医学界新聞

“価値ある人生のための医学・医療”をテーマに

第95回日本内科学会が開催される


 第95回日本内科学会が,さる4月9-11日の3日間,仁保喜之会頭(九州大学附属病院長)のもと,福岡市のマリンメッセ福岡を主会場に開催された。
 今学会では,“価値ある人生のための医学・医療”をメインテーマに,3題のシンポジウムをはじめ,教育講演18題,宿題報告5題,パネルディスカッション等が企画された。本号では,この中からシンポジウム「がん診療の現状」,および関連行事として行なわれ,満席の盛況を得た第9回認定内科専門医会講演会での特別講演「内科専門医としてのprofession」(聖路加国際病院名誉院長 日野原重明氏),シンポジウム「インフォームドコンセント」について報告する。


癌診療の現状から次世紀のあり方を問う

 シンポジウム「がん診療の現状」(司会=国立がんセンター総長 阿部薫氏,名市大教授 上田龍三氏)は,1976年に死因の第1位となり,その後も増加を続け21世紀の半ばまではその場を譲らないと予想される「癌」の診療領域に焦点をあて,医用電子工学,遺伝子診断などの現状をまとめながら,次世紀の癌診療のあり方を展望する主旨で企画された。
 シンポジウム開始に先立ち,司会の阿部氏は,国立がんセンター中央病院における1964年以降の癌の5年生存率(10年ごと)が,41.2%→47.2%→55.0%→59.3%と上昇していることを報告。コンピュータの進歩が癌の早期診断,早期治療を可能にしたことを大きな要因としてあげた。

画像診断・遺伝子診断・分子標的治療

 阿部氏の演説を受けた形で,森山紀之氏(国立がんセンター東病院部長)は,癌の画像診断を解説。「画像診断は,コンピュータの導入により飛躍的な進歩をみた」として,現在も機器の性能向上をはじめ,検査方法,造影剤の開発が進んでいることを述べるとともに,「肺癌検診で著明な効果を示すヘリカルCTをはじめとする3次元画像機器など,診断と治療が直結した機器の開発が進むだろう」と今後を予測した。
 また,癌の遺伝子診断については司会の上田氏が口演。「癌は正常細胞における遺伝子異常の積み重ねから生じることが明らかとなった」と述べ,多発性骨髄腫を例に多発性発癌機構を解説。さらに,癌遺伝子診断の臨床応用としての確定診断についても解説を加えた。その一方で,微小残存病変の検出法の開発から発癌再発予知や阻止が可能になることなど,遺伝子診断は21世紀の癌の遺伝子診療への基盤的な成果をあげていることを指摘した。
 中野修治氏(九大)は,化学療法の視点から,殺細胞効果を狙った従来の化学療法とはまったく異なる治療アプローチであり,癌との共存を視野に入れた「分子標的治療」を解説。シグナル伝達機構,薬剤耐性遺伝子,癌抑制遺伝子,血管新生関連分子,浸潤転移関連分子,アポトーシス機構などを標的に,癌化におけるシグナル伝達系の研究を進めていることを明らかにするとともに,癌化学療法における分子標的治療の意義と治療戦略について述べた。

免疫療法の可能性から情報利用まで

 珠玖洋氏(三重大教授)は,癌の免疫療法の可能性について口演。「悪性腫瘍に対してはさまざまな免疫療法が行なわれてきたが,治療の一角を確立するまでには至っていない」としながら,腫瘍細胞に発現する遺伝子由来のペプチドが,癌抑制の可能性があることを示唆し,「癌免疫療法ができる基盤ができてきた」と報告した。
 柏木哲夫氏(阪大教授)は,「治療法を決定するのは患者」と前置きし,インフォームドコンセントおよび癌の緩和医療に関して話題を提供。今後はInformed Consent(IC)からInformed Communication Consent(ICC),Informed Sharing Consent(ISC)への転換を提唱した。
 最後に水島洋氏(国立がんセンター研がん治療支援情報研究室)は,国立がんセンターが1994年から実施している「がん診療総合システム」の一環であるスーパーコンピュータを利用した多地点HDTV静止画像連携システムを紹介。全国12施設間でのインターネット,TVカンファレンスの実状や,海外との遠隔医療実験などの試みを報告し,今後の課題としては「参加者の増加,操作負荷の軽減」を指摘した。


内科専門医に求められるものとは

 第9回認定内科専門医会講演会の特別講演「内科専門医としてのprofession」を行なった日野原氏は,「医に従事するものにはmission(使命)がなければならない」と述べ,オスラー,アリストテレス,ソクラテス,タマルティ,オルテガらの言葉を援用し,医学がその使命を忘れてしまった時の危険性と,それを克服するために医師が持つべき批判的精神と知性について解説。その上で,医師が持つべき臨床能力として(1)感性,(2)問題の抽出,(3)問題解決技法,(4)マネジメント,(5)教育を提示。日野原氏は,「医師とは修得された知的職業(Learned Profession)」であり,「We are stewards of our profession(我ら職業の下僕)」(L.Scherr)の言葉で講演を締めくくった。

インフォームドコンセントの条件

 続いて行なわれたシンポジウム「インフォームドコンセント」(司会=聖路加国際病院 西崎統氏,山鹿市立病院 俵哲氏)では,初めに下稲葉康之氏(福岡亀山栄光病院副院長・ホスピス長)が医師の立場から発言。告知の条件として,患者本人の受容能力,患者・家族間およびスタッフ間の信頼関係・コミュニケーションを強調し,スタッフの側には(1)患者・家族をしっかり受けとめてケアをする覚悟,(2)身体的苦痛のコントロール,(3)チームアプローチ,(4)ホスピスの心,が求められると述べた。
 次いで,波平恵美子氏(お茶の水女子大教授)は,「家族の同意を得ずして患者への告知を行なった場合,しばしば家族がスタッフに対して抗議をすることが発生しており,日本においてインフォームドコンセント(以下IC)が一般化しないことの要因の1つでもある」と問題意識を示し,その背景を多角的に検証した。
 最後に発言した小林洋二氏(九州合同法律事務所,患者の権利をつくる会)は弁護士の立場から,「医師が患者のために嘘をつくことが許される状況」をICをめぐる根本的な問題として提示。「情報開示とは,本来患者に対してしかあり得ず,医療はまず本人の意思を尊重しなければならない」との大前提を強調し,ICが確立するためには,「それをどのようになすべきかというスタンダードを浸透させることが不可欠である」と指摘した。また,「医療者は嘘をつかないというマニフェスト」としてカルテ開示を推し進めるべきであると,患者の権利を守る立場からの医療者への要望を述べた。