医学界新聞

第11回日本サイコオンコロジー学会開催

がん患者の長期生存に伴う新たな課題と対策を検討


 さる5月28-29日の両日,東京・中央区の国際研究交流会館(国立がんセンター内)において,第11回日本サイコオンコロジー学会が開催された。本学会では2題の特別講演をはじめ,教育講演2題,一般演題34題,シンポジウム「がんの再発・転移・多重がんの現状と諸問題」,ワークショップ「遺伝カウンセリング」が行なわれ,「学会の巨大化を避け,安い参加費で内容のある学会をめざしたい」という平賀一陽当番世話人(国立がんセンター中央病院手術部長)の言葉どおり,フロアとの一体感のある学会となった。本紙では,28日の丸田俊彦氏(メイヨ・クリニック精神科)による特別講演(写真)を紹介し,29日のシンポジウムとワークショップに触れる。

痛みのマネジメント

 「がん患者の痛みと心」について丸田俊彦氏は,25年の臨床経験から,「医療の理想的なモデルは,患者に活力を与え,主体的な行動の手助けをすることだ」と指摘。技術面では“姑息から緩和”への移行をあげ,「痛みを取り除くのではなく,痛みに適応させ,活動の動機になるような“痛みのマネジメント”を実行すれば,結果的に投薬量が減り,その治療は成功したことになる」と語り,情緒面では「医師の行動が患者との絆に敏感に反映し,コミュニケーションを通じて互助につながることを,医師側がもっと意識すべきだ」と強調した。

がんと長くつきあう

 翌日のシンポジウム「がんの再発・転移・多重がんの現状と諸問題」(司会=埼玉県立南高等看護学院 渡辺孝子氏,国立がんセンター東病院 志真泰夫氏)では,長期のがん治療を継続している患者の心理・社会的問題を明らかにし,その対応策を検討した。まず,8回ものがん手術を経験した平石實氏(脚本家,筆名=津田幸於)は,発症からこれまでの苦悩を語り,がんへの恐怖と孤独の中にいる患者の心理を訴えた。そして,「インフォームドコンセントを行なう医師の言動や態度が真摯かどうかが大切」と述べた。
 続いて臨床医の立場から近藤晴彦氏(国立がんセンター中央病院)が発言。がん患者の長期生存が可能になるにつれ,多重がんの他臓器での発生も多くなったが,一方で,医師の専門分化が進んだために「他臓器における第2がんの発見が遅れる可能性が大きくなった」と指摘した。  また,看護の立場からは季羽倭文子氏(ホスピスケア研究会)が発言。長期生存患者の増加に伴い,患者と家族の問題も変わり,「看護の立場も新たな対応を求められている」とした上で,長期的な治療・看護計画と,在宅生活が可能な患者へのサポート体制の必要性を説いた。
 最後に発言した明智龍男氏(国立がんセンター研)は,「再発後のがん患者の精神的負担は非常に大きい」という調査結果を示し,「患者をしっかりと支えられる医療者を育成し,グループ療法をはじめとする精神負担への対応が必要だ」と述べた。
 各シンポジストとも,長期生存が可能になったことによる精神的なケアのさらなる必要性と,その対応の困難さを訴えたが,一方で,適切なサポートによるQOL改善の可能性も示した。

「遺伝性ゆえの問題」と今後の展望

 ワークショップ「遺伝カウンセリング」(司会=国立がんセンター東病院 吉田茂昭氏,国立がんセンター研 内富庸介氏)では,(1)日本における医師と患者の情報交換能力の欠如,(2)説明後に起こる不安への対処,(3)看護婦の遺伝に関する知識不足,(4)検査前のカウンセリングの重要性,(5)他の親族や子どもへの対処等に関して話し合われ,司会の吉田氏は「がんの専門医なら遺伝に精通する必要がある。また,院外での相談といった,きめの細かい介入も必要になってきた」と,これからの遺伝カウンセリングの1つの方向を示した。
 本学会では,新たな局面を迎え,解決への具体的な第1歩を踏み出したと言える。今後は,ガイドライン作成や技術者育成などの技術水準の改善とともに,医療者側の人間性の質の向上も必要となるだろう。