見での拘縮・変形,運動発達の遅れ,課題遂行上での失敗経験の繰り返し,親子関係での親の過保護,課題要求等が起こりやすく,その結果運動障害を重度化させている」と指摘。また,歩行を困難とする場合には「多様な移動手段の導入が早期から検討されるべき」との考えを示すとともに,「脳性麻痺者が自立した生活をするためには,コミュニケーションの可否が重要。それには早期からの準備が必要であり,リハ医療には2次障害の予防とともに,年齢や発達レベルに応じた生活の充実のための関与が求められている」と述べた。
 飛松好子氏(国立リハセンター病院)は,「脳性麻痺者の就労に関する個体要因」を発表。国立リハセンター更生訓練所に入所したADL自立の脳性麻痺者を対象に,学歴と就労などとの関係を分析。その結果,小・中学校とも普通学校卒のほうが,養護学校卒よりは優位に就労率が高く(85%),高校では,普通・養護とも差はなかった(76%,78%)と報告した。また,調査の結果「ADLが自立し,小学校5年生以上の算数レベル,普通小卒,歩行自立が就労した脳性麻痺者に多かった。このことから,就労をめざす脳性麻痺者の療育には,これらを獲得目標とすることが望まれる」との期待を述べた。
 最後に脳科学から脳性麻痺者の療育を検討した鈴木恒彦氏(ボバーズ記念病院)は,「近年の脳科学の進歩から導かれる脳性麻痺療育の考え方」を口演。「脳性麻痺の臨床像である運動発達の遅れと異常徴候の発現は,生成途中にある神経回路網の発達障害の結果生じた運動出力の側面であり,感覚入力が本来のプログラムに沿った情報処理能力を有していない可能性を推測させる」との考えを示した。その上で,「最近の脳科学の考え方に立てば,神経回路網の特定機能の臨界期から考えられる治療の限界を十分踏まえた上で,脳性麻痺療育は新生児期から乳児期の環境設定における感覚入力の与え方,幼児期から学童期の育児,整形外科処置とセラピー等の治療的介入の方向性が見出せる」と示唆した。
 総合ディスカッションの場でも,今後の脳性麻痺児の療育のあり方への期待と展望などが語られた。