医学界新聞

 シドニー発 最新看護便
 オーストラリアでの高齢者対策[第6回]

 活躍する看護婦たち

 瀬間あずさ(Nichigo Health Resources)


 今回も高齢者対策から少し離れ,筆者が在住するニューサウスウェールズ州(以下NSW州)で看護婦たちがかかわる看護団体について触れてみたい。

「看護婦は魅力的な職業」のキャンペーン

 毎年決まった頃に,NSW州看護婦登録所(Nurses Registration Board)から登録更新の手紙が届く。NSW州で看護婦として働くためには,看護婦登録所に登録し,毎年32ドル(日本円換算,約2,720円)を払い更新しなければならない。
 NSW州看護協会(NSW Nurses Association)は日本看護協会とは異なる職能組合で,任意で加入ができ,会員費用は換算すると年間236ドル(日本円換算,約2万円)となる。この組合は,看護婦の労働条件の向上を図り,また裁判などで不当に訴えられた場合にはバックアップもしてくれる。豪州内の他の職能組合と同じように,アワード(Award;労働裁定)を明確にして,看護婦の職場を守るのに一役も二役もかっている。また毎月,「Lump」という機関紙を発行し,各組合のメンバーの自宅に配布している。筆者を含めて,同僚も会員であることを最大限に生かし,よく協会に連絡し,電話1本で労働条件などに関する質問(例えば産休や病欠など)に答えてくれるのでとても便利である。
 NSW州保健省看護部(Nursing Branch of the NSW Health Department)は,行政と公立,民間,大学部門の看護婦たちの接点となり,看護方針に関する問題などアドバイスを行ない,プロモーションや調査活動なども実施している。数年前には,看護婦がいかに魅力的な職業かを一般にPRしたことがあった。そのタイトルは,「Nurses, We can't live without them;看護婦なしでは生きられない」と銘打ち,キャンペーンを行なった。ちょっと日本では気恥ずかしくて唄えないキャンペーンタイトルだが,多くの看護婦がこのタイトルのシールを車に貼り,看護婦であることを宣伝した。

海外からの受講者も多い卒後教育コース

 その次はNSW州カレッジオブナーシング(NSW College of Nursing)。この団体は,約50年の歴史のある非営利看護教育団体で,昔は豪州看護婦は英国まで出向いて看護教育を受けていたが,この学校が設立されてからは豪州内で教育を受けられるようになった。大学教育が導入される前は,この学校が癌看護専門看護婦などの専門看護婦コースを主に提供していた。現在は看護教育は大学制度に移行したため,その役割を変えたが,看護大学を卒業後,看護婦たちがもっと臨床にそった内容を深めたいと思った時に,この学校の卒後教育コースを受講している。
 コースは1日から1年間まで,バラエティに富んでいる。分野は,(1)高齢者ケア,(2)在宅家族精神衛生,(3)クリティカルケア,(4)管理,(5)内科外科専門,(6)癌&緩和ケア,(7)手術看護などに分かれ,例えば(2)の分野では避妊-今何が新しいか?(1日)とか,(4)の分野では質の管理(3日間),(5)の分野では喘息管理-成人から小児まで(1日),Wound Management(2日間),感染管理(5日間)という具合に多岐にわたり選択できる。
 英語ができれば日本人看護婦でも参加できるとのこと。すでにシンガポールから看護婦が訪れ,オーストラリアの看護婦たちに加わりコースを受講しているそうだ。1-3日くらいのコースに参加し,どのくらい英語での看護講義についていけるか力試しをしてもよいと思う。日本語の通訳をつけて受講した場合でもWelcomeだそうだ。費用は,非会員の場合,1日85ドル(日本円換算,7,225円)。半年ごとにコース予定表を発表している。
 この学校は,海外看護婦免許保有者が,こちらで登録看護婦の免許を獲得したい場合,必ずお世話になる団体でもある。ただ,その門は永住権保有者のみに開かれている。そういう意味では,まだ豪州はアメリカのCGFNSのように,その看護試験に合格し,雇用主がみつかれば職業ビザがもらえるところまで熟していない。今のところ,需要に対し供給がまかなわれている状態だから,わざわざ外国から看護婦を呼び込む必要はないわけである。海外看護婦免許保有者のための現地資格修得コースは約3か月。6週間の講義後,筆記試験を受験,合格した者のみが4週間の病棟での臨床実習に参加でき,1人前と認められたら正看護婦になれるが,落ちれば再挑戦はできず,大学へ通い看護婦の資格を得るしか道はない。

オーストラリアの看護の将来

 最後に,この学校の管理者の1人のジャン・アンドリュー氏に,今後,豪州で正看護婦はどのようなことを担っていくのか尋ねた。
 「世界は急激に変化しており,豪州では21世紀を迎える頃には60%の外科的手術は日帰りとなるだろうし,それに伴い在宅ケアが進み,いろいろなケアモデルが生まれてくるだろう。正看護婦は在宅でケースマネジャーとして,実際のケアは他のケアスタッフに振り分け,管理監督する業務につくようになっていくだろう。臨床において,正看護婦には的確な判断,問題解決ができ,計画立案,実施が確実に実行につながらなければ准看護婦や他のテクニシャンが取って代わるようになるだろう。またより看護婦に対し責任が問われるようになるだろう」と語った。
 日本でも,公的介護保険導入後,看護婦もケアマネジャーとして大いに活躍されると期待しているが,その点においては,日豪両国の看護婦の課題は共通するものがありそうだ。