医学界新聞

医師のためのクリティカル・パス

湧田幸雄(済生会山口総合病院管理部長・脳神経外科部長)


はじめに

 1980年代,米国での診断群別包括支払方式(DRG/PPS the Diagnostic Related Groupings/Prospective Payment System)の導入による医療経済改革に対して,医療経営を内部から支えたクリティカル・パスが日本に紹介され,徐々に使用されつつある。しかし,日本と米国との医療機構の相違,患者・家族の入院に対する考え方の違い,医療関係者間の意識の違いなどから必ずしも順調に受け入れられているとは言いがたい。特に日本でのクリティカル・パスの導入が,ケア介入を中心に看護部門から始まったために,医師や病院管理部門にはその主旨が十分に理解されていない面がある。一部では,それが単なる医療経営上のマネジメントツールのように考えられている感もある。
 一方,医師にはより高度な診断能力,医学知識,治療経験を求められているにもかかわらず,同一の医療機関で同一の疾患を扱う場合でも,医師の間にかなりの能力差があることも事実である。こうした医師間の医療内容を平均化することも,クリティカル・パスを利用することで解決される。クリティカル・パスは,医療経営に寄与するだけでなく,医師や看護婦にとって医療の質を向上させ,高いレベルで均質な医療を提供し,効率をあげることができる。
 今回,脳卒中クリティカル・パスを作成・使用した経験から,現状でクリティカル・パスを作成,実施する際に,特に医師が留意すべきいくつかの点について述べてみたい。

脳卒中クリティカル・パス(軽症型)の開発

導入の経緯

 1994(平成6)年,院内の長期入院患者を調査したところ,3か月以上の長期入院は310床に対して68人(22%)を占めており,1年以上の在院も14人いた。脳神経外科病棟には3か月以上の長期入院患者は20人,病棟の42.6%を占めており,長期入院患者で最も多かったのは脳卒中患者であった。慢性的なベッド不足による救急患者の受け入れにも支障が出ていた。
 同年9月,院内に退院調整専門看護婦を独立したセクションとして設置して,訪問看護ステーション,在宅介護支援センターなどの福祉サービスと連携し,長期入院患者の円滑退院に向けた取り組みを開始した。退院調整専門看護婦は,主治医の依頼を受けて退院困難な患者や家族と面談を行ない,在宅,転院のマネジメントを実施することでかなりの効果をあげることができた。
 しかし,主治医が入院当初は退院調整を不必要と考えていたり,脳卒中の治療,後遺症のリハビリテーションに対する考え方の差によって,退院調整から漏れたさまざまな長期在院患者が残るようになった。同程度の重症度の脳卒中患者で主治医別の在院日数を3か月間調査した結果,平均在院日数が短い医師で22日,長い医師では67日と差が出た。すなわちこうした医師間の考え方の相違も,長期在院患者が残る大きな原因の1つとなっていた。
 長期在院患者の予備軍になることが予測される脳卒中患者のうち,介助を要する後遺障害を残し,さらに治療やリハビリなどが余儀なくされ,ついには寝たきりのまま死亡に至る脳卒中患者は24.5%である。また,脳卒中によって後遺障害が残った患者では,退院後の職場復帰,在宅支援,転院などを視野に入れた,トータルなメディカルケアマネジメントを行なうことによって種々の問題を解決し,在院期間を短縮することが必要であった。 一方,山口地域はリハビリテーション専門病院,老人健康施設,長期療養型病床群も少なく,転院の際の入院待機が長くなる傾向がみられた。すなわち,脳卒中患者で入院が長期化しやすい原因には,(1)医師による検査,治療が一定していない,(2)看護婦の適切なアセスメントがなく,計画的なケアが行なわれない,(3)リハビリテーションが早期に開始されていない,(4)予後が明確にされないため,患者側が退院に対して十分な準備ができない,(5)退院後の患者側の事情が複雑なことなどが考えられた。
 以上の点から,脳神経外科病棟で脳卒中患者の適切な入院治療を目的として,脳卒中クリティカル・パスを作成し,実施した。

作成から実施へ

 軽症脳卒中の治療経過から,急性期治療に2週間,リハビリテーションに2週間の計4週間を適当な入院期間と想定した。一方,脳神経外科病棟47床,1997年の月平均新入院患者数は51.5人から,効率的在院日数は27.4日であった。しかし,3か月以上の長期入院患者が5人いたので,実病床数は47-5=42床に減り,24.5日の平均在院日数を保つと病床利用率を下げず経営上効率的であると考えた。また,入院時医学管理料の点からも3-4週間の入院期間が望ましく,そこで入院期間3-4週間の「脳卒中クリティカル・パス」を作成した。
 作成にあたっては,チーム医療を円滑に行なうため,次の4要素を基礎とした。第1は,医師全員が実施要綱に従って早期にCTスキャン,MRI,DSAを検査し確定診断を行ない,早期治療,早期リハビリを開始すること。第2は看護婦が従来の看護内容を再検討し,アセスメントを脳卒中発症後の各時期ごとに,コミュニケーション,酸素投与,排尿,嚥下,神経症状,うつ状態,日常生活動作,家族の8種類のアセスメントに整理し,介入・ケアを計画的に実施すること。第3は発症数日以内に治療と並行して理学療法士による早期リハビリテーションを実施し,運動機能の予後予測を行ない,患者の年齢,筋力,理解力,意欲などを加味し今後のリハビリテーションの阻害因子を明確にすること。第4が最も重要な点で,チーム医療の中心となるカンファレンスを毎週開催し,そこで全患者について検討することである。カンファレンスの出席者は部長,主治医,婦長,主任,看護婦リーダー(2名),理学療法室長,退院調整専門看護婦長とした。
 主治医は,病状説明と治療の進行状況を,看護婦は患者の現時点での問題点と家族のかかわりについて,理学療法士はリハビリテーションの状態と機能予後の見通しを,退院調整専門看護婦は退院や転院に対する問題点をそれぞれの立場から発言し,治療計画と退院計画を検討する。その協議の結果を,患者家族に医師が説明し,引き続いて看護婦が補足説明を行ない,希望によっては退院調整専門看護婦が同時に,あるいは個別に患者や家族の相談に乗り,その結果を次回のカンファレンスに報告し,必要があれば軌道修正を行ない患者,家族ともに満足してもらえる退院を計画する。

結果とその効果

 脳卒中クリティカル・パスの実施によって,軽症の脳卒中という同一疾患群に対して同一の検査や治療が計画的に行なわれ,診断の遅れ,治療の不均一化が防げる点で,医療の質が平均化した。また,看護の介入に漏れがなく,早期リハビリが順調に行なわれ,患者や家族の希望に沿った退院ができるようになった。一方,医師は繰り返し同じ指示を確認する必要がなくなり,医療以外のことで退院,転院に関して悩まされることが少なくなったが,時にはかなり早期から後遺症の残ることなどを説明しなければならないなど,つらい点も出てきた。
 全体としては予後予測を早く知らせることで,家族の対応も早くなり,結果として予定された退院期日を達成,入院日数を短縮することができた。看護婦は医師の指示を,ほとんどのことが医師と看護婦間の取り決め(クリティカル・パスの決定事項)で進められるようになり,業務が効率化した。ただし,新たに作成したアセスメントを看護婦全員に理解してもらい,実施する段階で,アセスメントをより簡略化したほうがよいことも指摘された。
 在院日数,病床利用に関しては,脳卒中クリティカル・パスの導入前の1996年の平均月在院日数51.6日に対して,パス導入後の1997年7月から12月の6か月平均月在院日数は28日,病床利用率は91.9%で,十分にその目的を達成している。また,在院1か月以上の入院患者は,同年12月の時点で5人と10.6%に減少した。リハビリテーションの開始時期は,平均4.7日目となり,以前は,入院7日目はまだベッド上全介助35%,坐位保持40%であったのが,導入後は,0%,36.4%に減少した。
 また,日常の看護行為の中で,車椅子に移動しての食事,洗面所での整容や,ポータブル便器使用による排泄自立訓練など,積極的な日常生活動作のリハビリテーションを取り入れることによって廃用症候群を防止し,日常生活動作を拡大することが可能となった。その結果,以前は入院30日後に補助具歩行10%,独歩30%に止まっていたのが,導入後には補助具歩行18.2%,独歩54.5%になり,立位保持可能,自力での車椅子移動動作ができる患者がほとんどとなった。
 その他看護婦は,家族アセスメントを行ない,早期から在宅を念頭に置いた家族介入を実施,早期外泊訓練計画も立案可能となった。また,外泊アンケートを使用し,実際の家庭生活で困難な点をチェックし,重点的に訓練するとともに,社会資源利用の申し込み,補助具の購入,家屋の改造等も早期に着手することができた。外泊訓練に不安がみられる場合は,平日の午後に看護婦同伴で自宅へ外出し,在宅が可能か否かの判断も行なった。 現実には,障害の程度・家庭環境により30日では家庭・社会復帰が困難なケースがあったが,原因が明確であれば退院調整看護婦による後方施設の選択・交渉・連絡・調整により,長期療養型施設への転院をすすめたり,機能レベルの上昇が期待できるケースでは,将来の社会復帰,在宅を目的としてリハビリテーション専門病院への転院を計画した。
 脳卒中クリティカル・パスをただ実施するのではなく,毎週行なわれるカンファレンスを通じて,患者が治療のどの時期にいるのかを確認し,介入しなければならないケア,リハビリテーションの見通しも明確になり,結果として医療者全員が各部署の計画を熟知し,患者に接することが可能になったため,患者を全人的に診ていくことができるようになった。

クリティカル・パスの作成

効率的な治療計画に向けて

 クリティカル・パスは,すべての疾患,すべての患者に適用するものではなく,入院経過がほぼ同様な疾患で60-70%程度の患者の使用を目的とするため,同一疾患でも重症度が大きく異なれば,別のクリティカル・パスを作成する必要がある。クリティカル・パスを実施中に継続が困難となった場合はバリアンスとして個別に対応したり,別のクリティカル・パスを使用する。
 クリティカル・パスを実行するためにはチーム医療が不可欠なために,作成する時から,その疾患の検査,治療などに関わる重要な職種とは検討会を行ない,お互いの意図するところを理解し,有機的なかかわりを密にしておく必要がある。通常,クリティカル・パスを作成する疾患の選択は,医師と看護婦の間で協議し,重症度の一定したある特定の疾患を選択する。
 その疾患の検査・治療にかかわる医師全員が納得できる検査,治療内容を経過を追って日ごと,あるいは病期ごとに決定する。するとその疾患で通常必要な在院期間が決まってくる。これを時間軸,すなわち治療期間とし,各日ごとに,あるいは病期ごとに,必要かつ十分な検査項目,治療内容を検討する。こうして,医療内容が決定されれば,この時間軸に沿って看護部門が同様に看護内容を盛り込んだケア内容を決定する。必要であれば独自のアセスメントを作成し,効率化と精度の向上をめざす。そしてこの医療計画を実行するための院内の医療システムの変更,コメディカルの協力を要請する。こうして作成されたクリティカル・パスには,一部の医師の独善的な,独りよがりの医療や,医師の治療計画から離れた看護介入などはなくなり,効率的な治療計画を行なうことが可能となる。

在院日数の設定

 クリティカル・パスは,在院日数に対して医療内容をいかに効率的に行なうか,という問いへの1つの答えである。米国では,特に急性期病院において,在院日数の短縮が収入増に直結している。しかし,それによって医療・ケア内容の質が低下すれば,その病院は利用されなくなり経営は行き詰まることになる。そこですべての患者にいかにして質の高い医療・ケアを提供し,在院日数の短縮を図るかが検討され,その結果がクリティカル・パスの導入と考えることができる。
 一方日本の保険制度においては,医療行為に対して国の定めた保険点数によって報酬を受け取ることになっている。すなわち,医療・ケア内容が悪くてもそれなりの収入が保証されていた。
 ところが,保険制度は徐々に急性期の高医療密度型病院,亜急性期の中間医療密度型病院,慢性期の低医療密度型病院に分化する保険点数の配分へと変化しはじめた。必要以上の在院日数の短縮は,医療・ケア内容の無理な実施を強いるばかりか,病床利用率を低下させ,経営を悪化させる。したがって,すべての病院で単に医療・ケア内容を高密度化し在院日数を短縮することは収入を増やすことにはならない。
 まず各病院の背景となる医療圏での病院機能を明確にし,病院の機能分化がなされていなければならない。その上で,病院機能にあった適切な医療と在院日数の調整を行ない,検討結果としてのクリティカル・パスを,各々の病院の機能に応じて作成する必要がある。
 クリティカル・パスは,基本的には急性期病院のような,在院日数を短期間に設定できる入院施設を目的としたものである。しかし,在院日数に余裕を持たせることで,ある程度長期入院施設でも実施可能である。その1例として,急性期入院型のような短い在院日数(数日から1-2週間)で確実に退院可能な患者の入院,主として内科的な検査や治療,術式の決まった経過のよい外科系手術などのケースがあげられよう。この場合は,現在実施している検査,治療,ケア内容を整理し,日数ごとに効率的に整理するだけで,容易にクリティカル・パスを作成することができる。
 次は日本に多い急性期から亜急性期の入院機能を目的とする病院での比較的長い在院日数(数週から1-2か月間)の場合が考えられる。治療期間が決めにくい疾患,慢性疾患の急性増悪などが対象で,1か月程度の治療期間の場合は,在院日数を設定したクリティカル・パスが作成可能である。また,1-2か月の場合は,各病期の日数を厳しく決定してしまうと,回復期間が一定していないために,はずれるケース(バリアンス)が多くなるので,日数は特に規定せず,各病期の医学的基準のみを設定し,その病期の検査,治療,ケア内容を整理し,それをクリアすると次の病期に進み退院に近づくように計画するほうが無理がない。在院日数を決めず病期を区切って入院計画を進める方法は,従来のクリティカル・パスとは違い,慢性期型施設でも導入可能だが,未だ実施された報告はない。

効率的在院日数とは

 例えば,各々の病院あるいは各科での,100%病床を利用した場合の在院日数,すなわち,効率的在院日数は,実病床数×30日/月平均新入院患者数によって求めることができる。これは,効率的在院日数は新入院患者数と実際に入院可能な実病床数によって決定される。50床の病棟で,月平均新入院患者数が50人であれば,効率的在院日数は50日となる。しかし,1か月以上の入院患者が10人いると,実病床数は50-10=40床に減少し,平均在院日数を24日に短縮すると病床利用率を下げないので経営上効率的だといえる。もし,1か月以上の長期入院患者が0で,平均在院日数を15日にできたとすると,約100人の月平均新入院患者数の受け入れが可能となり,平均在院日数15日が効率的在院日数となる。しかし,新入院患者数が減少すると,空床ができてしまうことになる。

クリティカル・パス実施時の注意点

 重要な点は,医師が中心になって各スタッフの意見を調整し,同時に各々の職務の自立性を尊重して,チーム医療をまとめていくことである。そのために,クリティカル・パスの実施にあたっては関係者によるカンファレンスを定期的に行ない,各スタッフの意見を聞くことが重要となるが,その結果として,多面的に患者をみることが可能となる。
 また,カンファレンスにおいてパスに対しても意見を聞き,より効率的で使やすいクリティカル・パスに改変していくことも必要である。よく医師が多忙なため,定期的なカンファレンスが困難であるとの理由から,単にクリティカル・パスを看護を中心としたケアの実施のみに使用している場合があるが,これではチーム医療とはいえず,医師と他の職種間の意見交換はなくパスを使用する意味は半減する。一方,毎週のカンファレンスによって,各々の患者がいつ退院となるのか,何週先の退院見込みなのか,が正確に把握できることで,入院状況に応じて多少退院を早めたり,といった病棟単位での在院管理を同時に行なうことも可能となるのである。

医師の片腕となるクリティカル・パス

高い次元での平均的な医療

 元来日本では「医は仁術」といわれ,医師は医療行為に対して報酬を求めないことが美徳とされてきた。逆に医師は,医療経済的な制約を受けずに,医学的知識・経験に基づいてまったく自由に医療行為を行ない得ることが当然の権利であり,かつ,患者を治療する上でも絶対に必要なことだと考えられてきた。
 しかし,現在の医療現場では医療システムは複雑化し,個々の医師は自らの経験に基づいて努力しているにもかかわらず,理想的な診断・治療を実施することは,きわめて困難で,各々の検査・治療はスケジュール通り実行できず,入院期間にも影響を及ぼしている。それによって,看護婦やコメディカルのかかわりも個々の医師の計画に対応しなければならない。
 すなわち,入院治療を受けようとした時,医療の質や在院期間は,入院する病院の医療システムや,主治医となる1人の医師の経験,知識,治療に対する考え方に大きく左右されてしまう。しかし,ほぼ同様の経過をとる疾患に対して,多数の医師が同意した一定の治療計画が作成できれば,それに対して看護計画を立てることができ,コメディカルのかかわりも計画的となる。その結果ある程度医療システムを変更することも可能となり,高い次元で平均化された医療をより効率的に行なうことも可能となる。この医師の治療計画,看護婦のケア計画,コメディカルの介入などを整理したものが,クリティカル・パスである。

チーム医療がめざすもの

 計画的に退院を設定することも困難なことが多い。特に,後遺症を残した患者,高齢者に対して医師は,退院をうまくリードすることができるであろうか。本院内のアンケート調査で,13%の医師は,「退院について話し難い患者がいる,」と回答し,30%の医師は入院時に退院の時期を明確に説明しておらず,入院1か月後でも22%は話していなかった。20%の医師が65歳以上の高齢者に対しては症状が安定していても退院が困難と考えており,その理由として「全員が在宅での生活に不安がある」ことを指摘していた。一方で,再発の恐れや,合併症など医学的な理由はなかった。
 現在医師に求められている資質は,豊富な経験,最新の医学知識,優れた検査・手術手技はもちろんのこと,インフォームドコンセントに含まれる十分な医療内容の説明など,実に多様で,以前よりはずっと重い責任と多くの義務を負っており,患者の疾患を治療すると同時に,全人的に患者の治療後に対しても大きな影響力を持つことになる。このように患者の健康に関わるすべてのことに,果たして十分な時間が割けるであろうか。もし時間的に可能であっても,1人の医師の経験で,解決できる問題であろうか。きわめて困難なことと考えざるを得ない。同様のことは,看護婦にとっても要求されている。
 こうした問題を,医師,看護婦,理学療法士,ケースワーカーなどの各職種がチームとして解決にあたることができれば,医師にとっては大変有力な味方となる。クリティカル・パスによって医師の治療計画,看護婦のケア計画,コメディカルの介入などを相互に結びつけ,お互いの情報を交換することによって,医師は患者の在院を計画的に行ない,患者の満足する在院から退院までを実行できることになる。チーム医療,患者の情報の共有化がまさしくクリティカル・パスの骨子であるから,何よりも,医師はチームリーダーとして患者の情報をスタッフと共有し,スタッフの意見を尊重する態度が必要である。

おわりに

 現在入院医療に求められているものは,的確で無駄のない検査・治療とともに,患者が満足する退院と,退院後の安心できる医療・福祉システムへの移行である。医師はこのすべてに主導権を発揮しなければならない立場に置かれている。
 しかし,医療経済的な制約はもとより,多様化する患者,家族のニーズに十分応えるためには,とても医師個人の力の及ばないところまできている。入院医療を効率化し,より質の高い医療をめざすために,クリティカル・パスは医師の片腕となってくれるであろう。
 その基本となるものはチーム医療の考えである。医師がリーダーとなり,看護婦,コメディカルとも情報を共有し,患者が満足する入院医療を行ない,退院後の生活までを約束する。そのためには看護部門を始めコメディカルの協力は必要不可欠であり,病院の検査体制など医療システムの改変も必要な場合がある。また,クリティカル・パスを作成する際には,医療機関の属する医療圏での,病院の機能を考慮して作成することが重要となる。クリティカル・パスによって,安定した医療が多くの患者に行なわれ,無駄のない医療,無理のない在院が実現することを期待している。