医学界新聞

“次代を担う整形外科学および整形外科医療の点検と展望”をメインテーマに

第71回日本整形外科学会開催


 高齢化社会の到来の中で,骨・関節の健康維持に対する国民の期待は大きく,整形外科はますます重要な医学・医療領域となっている。日本整形外科学会(以下,日整会)は1万8千余名の会員数を誇る,わが国の医学界の中でも有数のマンモス学会の1つであるが,その第71回学術集会が井形高明会長(徳島大教授)のもとで,さる4月17-20日,徳島市のホテル・クレメントを主会場に開催された。「次代を担う整形外科学および整形外科医療の点検と展望」をメインテーマに掲げた今回の学術集会は,会長講演の他,シンポジウム9題,パネルディスカッション14題,今年退官された教授による特別講演13題,藤島博文記念講演等を中心に展開された。学術セッションの中心となる一般演題は654演題が採用され,連日活発な発表と討議が行なわれた。
 また,「専門分野の新しい動き」と題する特別講演10題と組み合わせて設定された教育研修講演の他,ランチョンおよびイブニングレクチャーでも「対立する治療法」や「愛用する手術手技」など研修色に重点が置かれ,さらに医療に対する一般市民のニーズと関心に対応して,「国際シンポジウム」,「国際スポーツラマ98TOKUSHIMA」,「整形外科看護国際フォーラム」などが企画された。


整形外科における学際領域
21世紀に向けての展開

“Orthopaedics”から“Orthogeriatrics”へ

 シンポジウム「整形外科における学際領域-21世紀に向けての展開」は,「“Applied Science”としての医学はもともと学際領域に位置していた。例えば,100年前のレントゲンによるX線の発見は,その後の整形外科を大きく変えた。また,40年前に整形外科の中心だったLCC(先天性股関節脱臼)・内反足・脊椎カリエスは,今日ではすでに古典的疾患となった。そして,現代の整形外科外来は高齢者に満ち溢れており,整形外科はかつての“Orthopaedics”から“Orthogeriatrics”へと変化した。このシンポジウムでは,21世紀の後半は無理としても,少なくとも前半の変貌を予測したい」(座長の言葉)という意図のもとに,同学会の前々および前理事長である山内裕雄氏(順大名誉教授)と小川亮惠氏(関西医大教授)を座長に迎えて開かれ,文字どおり今回のメインテーマに即したものであり,6名の発表を経た後に,フロアを交えて興味深い討議が展開された。

停滞気味の学際研究にブレイクスルーを

 最初に登壇した黒川高秀氏(東大名誉教授・現理事長)は,「本日はやや独断的な話になるかもしれませんが,3月に東大を退官したので気の弛みとご容赦いただきたい」とユーモアを含んだ前置きをしつつも,整形外科全般に対して鋭く指摘。「整形外科の専門性は臨床にあり,固有の研究手法はないために学際性は不可欠であるにもかかわらず,学際領域としての理学療法,装具,筋電図等の領域は研究が停滞気味である。この点をブレイクスルーさせるためのエネルギーをどこに求めればよいのか?」と問いかけた黒川氏さらには,「他の分野の研究を動機づける整形外科を実現するためには,研究者の人的交流が必要である。学際性は個人の人格の統合によってなされるので,研究者はそれぞれの専門領域内で固有の価値を保つべきである」と問題提起した。
 黒川氏の提起を受けて登壇した酒匂崇氏氏(鹿児島大)は,「整形外科分野においても分子生物学的研究が重要になっている」とまず指摘。同氏の教室で推進しているOPLL(後縦靭帯骨化症)の原因遺伝子の解析やBMP(骨形成蛋白)に関する最新の成果を紹介して,「分子生物学的研究を推進するためには,国内外の研究者との共同研究が必須である」と強調した。

21世紀の高齢者社会に向けて

 今学術集会会長の井形氏は,“次世代を担う整形外科スポーツ医に求められている課題”に言及し,「21世紀の高齢者の世紀における“健康”,“生活の質”の視点から,スポーツ医学・医療に求められている役割を果たすためには,日整会スポーツ医制度をさらに発展させるべきである」と述べた。
 また同様に,高齢者のQOL維持・向上の視点から,長寿社会で増加している骨粗鬆症に言及した高橋栄明氏(新潟大)は,患者のQOLをいかにしたら豊かにできるかという学際的な取り組みの中で整形外科医が働く余地があることを指摘した。
 一方,越智隆弘氏(阪大)は整形外科学と内科学の両面から,その原因解明と治療方法が模索されているRA(慢性関節リウマチ)に言及し,「運動器をその治療対象とする整形外科医はリウマチの基礎研究において,大きなadvantageを持っているはずだ」と述べた。また同氏は,厚生省等の難病治療研究班等における経験から,推進中の最新の研究動向を紹介。「整形外科の各分野の再建手術が今後のリウマチ医療の重要な柱。RAの治療は1人のリウマチ専門家によるものではなく整形外科医チームとしてあたるべきだ。今後とも整形外科医は,運動器の診療・研究にイニシアチブをとって推進すべきである」と強調した。

リハビリテーション医の立場からの発言も

 このシンポジウムに唯1人リハビリテーション医の立場から参加した米本恭三氏(慈恵医大・現都立保健科学大)は,「学際領域をテーマにしたシンポジウムだから言うのではないが,リハビリテーション医学は元来すべての疾病で引き起こされる運動器や,コミュニケーション障害などに関わる学際的な領域である。先ほどの座長の“Orthogeriatrics”という言葉を考えると,廃用症候群の問題,患者の残存能力を最大限かつ短期間にいかに引き出すか,また社会復帰における問題等々,リハ医が果たすべき役割は大きい。整形外科とリハビリテーションの両者が協力していくことがより一層大切だ」と述べた。
 以上のような各発言を踏まえての総合討論においても,「過去30年間の整形外科はinstrumentationに追われてきた観がある」,「これまで救命(life saving)が中心であった健康観の変換が起こっている中で,運動器を扱う整形外科医こそQOLを豊かにする医療に貢献できよう」,「整形外科においてもtissue engineeringの領域が大切になろう」等々の意見が出され,21世紀に向けて整形外科医のさらなる活躍に期待を投げかけた。