医学界新聞

《看護版特別編集》

第13回NANDA総会(25周年記念大会)報告


新分類法(タクソノミ II)原案が公表に

木村 義(NEC文教システム事業部)
Eメールアドレス:kimura@elsd.ho.nec.co.jp


 第13回NANDA(北米看護診断協会)総会が,さる4月22-26日の5日間,アメリカのセントルイスで開催された。隔年ごとに開催される本総会は今年で25周年を迎えたが,主催者側も今年の大会を25周年記念大会と位置づけ,さまざまなセレモニーやイベントを盛り込みながら盛大に行なわれた。速報として「看護学雑誌」(医学書院)7月号に報告したのですでに読まれた方も多いことだろうが,今回はできるだけ重複を避け,第13回NANDA総会の詳しい報告をする。


25年目の総括の中から

参加者

 主催者側が提示した参加者登録名簿によれば,今回の参加者は約260名であったが,日本からの参加者は22名であった(表1)。また,参加国は表2に示す通り12か国で,日本からの参加者数はアメリカについで2番目に多かった。前回参加していたアジアのメンバーが来場していなかったのは残念ではあったが,国際色に富んだ参加者である。メンバー委員会の報告によれば現在のNANDAの登録会員は460名である。25周年の記念大会ということで,筆者も参加者の増加を見込んでいたが,前回(第12回大会:ピッツバーグ)が約300名であったのに比して,若干少なめであった。

表1 日本からの参加者内訳 表2 国別参加者数
所属所属
阪大3三育学院短大1
福井医大2東京衛生病院1
川崎市立看護短大2医学書院2
東海大1照林社2
神戸市看護大1NEC6
長野県看護大1合計22
 
参加国参加国
米国192英国4
日本22フランス3
オランダ11スウェーデン2
ブラジル10オーストリア1
スペイン7スロベニア1
カナダ6アイスランド1
  合計260
  注)米国参加者は大会事務局の人数も含む

教育セッション

 4月22日に行なわれたのは,プレコンファレンスと呼ばれる教育セッションで,今回は下記の3つのセッションが開催された。これは事前の申込者に限られた有償のクローズド・セッションで,参加費は半日コースで60ドル,1日コースで110ドルであった。
●診断/治療と倫理的理由(1日コース)
 講師:ゴードン&マーフィー
●診断の評価法(半日コース,午前)
 講師:エイバント&マース
●先進的な実践と看護診断の使用(半日コース,午後)
 講師:カルペニート&ラビン
 また,この他に招待されたエキスパートとボランティアによる既存診断ラベルの見直しが,作業班の手によって終日行なわれた。事前通知ではラベルの見直しは10個となっていたが,当時発表では6個であった。これは10個のうち4個はすでに終わっているのか,断念したのかはわからない。
 なお,この通知は短時間の貼り出しだったのですべては覚えていないが,「家族介護者の役割緊張」と「家族介護者の役割緊張のリスク状態」,「レイプ―心的外傷シンドローム:複合反応」と「レイプ―心的外傷シンドローム:沈黙反応」,さらに「不安」と「恐怖」であったと記憶している。これらの結果は本年末に発行される新しいマニュアルに反映されるはずである。この作業班の仕事とDRC(診断審議委員会)の関係については,残念ながら取材はできなかった。
 筆者は,上記のセッションのうち「診断の評価法」(Diagnostic Validation Methods)に参加し衝撃的な体験をした。タイトルから,診断行為そのものの妥当性を評価する方法が教授されるのかと思ったのだが,なんと診断ラベルの定義や診断指標の妥当性を評価する教育セッションだった。一通りの講義の後,参加者を3つのグループに分けて,各グループごとにテーマである「ラベル」を与えて,そのラベルを看護診断ラベルとして定義するためにはどのような診断指標をあげ,かつどのような定義にしたらよいかを討議するのである。3つのうちの1つは失念してしまったが,「Work」ともう1つは「Person」であった。筆者は「Work」のグループになったが,アイスランド,ブラジル,日本,アメリカ,カナダの8名で討議した。
 最初は何から話してよいか皆が戸惑ったが,私が口火を切って「診断指標には時間や種類,危険性といったものがあげられないか」と言ったところ,とたんに否定された。つまり,それは修飾語(qualifier)であって現象や状況を示す言葉ではないというのだ。確かにその通りである。“仕事”というものを特定できる指標を見つけることは大変難しいということがわかった。しばらく討議した後,“仕事”とは「何かを生産することである」という結論に達した。
 したがって診断指標も生産につながる状況表現がふさわしいとなり,実際に何かの物体を生産するばかりでなく,俳優や歌手のように人を楽しませたり喜ばせたりすることも,人の心の中に喜びや楽しさを作り出すという点で生産であるとされた。「そうなると診断指標はたくさんあるね」という話になったが,各グループを巡回していた新しくNANDAの次期会長に選出されたケイ・エイバント氏は「哲学的な意味を考えよ」と指示した。しばらく討議を聞いた後,私たちの進むべき方向が誤っていないことを告げて,他のグループへと向かって行った。約20分間の討議は講義を挟んで2度行なわれ,最後に発表に至った。
 この教育セッションで得たことは,通常使用している看護診断ラベルも,作成する側に立って解釈すればもっと現実に近づけるという点と,審査する側も膨大な労力を費やしてレビューしていることを痛感させられた点である。今ある分類と定義は25年の年月が必要であったことを今さらながら再確認できた。

歴史を辿る

 本大会では,プログラムの3分の1が25周年記念のセレモニーとなった。その1つとして第1回大会からの歴史を振り返りながら,25年の歴史を辿る発表が,下記の通り各セッションの合間に行なわれた。参加者たちは,それらの話に懐かしそうに聞き入ったり,当時の写真などが紹介されると,若かった研究者たちの姿に笑い,隣同士でうなずきながら話を交わしていた。
●第1回と第2回大会
 「われわれのはじめたことと挑戦」(クリスティン・ゲビー&メアリー・アン・ラビン)
●第3回と第4回大会
 「一里塚と転換点:看護理論家と看護臨床家との間で統合化された視界」(フィリス・クリティック)
●第5回大会 マージョリー・ゴードン
●第6回と第7回大会とカルガリー大会
 「科学的な実践への入り口:門の守護神であるヤヌスの視界」(ウィニフレッド・ミルズ)
●第8回と第9回大会
 「タクソノミ(分類法)のビジョンを作成することによって,理論と実践のリンク(結びつけ)を進める」
●第10回と第11回大会
 「看護診断を用いる専門的実践の先進的な方向への船出」(ロイス・ホスキンス)
(カッコ内は演者)。

NANDA基金

 また,NANDAは今総会で,創立25周年を記念し「NANDA基金」を設立し,看護診断の研究者を支援すると宣言した。NANDAはこれまで「非営利団体」としてきたため,運営は会員の会費と総会での展示収入およびオークションでの収入費だけで行なってきた。しかし,実情は2年ごとの大会を主催し,会誌の発行と各委員会の運営費に回すだけで手いっぱいであった。そこで1992年から『看護診断と分類』を出版し,その収益も活動資金に組み入れられるようになったが,それほど利益にはつながらなかった。今回基金を設立した背景には,NANDAの組織とは切り離し独立の機関を設けることによって,献金に伴う税負担の優遇措置(免税)を受けられるようにし,看護診断の研究者を育て,普及を図る目的がある。今回,特に設立を記念して,25年間を通してNANDAを引っ張ってきた14名を表彰した。表彰を受けた人々を列挙する(順不問,敬称略)。
 1)ウィニフレッド・ミルズ
 2)ハリエット・ワーリー
 3)マージョリー・ゴードン
 4)オードリー・マクレーン
 5)アン・マッコート
 6)リンダ・カルペニート
 7)ジョアン・ジェニー
 8)ケネス・シアンフラニ
 9)ノーマ・ラング
10)ヒルデガルト・ペプロウ
11)ペギー・メマート
12)ルシル・ジョエル
13)メアリー・アン・ラビン
14)クリスティン・ゲビー

新たな方向性を求めて

看護診断の国際普及

 看護診断は米国に始まり,カナダを巻き込みNANDAとして組織されたが,一部の会員からINDA(国際看護診断協会)と名前を変えたらどうかと提案されるほど,今回も12か国からの参加者が一堂に会す国際色豊かな集まりとなった。名前の変更は否決されたが,25周年を記念して国際普及に貢献した方々の表彰があった。
 その中には速報でも記したが,日本からは松木光子氏(福井医大教授)が表彰された。松木氏は,日本看護診断学会の現理事長であり,看護診断研究会の創設に携わり,学会にまで育て上げた貢献者である。また,1500名弱の会員を擁する世界最大の看護診断研究組織の先導者でもあることは言うまでもない。また,松木氏はNANDA国際委員会からも表彰された。これらの表彰に,筆者は看護診断の研究者の1人として大変うれしくもあり感動した。

NIC/NOC/NDECの行方

 本紙第2283号(本年3月30日付)で報告したように,アイオワ大学が開発したNIC(看護介入分類)とNOC(看護成果分類/患者目標分類)が,NANDAと連携しNANDA,NIC&NOC大会として昨年11月に第1回大会をシカゴで開催した。今回のNANDA総会でも,この連携についての報告があり,看護診断の臨床での使用を促進することになるだろうと宣言していた。NICもNOCもNANDAの看護診断ラベルとの関連を巻末に載せており,看護診断が決定されれば,いくつかの患者目標と看護介入の候補が選択肢として示されているので,各施設ごとの標準看護計画の作成に大変参考になるだろう。
 ただし,両書ともそれぞれの翻訳権を持つ出版社により現在翻訳中であるものの,市場に正規の翻訳書が出ていないこともあって,一部の施設では独自に翻訳して使用し始めているところもあるようだ。しかしながら,研究目的は別として,看護の共通言語としての位置づけからも独自の翻訳は避けるべきである。筆者ももどかしく感じているのだが,早期の日本語による出版を強く願っている者の1人である。
 アイオワ大学教授でNIC/NOCのまとめ役でもあるマクロスキー氏に確認したところでは,紙による使用は自由だが情報機器へインストールして使用する場合は,有償であるとのこと。使用する施設の規模(ナース数,患者数,ベッド数等)によって使用料が決まるそうだ。日本においては,翻訳権を取得した出版社が交渉権を持っており,施設からの申し出に応じて権利執行窓口であるモスビー社と個別に契約することになる。その際,米国での使用料に比してかなり高額になることは間違いないと思われる。ただし,看護の共通言語としての普及が目的なので,何らかの手段が講じられることになろう。筆者も使用権獲得に積極的に関わりたく思っている。
 さらに,NDEC(看護診断拡張分類)という名前を知っている方も多いことと思う。前回,第12回NANDA総会において紹介され,発表者のパワフルさに衝撃を受けた参加者も多かった。看護診断ラベルがなかなか増えないのに対して,彼らは既存の看護診断ラベルの定義や診断指標を,独自に修正し提示,これから新たなラベルに対しても同様のレビューを行なうとともに,さらに新たな診断ラベルの開発に勢力的に取り組むと宣言していたからである。
 当時,筆者も衝撃を受けアイオワ大学のメンバーを中心として開発されたNDECがNANDAを乗っ取ってしまうのではないかと真剣に思ってしまったほどである。しかし,NDECはNANDAがアイオワ大学に委嘱したプロジェクトだったことが今総会において明らかにされた。当時からすでに知っていた参加者もいたようだが,発表された時の会場のざわめきは異常とも言えた。これは,インターネットのホームページにも明確に記されているので,間違いはない。今後,NDECへ委嘱したプロジェクトはすべてNANDAに吸収され,発行される書物に反映されることとなる。

タクソノミⅡ新原案

 タクソノミ(分類法)Ⅱの新原案(表3)が発表された。今までの分類法(タクソノミⅠ)は表4に示すような,人間の反応パターンというカテゴリーに分類されていた。この分類法によると,交換というカテゴリーに生理学的要素の強い診断ラベルが集中してしまい,他のカテゴリーに比して偏りが生ずる。
 生理学が看護にとって重要な学問であることは間違いないが,医学と異なり生理学と直接的に関わるより,むしろ現象面からのアプローチも多い。もちろん生理学と無縁なのではなく,現象を作り出している根源が生理学的要素から発生していたり,現象が生理学的機能に影響を与えることが多いという点で,看護全般にわたって重要な位置を占めていることがわかる。このことからすれば,むしろ特定のカテゴリーとして独立させるよりは,すべてのカテゴリーに共通する基礎的な要素として扱うほうが自然である。
 ゴードンの機能的健康パターンによる分類(表5)は,ナースが直接的に関わることの多いカテゴリーで構成されている。
 今回発表された新原案がゴードンのカテゴリーに酷似していることは,誰の目からみても明らかである。しかし,そのことはさして重要なことではない。図1に示すように,タクソノミⅠは抽象度レベルという階層型を形成していたが,カテゴリーによって抽象度レベルの深さが異なるため,使用する時に混乱が生じる可能性があった。医学診断の分類が階層型をとっているので,医療従事者には階層型のほうがなじみやすいのかもしれない。医学が専門分野ごとに分化していることからすれば自然な流れであり,分野ごとに研究開発の進度によって細分化の程度が異なることもうなずける。しかし,看護においてはまだ診断という行為そのものが開発途上のため,細分化できるところまで至っていない。たとえ開発が進んだとしても,ホリスティック(全人的)な観察を求められる以上,特定のカテゴリーへの偏りは,説明を受ける患者にとっても混乱の原因となりかねない。

共通言語化への指標に

 図2に示すように新原案では,分類上の階層を単純に3層構造にしている。この分類の方法は,詳細分析が未発達な場合に有効である。カテゴリーを表わすドメイン層に階層的な重みを負わせず,属性に相当するクラス層で具体的な概念への橋渡しを行なう。演繹的な手法が難しい場合には,帰納的なアプローチを取る典型的な形である。タクソノミⅠでは,抽象度レベルごとに中間的なラベルが存在していたため,使用時に混乱することがあった。しかし新原案では,抽象度レベルという考え方は姿を消し,すべてクラスと呼ばれる属性にラベルが格納されることになり,扱う上で非常にわかりやすくなった感がある。
 さらに,新原案で新たに発表された概念には5つの軸(Axis)がある(表6)。これを見ただけでは,この軸が何を意味するのかを理解するのは難しい。しかし,この軸という概念は,新原案の3層構造よりも大きな意味を持っていると言っても過言ではない。タクソノミⅠでは,すべてのラベルに共通する概念を定義することが構造上難しかった。それは抽象度レベルという階層構造が持つ中間概念が,上位概念を順に継承する形を取っていたために生じた問題である。それに対し3層構造をとることで,上位概念の継承はなくなり単純化されたため,すべてのラベルを貫く形で共通概念を設けることが可能となったのである。
 またこの軸という概念を設けることによって,さらなる課題に手をつけることが可能となった。それは国際的共通言語として避けて通れない宗教の問題であり,人種やイデオロギーの問題であり,しきたりの問題などである。新原案の持つ構造がこれらの概念を明示的に扱うことを可能にした。
 図2で示す多軸空間では,複数の矢印が球体を貫いている。これは,3次元の球体を表現しているのではなく,図に表すことができないためあえて球体にしただけである。それぞれの軸は,独自の次元を持ち,他の次元とのつながりはほとんどない。つまり宗教のように交わることのない概念同士を,同じ空間で扱うことができる可能性を示している。このことは,看護にとって大変重要なことである。医学と異なり,心理社会的な面を扱うことが多く,地域の文化や価値観に左右される看護は,共通言語化することが非常に難しいとされていた。しかし,軸という概念を設けることによって柔軟に表現できることが可能となり,分類上の位置づけが難しいために保留されていた診断ラベルが一気に整理される可能性が出てきたといえる。
 NANDAが看護診断を共通言語化したがっていることは前述した。看護診断ラベルがICD(国際疾病分類)へ組み入れられることは,彼等の悲願である。今回の新原案が彼等の夢を現実へ近づける大きな役割を担っていることを強く感じさせられた。地域や国ごとにラベルが定義できる構造を持ったことで,各国の独自のラベル開発に拍車がかかることが予測できる。そのためにも,日本独自の診断ラベルを提案することが望まれてもいる。

おわりに

 詳報として書かせていただいたが,十分に表現しきれていない。意味のわかりにくい点があったらお許しを願いたい。
 また筆者は,さる5月30-31日に仙台で行なわれた第4回日本看護診断学会(本紙4面参照)において,タクソノミⅡ新原案を資料として1000部配布したがすべてなくなった。これは参加者の関心が高いことを裏づけていると思う。改めて研究者の1人として,最新の情報を提供できるように努力するとともに,看護診断の日本でのさらなる普及に力を注いでいきたいと,切に思っている次第である。