医学界新聞

地域看護学の体系化に向けて

第1回日本地域看護学会が開かれる


 「地域看護活動の基盤になる理論や方法の確立および発展のために地域看護関係者が研究成果や情報を交換できる場」として,昨年10月に設立された日本地域看護学会の第1回学術集会(会長=東大教授 金川克子氏)が,東京・駒場の東京大学教養学部を会場に開催された。なお同学会では,地域看護を「公衆衛生看護,在宅看護,産業看護,学校保健を包含したもの」と広くとらえることとし,「地域看護学の学術的発展と教育・普及を図り,人々の健康と福祉に貢献する」ことを目的に据えている。
 本学会では,「地域看護学のストラテジー」をメインテーマに掲げ,午前中に「地域連携」,「訪問看護」,「地域保健活動」などの分野に分かれての口演・ポスターによる67題の一般演題発表が行なわれた。また午後からは,総会に引き続き会長講演やシンポジウムの他,公募演題によるミニシンポジウム(1)保健・福祉行政の領域(座長=長野県立看護大 北山三津子氏,埼玉県健康福祉部 倉持一江氏),(2)在宅ケアの領域(座長=千葉大博士課程 上野まり氏,東医歯大 亀井智子氏),(3)教育の領域(座長=鎌ヶ谷市役所 福留浩子氏,千葉大 宮崎美砂子氏)が企画された。


地域看護学のストラテジー

 同学会の理事長でもある金川氏は,「地域看護学はコミュニティに基盤を置いている人々を対象に,それらの人々の生活の健康レベルやQOLの向上に寄与する科学であり,そのためのストラテジーを確立していくことが重要」として,会長講演「地域看護学のストラテジー」を行なった。
 講演の中で金川氏は,看護学の1領域である地域看護学を「個人や家族,特定集団より構成されている地域全体を視野に置き,各々のセルフケア能力の向上,家族・地域の力量を高めるようなコミュニティケアをめざすところに特徴がある」と定義づけ,公衆衛生看護,在宅看護,産業看護,学校保健の4領域の発展と連携をめざす応用性の高い科学と位置づけた。
 また金川氏は,地域看護学はハイリスクにある家族や地域の集団を対象としたものととらえ,地域看護診断のモデルを提示。そのアセスメントコアを「分析→地域看護診断→計画→介入→1,2,3次予防→評価」として,それぞれについて解説を加えた。さらに脳卒中既往者,独居高齢者,在宅介護高齢者など,対象の特性に応じたサービスプログラム計画から,個人の健康とQOLの向上に結びつける方略とその評価について述べ,結果を保健行政にフィードバックし,コミュニティケアへつなげる必要性を説き,「在宅看護へ向けたサービスプログラムを開発してほしい」と述べた。

地域看護学研究のあり方を論議

 村島幸代氏(東大)が座長を務めたシンポジウム「実践活動の向上と体系化を促す地域看護学研究のあり方」では,地域看護の4領域(公衆衛生看護,在宅看護,産業看護,学校保健)から演者が登壇。本シンポジウムの目的について村島氏は,「地域看護学の特徴から,(1)個別支援のあり方とその研究方法論,(2)個人と家族・集団との関係性を明確にし,支援方法を選択する方法論の研究,(3)対象集団・組織・地域に対する診断論,方法論,(4)集団や地域のあり方に影響を及ぼす政策形成論の4つの研究テーマが考えられる。これらに基づく実践例から,参加者とともに各分野の共通的特徴を明確にし,実践活動の向上と体系化を促す地域看護学研究のあり方を検討したい」と述べ,各演者の実践例を基に,共通点を見出し体系化への足がかりとする試みが行なわれた。

実践の積み上げを政策への働きかけに

 公衆衛生看護の領域からは,北尾玲子氏(神奈川県国保連)が「個別活動から組織活動に発展させる支援方法」と題し口演。「公衆衛生の理念を基礎とし,個別のケースワークから出発して地域全体の問題を捉え,その中から必要な対策を先駆的な活動により問題解決をしていく姿勢で現場に臨んでいた」と述べ,神奈川県下で実施している「在宅療養者訪問看護事業(全年齢対象)」を基にした「在宅ケアにおける感染予防体制確立に関する調査研究」からの報告を行なった。
 北尾氏は,在宅での医療機器装着者のMRSAを主とする感染5事例を提示し,予防策の検証から訪問看護事業関連の感染症予防体制づくりに至った経過を解説。その上で,地域保健の戦略のポイントとして(1)個別事例への支援,(2)調整・ネットワーク化,(3)システム化((1),(2)の統合の促進と制御主体の明確化)をあげた。
 在宅看護の分野から,川越博美氏(聖路加看護大)は「看護実践から生まれる在宅看護研究」と題し,(1)「匠の業」を分析し,普遍化する訪問看護プログラムの開発,(2)個別ケアで重要な関係性の研究,(3)学術的なチームメンバーが協働できる在宅ケアシステムの構築,(4)訪問看護ステーションの自立と政策への働きかけの4視点からの研究課題について述べた。特に(1)においては,訪問看護婦が行なうケア技術を「匠の業」ととらえ,「質の高い看護サービス技術を,一緒にいて盗み学ぶことから,普遍化へつなげるプログラムの開発が必要」と研究テーマにあげた。また,介護職,ヘルパーとの学際的なチームワーク作りを強調するとともに,(4)に関しては,「在宅での看護の拠点は訪問看護ステーション。地域の中で看護婦が自立して看護サービスを提供し,事業を展開できるよう制度的にも確立させる必要がある。そのためにもステーションのレベルをあげ,研究実績をもって政策に働きかける必要がある」と述べ,「データを積み上げ,現場が分析し,働きかければ行政は変わる」と,川越氏らがこれまでに行なってきた厚生省への働きかけなどを報告した。

優れた実践はそのまま研究になる

 産業看護の領域から加藤登紀子氏(産業医大)は,人間工学をベースとしたアプローチを活用する支援方法を模索する「職場集団が快適に働ける健康支援方法」を発表。「職場はチームワークが基本」としながら,1人部屋および2人部屋,間仕切りや体面式デスクなどでの作業効率などを検討した結果を報告し,「労働および労働生活に密着したケア,快適空間での健康づくりが重要になる」と指摘した。
 天野敦子氏(愛知教育大)は,学校保健の立場から,養護教諭との長年の側面的な関わりによる経験から「養護教諭の実践と研究」を報告。不登校生徒と養護教諭との関わりの経過を語る中から,学校保健研究をどのように認識すべきかを論じた。天野氏は,その経験から養護教諭間での相談,同僚によるサポートの重要性を指摘し,「現場の教諭へのアドバイス,また教諭からのフィードバックが学生指導につながる」と述べるともに,「優れた実践はそのまま研究にまとめることが可能。その研究成果は次の実践へと結びつき,校内体制などの諸問題の改善へとつながる」と示唆した。