医学界新聞

脳卒中の予防と患者・家族の支援をめざして-日本脳卒中協会設立1周年記念

「脳卒中市民シンポジウム」が開かれる


 わが国において脳卒中は,死亡原因の第2位,死亡総数の2割弱,また入院受療率も高く,入院原因の第2位を占め,長い間国民病と呼ばれている。
 このような状況を背景に,「日本脳卒中協会」は“脳卒中患者とその家族,脳卒中に関与する医療,福祉,行政関係者および一般市民に呼びかける”ことを目的にして昨年3月に設立されたが,その設立1周年を記念した「脳卒中市民シンポジウム」がさる6月20日,東京の東商ホールにおいて開催された。
 同協会はその設立趣旨で,脳卒中の急性期を生き延びることができても,患者とその家族は運動麻痺や失語症などの後遺症によって生活の質(Quality of Life)が低下し,社会的ハンディキャップを負うことになること,寝たきり老人の約4割は脳卒中が原因で,医療費の1割弱が脳卒中に費やされているという現実,さらには訪問看護利用者の約4割が脳卒中患者であることから,「脳卒中という病気が社会に与える影響が甚大である」と強調。今回の市民シンポジウムはその事業目的にある「脳卒中の予防ならびに発症時の対応に関する知識の普及と開発」および「脳卒中患者の自立を支援する」ことを目的に開催された。

「私の脳卒中体験」

 シンポジウムでは,亀山正邦会長(住友病院長)の開会挨拶に続いて,小林完吾氏(元日本テレビ・現フリーアナウンサー)が自身の脳卒中体験を1時間にわたって口演した。
 幸いなことに発症当時,意識が清明であったため,自らが置かれた事態,また客観的な状況を冷静に把握することが可能だった小林氏は,まず懇意にしている医師に受療を希望するために,救急車の中で救急隊員が心証を害さないように細心の配慮を払って依頼したことを述懐。また,搬送時やその後の医師の対応によって一喜一憂せざるを得ない患者の気持ち,手術時の恐怖と不安などを,時にユーモアを交えて,患者およびその家族である聴衆を励ました。
 そして一方では,次演者席に控えている医療従事者に対して,おそらくは医療者側からは見えにくいであろう患者自身の心の揺らぎを訴えた。特に小林氏は,リハビリテーションに際しての苦痛と孤独にさいなまされた苦悩を強調し,患者の精神的自立を促すとともに,患者側から見たリハビリテーション医学に対する現状の不満と将来への期待を指摘した。
 ちなみに小林氏は,先頃厚生省に設置された「脳卒中対策に関する検討会」(座長=国立循環器病センター病院長・山口武典氏)のメンバーでもある。

予防,治療,リハビリテーション

 次いで内山真一郎氏(東女医大・神経内科)は,前記山口武典氏が編集した『脳卒中ことはじめ』(医学書院刊)を教材にして,「脳卒中の予防と治療」をわかりやすく解説した。まず内山氏は,同書から脳卒中の分類をスライドで示し(参照),TIA(一過性脳虚血発作),脳梗塞,脳出血,くも膜下出血,アテローム血栓性梗塞,心原性塞栓症,ラクナ梗塞の概念と症状を概説。次いで,脳卒中の危険因子および治療を再びスライドで図示した。また,千野直一氏(慶大・リハビリ科)は「脳卒中のリハビリテーション」と題して,リハビリ医の立場から「急性期」および「慢性期」のリハビリテーションを簡潔に説明した。

「現在の脳卒中診療の問題点」

 パネルディスカッション「現在の脳卒中診療の問題点」(司会=内山真一郎氏)では,(1)高木誠氏(済生会中央病院・神経内科),(2)早川功氏(川崎市立井田病院・神経内科),(3)杉本啓子氏(国立循環器病センター・聴能言語士),(4)高橋輝雄氏(東京都リハビリテーション学院・理学療法士),(5)中村春基氏(兵庫県立総合リハビリテーション・作業療法士)の5氏がパネリストとして登壇した。そして,それぞれの専門分野の立場から脳卒中診療の克服すべき問題点が指摘されたが,その中で中村氏は,他のパネリストと同様に脳卒中診療におけるチームワークの重要性とともに,医療従事者は患者サイドからの情報提供を欲していることを強く訴えた。

“早く治療すれば効果がある!”というキャンペーンを

 シンポジウムは,同協会副会長の山口武典氏の挨拶を最後に閉会された。
 なお山口氏は,本紙第2294号掲載の鼎談「ブレインアタックと“脳卒中学”」で,「発症後3時間以内の脳梗塞であれば経静脈的に血栓溶解薬t-PAを使用することが有効である」とアメリカのFDA(食品医薬品局)で認可されたことを指摘しているが,同協会の会報「JSA News」第2号でも同様の指摘をした後,「発症3時間以内であれば治る望みがあるにもかかわらず,5時間,10時間,あるいは20時間も経ってからやっと病院に来る患者さんがたくさんおられます。(中略)脳卒中も“早く治療すれば効果があるのだ”ということを,まだ脳卒中にかかっていない一般の皆様に広くキャンペーンしていきたい」と強調している。